9 / 16
湯けむりと異世界と
9話 色々と間違った文化
しおりを挟む
安らぎを求めて俺はこの湖の温泉で寛いでいたはずだった。
だが、今は冷水風呂に浸かっている時のように凍えるほどに身体が硬直して、身体中に張り付くような緊張で変な汗が身体中から吹き出していた。
「あ、あの……。
どうして、サラさんがこちらに?
しかも、そのようなお姿で……」
異世界エリアス王国と日本の外交を繋ぐ重要なキーカードとしてここに派遣されたダークエルフの女性サラさんは、事もあろうに裸にタオル一枚だけを巻いて隠すというあられもない姿で、俺の右隣に腰掛けて温泉に浸かっていた。
手を横に伸ばせば、簡単に届きそうな近距離に彼女はいて、それほど間近な位置にいるからか、何だろうか、女性特有の仄かないい香りが山麓の微風と共に流されて、俺の鼻腔を優しくくすぐっていた。
桃源郷の白桃の木の馨しい花の香りがサラさんの身体中から漂っていて、俺は思わずその香りの出処と本質を調べたくなって、その芳香に誘われるように俺は無意識に目線をそっと彼女の身体に向けてしまった。
俺の目に映ったのは、ダークエルフの特徴的な小麦色の肌。
そして、男の鼻息を荒く立てる女性の塑像の彫刻の如き芸術的に彫られた艶めかしい鎖骨のライン。
鎖骨の綺麗なT字のラインを綴るように視線を下へとゆっくりと動かせば、既にそこは桃源郷であった。
それは隆々と聳える2つのチョコーレートケーキの峰のようで、覗くだけでもその優しい砂糖の魅惑的な甘さが伝わってきて、峰の谷間からはまろやかなチョコレートの香りがふわふわと漂ってきそうであった。
だが、それは決してスイーツのユートピアでも、女神の最高美を模した像でもない。
男のぎらついた眼差しに気づき、兎の長耳のようにぴくぴくと体を動かし、肩まで震わせて、顔を真っ赤に染めながら羞恥にじっと耐える貧弱で難儀な乙女であった。
そのか弱で憐れな姿に俺ははっと、理性を引き戻されて自分が今現在している事に気づいた。
誰もいないからと、油断してタオルも持ってこなかった故に、大事な前を隠す為の布がない状態で、俺はすぐさま慌てて、其の場凌ぎながら両手で前を覆い隠した。
そして、ザーと荒波と水飛沫を立てながら勢い良く水面から出て、「すみません!」とサラさんに頭を下げながら大きな声でそう言って、来た時と同じように俺はジャバジャバと駆け足で湖から後ろ近くの陸へと急いだ。
正常になっていたはずの頭の中はめちゃくちゃにこんがらがっていて、何も考えずただ陸に上がる事だけを考えていた。
そんな時……
「あの、待ってください!!」
ザーと水面から上がる音と共に、サラさんは徒ならぬ焦燥した声音で俺を呼んだ。
その声に俺は思わず体をびくっと震わせて、急いでいてぎこちなく駆けていた足をぴたっと止めた。
みっともない姿を見られたという羞恥心よりも、背中に重くのしかかる彼女の肉薄した声とどす黒い後悔の膜が俺の心を異様で、歪な形へと変化させていた。
それが俺にはよっぽど深刻な事に感じて、俺はそれらに対してまともな状態で接する為に、戦いから一時退却するように俺は陸へと今度は、悠長に歩き、やがて陸地に立つと手前にあった紙袋の中に入っていたタオルを取り出し、それを腰に巻いて、余った分の布は結んで取れないようにした。
(よし。)
色んな心の整理がついたことを確認すると、再び俺は悠然と陸を渡り、サラさんのいる水面の方へと堂々と闊歩した。
たかだか布1枚が、俺には鉄よりも硬い鉛玉さえ弾いてしまうような頑強な鎧のように感じて、それが自分のためにもサラさんのためにも必要なものであると考えた。
急に大きくなった態度(ただ、目線だけは遠くの白峰だけに向けていたが)で俺は戸惑い気味のサラさんにもう一度低い声で問うた。
「どうして、こちらに?」
すると、サラさんは少し早口でただ、依然バスタオルで前だけは見えないように隠しながら、慌てて答えた。
「そ、その四月一日さんと、お話がしたかったからです。」
「この格好でおはなしですか?」
「はい。
日本の温泉文化には古来より裸の付き合いというものがある、とお聞きました。
エリアス王国の臣民であり、外交官という立場の私としても日本の文化は前向きに受け入れ、全て取り入れていくつもりです。
ですから、四月一日さん。
どうか、これも文化交流の一環として捉えては頂けないでしょうか?」
お互い白布一枚だけの格好。
峰の山頂にかかる白妙を剥ぎ取った男とダークエルフの女は対峙する。
そして、その女の切実な心の叫びが静寂たる鉄紺色の水面に人知れず反響していた。
俺はその様子にぼけーと間抜けな顔を浮かべ、思考どころか感情すら停止して、いや寧ろサラさんの突飛で意外すぎる発言にどっと肩を崩して、先ほどまでの堂々たる態度はすっかり薄れてしまっていた。
ただただ、俺は彼女のその頼みに「はい!」と快く即答するほど柔軟で、適切な判断力は欠いていたのだった。
だが、今は冷水風呂に浸かっている時のように凍えるほどに身体が硬直して、身体中に張り付くような緊張で変な汗が身体中から吹き出していた。
「あ、あの……。
どうして、サラさんがこちらに?
しかも、そのようなお姿で……」
異世界エリアス王国と日本の外交を繋ぐ重要なキーカードとしてここに派遣されたダークエルフの女性サラさんは、事もあろうに裸にタオル一枚だけを巻いて隠すというあられもない姿で、俺の右隣に腰掛けて温泉に浸かっていた。
手を横に伸ばせば、簡単に届きそうな近距離に彼女はいて、それほど間近な位置にいるからか、何だろうか、女性特有の仄かないい香りが山麓の微風と共に流されて、俺の鼻腔を優しくくすぐっていた。
桃源郷の白桃の木の馨しい花の香りがサラさんの身体中から漂っていて、俺は思わずその香りの出処と本質を調べたくなって、その芳香に誘われるように俺は無意識に目線をそっと彼女の身体に向けてしまった。
俺の目に映ったのは、ダークエルフの特徴的な小麦色の肌。
そして、男の鼻息を荒く立てる女性の塑像の彫刻の如き芸術的に彫られた艶めかしい鎖骨のライン。
鎖骨の綺麗なT字のラインを綴るように視線を下へとゆっくりと動かせば、既にそこは桃源郷であった。
それは隆々と聳える2つのチョコーレートケーキの峰のようで、覗くだけでもその優しい砂糖の魅惑的な甘さが伝わってきて、峰の谷間からはまろやかなチョコレートの香りがふわふわと漂ってきそうであった。
だが、それは決してスイーツのユートピアでも、女神の最高美を模した像でもない。
男のぎらついた眼差しに気づき、兎の長耳のようにぴくぴくと体を動かし、肩まで震わせて、顔を真っ赤に染めながら羞恥にじっと耐える貧弱で難儀な乙女であった。
そのか弱で憐れな姿に俺ははっと、理性を引き戻されて自分が今現在している事に気づいた。
誰もいないからと、油断してタオルも持ってこなかった故に、大事な前を隠す為の布がない状態で、俺はすぐさま慌てて、其の場凌ぎながら両手で前を覆い隠した。
そして、ザーと荒波と水飛沫を立てながら勢い良く水面から出て、「すみません!」とサラさんに頭を下げながら大きな声でそう言って、来た時と同じように俺はジャバジャバと駆け足で湖から後ろ近くの陸へと急いだ。
正常になっていたはずの頭の中はめちゃくちゃにこんがらがっていて、何も考えずただ陸に上がる事だけを考えていた。
そんな時……
「あの、待ってください!!」
ザーと水面から上がる音と共に、サラさんは徒ならぬ焦燥した声音で俺を呼んだ。
その声に俺は思わず体をびくっと震わせて、急いでいてぎこちなく駆けていた足をぴたっと止めた。
みっともない姿を見られたという羞恥心よりも、背中に重くのしかかる彼女の肉薄した声とどす黒い後悔の膜が俺の心を異様で、歪な形へと変化させていた。
それが俺にはよっぽど深刻な事に感じて、俺はそれらに対してまともな状態で接する為に、戦いから一時退却するように俺は陸へと今度は、悠長に歩き、やがて陸地に立つと手前にあった紙袋の中に入っていたタオルを取り出し、それを腰に巻いて、余った分の布は結んで取れないようにした。
(よし。)
色んな心の整理がついたことを確認すると、再び俺は悠然と陸を渡り、サラさんのいる水面の方へと堂々と闊歩した。
たかだか布1枚が、俺には鉄よりも硬い鉛玉さえ弾いてしまうような頑強な鎧のように感じて、それが自分のためにもサラさんのためにも必要なものであると考えた。
急に大きくなった態度(ただ、目線だけは遠くの白峰だけに向けていたが)で俺は戸惑い気味のサラさんにもう一度低い声で問うた。
「どうして、こちらに?」
すると、サラさんは少し早口でただ、依然バスタオルで前だけは見えないように隠しながら、慌てて答えた。
「そ、その四月一日さんと、お話がしたかったからです。」
「この格好でおはなしですか?」
「はい。
日本の温泉文化には古来より裸の付き合いというものがある、とお聞きました。
エリアス王国の臣民であり、外交官という立場の私としても日本の文化は前向きに受け入れ、全て取り入れていくつもりです。
ですから、四月一日さん。
どうか、これも文化交流の一環として捉えては頂けないでしょうか?」
お互い白布一枚だけの格好。
峰の山頂にかかる白妙を剥ぎ取った男とダークエルフの女は対峙する。
そして、その女の切実な心の叫びが静寂たる鉄紺色の水面に人知れず反響していた。
俺はその様子にぼけーと間抜けな顔を浮かべ、思考どころか感情すら停止して、いや寧ろサラさんの突飛で意外すぎる発言にどっと肩を崩して、先ほどまでの堂々たる態度はすっかり薄れてしまっていた。
ただただ、俺は彼女のその頼みに「はい!」と快く即答するほど柔軟で、適切な判断力は欠いていたのだった。
0
お気に入りに追加
571
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)
幻田恋人
恋愛
夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。
でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。
親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。
童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。
許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…
僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる