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第3章 ヒロイン登場

第15話「ベルンハルトは空を飛ぶ」

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「グレン……っ! 怖い!! もうちょっとゆっくり……!!!」

「大丈夫ですよ、ほら……もっと俺にしがみついて」

 なんでこいつ一々ちょっとそれっぽい言い方――なにがとは言わないけど――すんだろ。

 
 ――でも今のは赤谷せきやくんが誘ってたと思う!!
 ――お前も無自覚誘い受けにならないか。いや、でももう自覚しちゃったからなれないね。そう、それはさながら納豆が大豆に戻れないような(以下略)。
 
 ……イマジナリー井上さんがオレにもっと誘えと囁いている。

 お言葉ですが井上さん。
 オレがこういうBLっぽい言い回しを無意識にしてしまうのは、貴女にさんっざんっ!!! 大量のっ!!! ボーイズラブ小説やら漫画やらを読まされた影響ではないでしょうか。


 本当に、一体全体なんの意味があるのかと訊きたくなるほど、毎日のように読まされた。
 オレが読もうとしないときは耳から流し込まれることもあった。

 ……彼女女の子の声で朗読、みたいな官能的な展開じゃない。声優さん同士のやつね。それもわざわざ古いCDプレイヤーを部室に持ち込んでまで。スマホに入れてくりゃいいのに井上さんは結構アナログだった。


 今となってはいい思い出だ。
 粘度様々な体液にまみれた少年たちの姿とともにしか思い出せないが、君はオレにとって生涯ただ一人の友人だったよ。

 井上さん。君だけはオレの葬式で泣いてくれていたと信じてるからな……!

 ――いや、別に泣かないよ。私は赤谷くんみたいに泣き虫じゃないから。

 薄情だな井上さん! あとオレは泣き虫ではない。

 ――でもいま、泣いてるよね?

 いやこれはさ、仕方なくない……?


「なぁ……もっと低いところ飛べない……?」

 そう。オレは今、空を飛んでいる。
 なにを寝ぼけたことを、と思われるかもしれないが、そうとしか表現できない。

 生身で空を飛ぶのって正直あこがれてたけど……普通にめっちゃ怖い!!!



 ◇◆◇



 モンスターの出現した川から離れ、オレたちはひとまず適当な岩へと腰を下ろした。(もちろん服は着ました。)
 
 
 グレンが手掴みで捕まえた魚(顔に見合わずワイルドだね)を魔法で焼いて、遅めの朝食を摂る。

 さっき凶暴化してた魚たち、或いはあのモンスターが魚になった――戻った?――姿だと思うと若干複雑だけど、味は美味しい。
 
 米と味噌汁も欲しいな。
 朝から魚焼くとかめんどくさ……贅沢なことは生まれてこのかたしたことないけど、“これぞ朝ごはん!“ってのが食べたい。

 お米生産するスキルとかないのかな……能力名なんだろ、コンバイン……?

「食べ終わったら移動しましょうか。目的地は伯爵家……貴方の生家で間違いないですね?」

「ああ、うん」

 グレンに後でそういうスキルないか確認しよ。
 
 でもあれだっけ……一応【皇帝インペラトル】にも制約はあって、確かグレン自身が“ある“と存在を認識してる知っている能力しか使えない……だったはず。

 ……これ、もしかして設定ノートに書いただけで小説内に反映してないかも。
 叔父さんが“少しぐらい制約があった方が盛り上がるよ“って言うから書いたけど、オレはチート主人公は一切の苦労なく勝利するべき派閥だから。
 
「方法ですが、ワープと飛行での移動ならどちらがいいですか?」

 ん? 急になんだその選択肢。
 焼き魚には醤油はかけなくてもいい派だけど? あれ、朝ごはんの話終わったんだっけ。

「……なにが?」

「ああ、言葉足らずでしたね。俺がさっき得た【能力スキル】が……わかりやすく言えば、この世界に存在する全てのスキルを扱うことができるスキルなんです」

 ああ、ハイ。
 それは重々承知しておりますが。

「ふーん……で?」

「はい。なので手っ取り早く、ワープか飛行のスキルを使って伯爵領を目指そうかと」

 ……は?

「ワープ……」

「そうですね。速いのはもちろんワープなんですが……座標の指定を正確にできないと……この場合だと、俺とベルとがまったく同じ景色を思い浮かべないと、上手くいかないんです」

 いや、今のは“ワープがいいです“って返事じゃないよ? まだ前の話が理解できてないから進めないで??

「失敗も、あるってことか?」

 わかんないけど、とにかくこれだけ訊いとこ。
 
「ええ。もしかすると、身体の一部分だけこっちに取り残されるかもしれません」

 リスク高すぎんだろ! 最初から選択肢に入れんな!!

「……飛行で」

「わかりました。飛行スキルは色々種類があって……どれがいいかな。羽が生えるやつとか……」

 オレの返事にグレンは何故かとても楽しそうにニコニコし始めた。擬音を付けるならルンルン♪かな。
 うっかり可愛いとか思っちゃいそうな自分がいて怖いんで、やめてもらっていいですかね。

「羽か……」

「ベルには純白の翼が似合うと思います」

 あ、オレにもつけれんの? 翼を授けてくれる感じ?? すごいね、さすがチートスキル!

 やっぱあの制約は反映されてなさそうだ。
 だって、ワープスキルの持ち主と会うエピソードないし、そんな色んな種類の飛行スキルの設定なんか作ってないし。

「ああ、でも……危ないか……残念だけど諦めます」

「え」

 諦めちゃうの? いつもしつこいのになんだお前。ちょっと楽しみにしてたオレの気持ち返して。

「貴方は高いところがあまり得意じゃないでしょう? だから、もし空中でモンスターに襲われた場合にそなえて俺が抱えて飛びます」

 また抱っこ? お前それ本当の理由だろうな。なんか口実にしてないか?

「……わかった」

 色々言いたいことはあるが、確かに空中で襲われたらパニックになって墜落する自信がある。

 もういいや。なんかめんどいし、着くまで寝とこ……。



 ◇◆◇



 ――そんな風に余裕だったのが一時間ほど前。

 寝れるか!! こんな状況で!!!

 
「ごめんなさい、これ以上高度を低くすると……目眩しの魔法をかけているとはいえ、人の目に触れてしまう恐れがあるので」

 あー……じゃあやめとこう。
 こんなお姫様抱っこされた上、必死にしがみついて半べそかいてる姿なんて絶対に人目に晒したくない。

「ならなんでもいいからなんか話せ。オレの気が紛れるように」
 
 『素数』を数えて落ち着くのも、もう限界だ……! 素数ってなんだっけ……。1+1はみそスープ……。

「なんでもいいんですね? なら……俺の天使の話をします」

 グレンは、花が咲くようなものすごくいい笑顔をオレに向けた。

 ――天使?

 さっきも純白の翼がどうこう言ってたな……これ文脈的に、天使ってオレか……? 
 
 いや、さすがに自意識過剰だ。
 BLの強制過剰摂取で思考がおかしくなってるんだ。

「それでいい……とにかく落ちたら死ぬことを忘れさせてくれ……」

「絶対に落としませんし、もし落ちても貴方だけは俺が死なせませんよ――ベル。俺だけの天使」


 ――やっぱオレかい!!!
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