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#48 永遠と刹那と庸子と広大 ―『Huh huh, Huh huh』―

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「じゃ、じゃあそろそろ演ろっか? まずは『And Y◯ur Bird Can Sing』で」
「私はいつでもオッケー!」
「あいよ」
「間違えたらごめんね永遠とわさん」

 私の号令にそれぞれが反応する。というかこれ以上色々あると進むものも進まないからね。ここ倉庫にいる理由が……あ。

 しまった。『ブッチャー精肉屋・カバー』のことですっかり肝心なことを忘れてた。ギター代えようと思ってたんだった。だって、ビー◯ルズを曲を、しかも四人でやるんだよ? まぁ編成は違うんだけど、どうせならあのギターで演りたいよね? たぶんヨーコさんは驚くし、喜ぶこと間違いないもん。

「あのね、ギター代えたいんだけどいいかな?」
「ん? そのギタームス◯ングじゃダメなの?」
「うん、ビー◯ルズだったら――」
「あー、か? 二番目に送ってきたやつ」
「そう、あれあれ。あれならビー◯ルズ弾くにはちょうどいいでしょ?」

 ツナは本格的に楽器をやっていないから、私のギター自体にはさほど興味はないんだけど、彼女とは反対に、コーちゃんは自身が楽器をやってるせいか、私がどんなギターを持ってて、それがいつ送られてきたものかまで把握してるのだ。

 コーちゃんの言う『アレ』っていうのは、ムーちゃんムス◯ングの次にパパが二番目に送ってきたギターで、確か転校してこの二人ツナとコーちゃんがお友達になってくれたことに喜んだパパがその記念に、って送ってくれたんだったかな。だからそのギターもムーちゃん同様に大事なギター。それを弾くたびに当時のこと――二人との楽しかった思い出――を鮮明に思い出せるくらいに大事なギターなのだ。

「じゃあちょっと待っててね」
「おう。あ、中見なかみ、永遠がこれから出すギター見てもビビるなよ」
「え? ギターでビビる?」
「あー、そういうことね。確かにそうなるかも。ってか永遠、なかなかに策士じゃん」

 もう、そんなんじゃないってば。忘れてただけで、ちゃんと計画のうちだったんだから。

 まずはムーちゃんをスタンドに立てて、が仕舞ってあるクローゼットに移動、待たせるのも悪いのでてきぱきとそれに手をかけて、ヨーコさんにバレないようにさっと取り出した。うんうん、弦も劣化してないみたいだね。というかこれもフミヤさんに持ってこいって言われてるんだよね。#612◯を取りに行く時でいいかな。

「ヨーコさん、これで弾きます!」

 ジャーンという効果音が似合いそうな感じでヨーコさんにそれを見せると、

「っ! と、永遠さんそれ!!」

 という予想通りの反応が返ってくる。ありがとうヨーコさん!

 さてさてそのギターとは『リッケ◯バッカー 325 Joh◯ Lennon Limited Edition』。かつてジョ◯が使っていた325を、リッケ◯バッカー社がのちにジョ◯モデルとして発売したもの。綺麗な黒い――ジェットグローっていうらしい――このギターだけはピックガードにアイヴィーのステッカーは貼られていない。というのも、最初からジョ◯のイラストと文字が印刷されてるから、貼られていないというよりは、貼るスペースがないだけ、なんだけど。

 ちょっと、というかかなり前のめりで325を舐めるように見入るヨーコさんの目はとりあえず見なかったことにして、そそくさと準備を始める。
 このギター、ピックアップが三個ついてるから、意外と音作りが難しいんだけど、全てのノブをマックス、いわゆる『フルテン』にしてアンプへと繋げる。今度、ジョ○のセッティングはどうなってるのか調べてみようかな。

 とりあえず『And Y◯ur Bird Can Sing』のキーであるEのローコードを鳴らして、コーちゃんに目配せする。この動作は「カウントはコーちゃんよろしく」の合図で、コーちゃんもそれに小さく首肯で応える。

「ワン・ツー・スリー・フォー」

 コーちゃんのいつものカウントで、夜の演奏会セッションが始まった。

 ✳︎          ✳︎          ✳︎

 結果からいうと、この演奏会は大成功だった。私もすごく楽しく弾けたし、ツナも色んな打楽器をとっかえひっかえしてノリノリだったし、ヨーコさんもなんの迷いもなく鍵盤を叩いていた。聞けば家でビー◯ルズの曲をアレンジしてピアノを弾いていたらしくて、みんなで演奏するってこんなに楽しいんだねって大喜びしてた。で、そんな女子たちに目を細めるコーちゃんも嬉しそうだった。

 私は『N◯where Man』の女子三声コーラスはすごく綺麗だと、歌いながら思った。それまではツナとの二声だったから、ひとつ声が増えるだけでこんなに厚くなるんだ、って。まぁヨーコさんの声が綺麗だからというのも大きいかも。

 時間を見ると、そろそろ寝る時間も迫ってきてるんだけど、まだあの曲を演ってないよね。そんな目をツナに向けると、

「よし! じゃあ最後にあの曲ね!」
「ん? あの曲ってなんだよ」

 スティックの先で背中を掻くコーちゃんが僅かに眉根を寄せる。そうか、三人だけでお風呂場で決めたんだもんね。コーちゃんが知るわけもない。

「あの曲って言ったらこの曲だよ!」

 と言いながら、いつの間にか手にマラカスを四つ――左右に二つずつ――持ったツナがそれを軽快に、かつ恍惚に身を堕とすように揺らし始めた。
 これだけを切り取って見ると、禍々しい何かを呼び出す儀式に見えてくる、と言いたいんだけどツナの可愛い容姿が邪魔して、ちっともそう見えない。

 チャッ・チャッ・チャッ・チャッチャッ!
 チャッ・チャッ・チャチャツ・チャッチャッ!

 二小節くらいそれを聴いたコーちゃんは、あぁそれなと一度椅子から立ち上がって、『倉庫』の奥の方から別の打楽器を小脇に抱えて戻ってきた。

 60cmほどの高さのそれを、座って脚の間に挟んでコーちゃんはツナの音に合わせ、トコトコと小気味よく叩き始める。

 胴の中央部が絞られた形状のそれは、アフリカの民族楽器で、名前は『ジャンベ』。

 この楽器は普通に叩くと割と低めの音が鳴るんだけど、原曲はコンガで叩かれてるから、それとは合わない。なのでコーちゃんはこの曲を叩く時、革の張りが強いリムに近い部分をミュートを巧みに混ぜて叩くことで再現している。というか相変わらず打楽器はなにやらせても上手だね。

 さて、私もギターを代えようかな。原曲はレス◯ールでレコーディングされてるらしいんだけど、うちにはないからなぁ。テレ◯ャスターにしようかなとも考えたけど、出すのも面倒だから再びムーちゃんを手に取る。

「Yow!」

 ピッとその場の空気がツナの声で締まる。それに呼応してヨーコさんも、

E―D―A―E

 と、全音符でコードをそのしなやかな指で奏でる。両肩をゆらりゆらりと揺らす度に髪もふわりふわりと揺れて、つい目を奪われてしまう。っと、私も加わらなきゃね。
 残念なことにここにはベースを弾く人がいないし、そもそもここ倉庫にはベースがないから、そのパートは私がリフとして弾くのが暗黙の了解になっていた。まぁ途中にはギターソロもあるから、その時ばかりは弾きまくりますけど。

 ちなみにこの曲を演奏する時はヴォーカルはコーちゃんが取る決まり。というかツナが合いの手で『Huh huh, Huh huh』って言いたいだけなので、仕方なくコーちゃんがヴォーカル、なんだけどね。
 とはいうものの、実はコーちゃんも歌詞なんかほとんど覚えてないからテキトー英語だったりする。

 徐々にみんなにもエンジンがかかり、演奏にも力が入る。

 さあ、悪魔を憐れもうか!


◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯


今回は最後の曲を、敢えて誰の何の曲か明確に書かない、というチャレンジをしてみました。とはいえわかる人にはすぐわかるくらい著名なバンドですが。ちなみに文中の『レスポール』とはアメリカのギターメーカー『ギブソン』社の代表的なギターです。プロでも使用者が多いこのギター、何故か永遠ちゃんは持っていません。それにも理由がありますが、それはいずれ、ということで。
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