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天才騎士と没落令嬢の出会い(孤児と貴族令嬢)

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男の最初の記憶は苦痛から始まる。
父は母を殴り、母は虚な目で男を世話した。
時に、父の怒りは幼い男にも向かった。

母が逃げるとすぐ、3歳ほどだった男は父によって捨てられた。大雨の日のことだ。
食べるものもなく寒さを凌ぐ家もなかった。
本能的に死を感じた。

生きようともがこうともせずにただ死を待つ男に温かい手を差し伸べてくれた少女は美しく、天使様がお迎えに来たと思ったほどだった。
 
そこから男は衣食住を十分に保障される代わりに幽閉され世間から隔離された。

しばらくすると男は少女直々に教養を叩き込まれ、ご主人様と呼ぶよう言われた。

主人は父のように暴力を振るうことはなかった。
ただ、男は逃げないように鎖で足をつなげられながら、求められれば愛を囁いた。

男は主人を愛した。
おそらく貴族の令嬢である主人を孤児の男は愛してしまった。
叶わぬ想いだった。


男がそこに来て10年ほどが経つと主人の家が没落した。

何があったかはわからなかったが、主人は修道院に送られると言った。

共に逃げようとした男を主人は突き放し鎖を解いた。

これを解かれては生きている意味すらわからないのに。
主人のためなら何でもできるのに。

しかし、男は主人の涙に弱かった。
いつも耐えている主人が涙を流し言った。
「あなたはもう自由になるべきだわ、広い世界を見るべきよ、普通ではない環境に置いた私を恨みなさい」

男は主人だけの世界で幸せだった。
恨みなどしないからまた会いたいと言えば、主人は「その考えはきっとなくなるわ」と僅かに笑った。

男も初めて涙を流した。
また会ってくれますかと泣いた。
それを見てやや目を見開いた主人は言った。
「もちろんよ、私、監禁するくらいあなたのことが好きなんだから」
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