8 / 93
第2章 スキル覚醒
第8話「勇者は現実逃避します」
しおりを挟む
状況がまだ飲み込めていないらしく(オレもだけど)困惑するセシリアとドロシーを置いて宿屋を出……。
「ベル」
――出たかったな~。
グレンが離してくれないので無理でした!!!
くそっ……訳分からん宣言して気まずいからさっさと身を隠したいのに……。
「言いたいことは沢山ありますが……とりあえず」
「うわっ」
突然横向きに抱き上げられた。お姫様抱っこと呼ばれるあの小っ恥ずかしい体勢だ。
「おい! なんの真似だ!」
いや……いくらベルンハルトの体格がオレを参考にした――コンプレックスを押し付けた――せいで貧弱で貧相で、グレンが叔父さん準拠で細マッチョだからってこれはさすがにちょっと傷つくんですけど。
うわっ……オレの体重、軽すぎ……?
あまりの情けなさにセシリアとドロシー(と、存在を忘れつつあった宿屋の主人)の顔は見れなかった。
「ベルンハルトさん。貴方……昨日ろくに寝れてないんじゃないですか? 一度休んだ方がいい」
声だけは穏やかに、グレンは軽々とオレを横抱きにしたまま階段を登っていく。
……わ~かっこいい~……。
なんかあれですね。井上さんの理想の“攻め“みたい。
井上さんは“攻めたる者、受けの一人や二人抱き抱えられなくてどうする“派閥(他にどんな派閥があるのかは知らん)の人間らしく、彼女の書く小説には顎クイと同じぐらいお姫様抱っこが頻出した。
往々にして、攻めが受けを抱き抱えて、優しい言葉をかけながら連れていくのはベッドの上。
そしてそこで行われることと言えば当然――。
――っていや! オレは“受け“じゃないし……!!
◇
「ベルンハルト」
オレはまたベッドの上、グレンを見上げていた。なにこのデジャビュ……。
「グレ、ン……」
グレンの顔が近づいてくる。
昨日のことを踏まえれば……この後に起こるのはああいう……あれだよなぁ。
男同士、ベッドの上。何も起きないはずがなく……。
覚悟してぎゅっと目を閉じる。
ついでに念のため胸の前で手を組んで乳首もガードしておいた。
「熱は……ありませんね」
――のに。
グレンはおでこをオレのおでこに押し当てて、体温を測りはじめた。
け、健全~~!!! オレの覚悟返せ!!!
「ねぇよ……お前が変なことするから寝不足なだけ」
「変なことって?」
余裕綽々に首を傾げて頬を撫でてくるその仕草はイケメンにしか許されない。
グレンくんはイケメンだから許されるね。あ、今のオレもイケメンだったわ。今度やってみようかな……できるかな……。
「……触ったり、するやつ」
ああ、ベッドに寝かされたせいで眠気が……。思考がほわほわしてくる。
「また、ベッド連れてこられたから……おんなじの、されるのかと思った」
そんなほわほわ回路で口走ってから気がついた。
あー……これ、ダメなやつだわぁ……。
「――誘ってる?」
はい出た~。攻め語録~!
状況を整理しようと同じぐらい言う機会ないけど、これは別に言いたくないし言われたくない。
「誘ってない……休ませてくれるんじゃなかったのか」
「そのつもりだったんですけどね。貴方にそんな可愛いこと言われたら――我慢、できなくなりそうだ」
攻め語録パート2……。大盤振る舞いですねー。
「我慢しろ……」
「勿論……貴方に、無理はさせませんよ」
そう言われて“無理“させられてない受けくんをオレは見たことない。
大体なんかすごい脚開かされたりしてるイメージなんだけど……オレ多分あんなに関節柔らかくないし、グレンの力でやられたら折れる気がする。
「っ、触んな……近づくな……」
一応言ってみるが効果はなさそうだ。
白のロングブーツから始まり、長く重い白のコート、防弾防刃(と肉のかさ増し)効果のある白のベスト、金のベルト……と次々にグレンの手で脱がされていく。
――さっき着てるときも思ったけど、ベルンハルトの衣装はほとんど白一色だ。異世界だしカレーを食べる機会はないとして、コーヒーとか飲むとき緊張しそう~。
残された薄手のシャツとズボンも白。
「……緊張してるんですか」
グレンの顔が近づいてくる。唇と唇の距離がどんどんなくなって――。
すぐに、離れた。
「……は?」
本当にただ触れるだけの軽いキス。昨日みたいに舌も入れられてない。
「え? なんで?」
「なんでって……無理はさせないって言ったでしょう」
グレンは立ち上がって甲斐甲斐しくオレの身体をシーツで包んでいく。
ああ、脱がせてたのって寝やすいようにだったんですね。こっちは息継ぎのタイミングとかさぁ……覚悟決めて色々考えてたのに……。
「はぁ……色々考えて損した」
そうだ。なんかバグってたせいで忘れてたけど、グレンは人格者っていう設定なんだから、あからさまに体調悪そうなときにまで妙なことはしないか。
「……ベル、貴方。俺の自制心に感謝してくださいよ」
髪を撫でながら不穏なこと言ってるけど。グレンくんは人格者……人格者だから……っ!!!
「しねぇよ……眠い」
「ええ、おやすみなさい」
髪を撫でられると、なぜだかお母さんを思い出す。オレよりも大きな硬い男の手は、彼女のものとは似ても似つかないのに。
「ベル……愛してます」
その触れ方の繊細さが、伝わる優しさが――似ているのだろうか。
「今はゆっくり休んでください。起きたら――色々、話してもらわないといけませんから」
はい、前言撤回~。似てません!
言い方が怖えよ!!! やっぱこの人ヤンデレだ。
オレは寝てるオレは寝てる……何も聞いてません!!
狸寝入りはきっと彼にはお見通しで、その上で見逃してくれていることを知りつつ、オレはシーツに顔を埋めて目を閉じた。
「ベル」
――出たかったな~。
グレンが離してくれないので無理でした!!!
くそっ……訳分からん宣言して気まずいからさっさと身を隠したいのに……。
「言いたいことは沢山ありますが……とりあえず」
「うわっ」
突然横向きに抱き上げられた。お姫様抱っこと呼ばれるあの小っ恥ずかしい体勢だ。
「おい! なんの真似だ!」
いや……いくらベルンハルトの体格がオレを参考にした――コンプレックスを押し付けた――せいで貧弱で貧相で、グレンが叔父さん準拠で細マッチョだからってこれはさすがにちょっと傷つくんですけど。
うわっ……オレの体重、軽すぎ……?
あまりの情けなさにセシリアとドロシー(と、存在を忘れつつあった宿屋の主人)の顔は見れなかった。
「ベルンハルトさん。貴方……昨日ろくに寝れてないんじゃないですか? 一度休んだ方がいい」
声だけは穏やかに、グレンは軽々とオレを横抱きにしたまま階段を登っていく。
……わ~かっこいい~……。
なんかあれですね。井上さんの理想の“攻め“みたい。
井上さんは“攻めたる者、受けの一人や二人抱き抱えられなくてどうする“派閥(他にどんな派閥があるのかは知らん)の人間らしく、彼女の書く小説には顎クイと同じぐらいお姫様抱っこが頻出した。
往々にして、攻めが受けを抱き抱えて、優しい言葉をかけながら連れていくのはベッドの上。
そしてそこで行われることと言えば当然――。
――っていや! オレは“受け“じゃないし……!!
◇
「ベルンハルト」
オレはまたベッドの上、グレンを見上げていた。なにこのデジャビュ……。
「グレ、ン……」
グレンの顔が近づいてくる。
昨日のことを踏まえれば……この後に起こるのはああいう……あれだよなぁ。
男同士、ベッドの上。何も起きないはずがなく……。
覚悟してぎゅっと目を閉じる。
ついでに念のため胸の前で手を組んで乳首もガードしておいた。
「熱は……ありませんね」
――のに。
グレンはおでこをオレのおでこに押し当てて、体温を測りはじめた。
け、健全~~!!! オレの覚悟返せ!!!
「ねぇよ……お前が変なことするから寝不足なだけ」
「変なことって?」
余裕綽々に首を傾げて頬を撫でてくるその仕草はイケメンにしか許されない。
グレンくんはイケメンだから許されるね。あ、今のオレもイケメンだったわ。今度やってみようかな……できるかな……。
「……触ったり、するやつ」
ああ、ベッドに寝かされたせいで眠気が……。思考がほわほわしてくる。
「また、ベッド連れてこられたから……おんなじの、されるのかと思った」
そんなほわほわ回路で口走ってから気がついた。
あー……これ、ダメなやつだわぁ……。
「――誘ってる?」
はい出た~。攻め語録~!
状況を整理しようと同じぐらい言う機会ないけど、これは別に言いたくないし言われたくない。
「誘ってない……休ませてくれるんじゃなかったのか」
「そのつもりだったんですけどね。貴方にそんな可愛いこと言われたら――我慢、できなくなりそうだ」
攻め語録パート2……。大盤振る舞いですねー。
「我慢しろ……」
「勿論……貴方に、無理はさせませんよ」
そう言われて“無理“させられてない受けくんをオレは見たことない。
大体なんかすごい脚開かされたりしてるイメージなんだけど……オレ多分あんなに関節柔らかくないし、グレンの力でやられたら折れる気がする。
「っ、触んな……近づくな……」
一応言ってみるが効果はなさそうだ。
白のロングブーツから始まり、長く重い白のコート、防弾防刃(と肉のかさ増し)効果のある白のベスト、金のベルト……と次々にグレンの手で脱がされていく。
――さっき着てるときも思ったけど、ベルンハルトの衣装はほとんど白一色だ。異世界だしカレーを食べる機会はないとして、コーヒーとか飲むとき緊張しそう~。
残された薄手のシャツとズボンも白。
「……緊張してるんですか」
グレンの顔が近づいてくる。唇と唇の距離がどんどんなくなって――。
すぐに、離れた。
「……は?」
本当にただ触れるだけの軽いキス。昨日みたいに舌も入れられてない。
「え? なんで?」
「なんでって……無理はさせないって言ったでしょう」
グレンは立ち上がって甲斐甲斐しくオレの身体をシーツで包んでいく。
ああ、脱がせてたのって寝やすいようにだったんですね。こっちは息継ぎのタイミングとかさぁ……覚悟決めて色々考えてたのに……。
「はぁ……色々考えて損した」
そうだ。なんかバグってたせいで忘れてたけど、グレンは人格者っていう設定なんだから、あからさまに体調悪そうなときにまで妙なことはしないか。
「……ベル、貴方。俺の自制心に感謝してくださいよ」
髪を撫でながら不穏なこと言ってるけど。グレンくんは人格者……人格者だから……っ!!!
「しねぇよ……眠い」
「ええ、おやすみなさい」
髪を撫でられると、なぜだかお母さんを思い出す。オレよりも大きな硬い男の手は、彼女のものとは似ても似つかないのに。
「ベル……愛してます」
その触れ方の繊細さが、伝わる優しさが――似ているのだろうか。
「今はゆっくり休んでください。起きたら――色々、話してもらわないといけませんから」
はい、前言撤回~。似てません!
言い方が怖えよ!!! やっぱこの人ヤンデレだ。
オレは寝てるオレは寝てる……何も聞いてません!!
狸寝入りはきっと彼にはお見通しで、その上で見逃してくれていることを知りつつ、オレはシーツに顔を埋めて目を閉じた。
227
お気に入りに追加
714
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる