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神の子ではないけれど不義理を働いた末にできた不義の子というには...[side王女(神の妻)&その護衛騎士だった男]
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【はるか昔のリレリアス王国の王女。】
王女は自分の護衛騎士に恋をしていたが身分差から想いを伝えるのを躊躇していた。
そうしてそのうちに神に気に入られてしまった。
護衛騎士への想いから婚約者がいないなど知る由もない神は、(よかった~相手がいたら引き裂くわけにはいかんからな!)と喜び、王女は国のためにプロポーズを受けた。
王族として生まれたからには義務であり覚悟していたことだった。
天界に行く直前、想いを伝えたかっただけの王女は護衛騎士も同じ気持ちだと知った。
そしてそのまま気持ちが昂ったような様子の護衛騎士に押し倒されてしまう。
《神に既娘を捧げるなどこの国は滅んでしまう》
必死に抵抗しようにも王女はか細く、護身術には長けているものの私生児から王女の護衛騎士にまで上り詰めた実力者である男には当然通じなかった。
なにより攻撃魔法が使えないことが痛手だった。過去に部屋に出た虫に驚き咄嗟に使ってしまい、魔力量が多すぎるために大惨事になり封じられていた。
そうして攻撃魔法が使えなくなった王女の安全のために付けられた男は、神の妻になる王女を押し倒して襲い、王女を守るどころか国まで滅ぼそうとしていた。
最善であり唯一の方法は王女が自らに避妊の魔法をかけることであり全力を尽くした。
なぜ、そこで子供ができてしまったのか。
理由は単純で大きく動揺したことで魔力が乱れたからだった。
しかし王女はそれに気付かず最期まで神の子供だと思っていた。
生まれた子は自分にそっくりだったし、どことなく愛する神にも似ていた。
その上、王女は魔法の天才だったため避妊魔法の失敗など思い浮かばなかったのだ。
しっかりと教育を受けていたが、出産日の計算が合わないことを不思議には思わなかった。
ただ、《神の子》だからだとしか考えなかった。それほどに王女にとって神は特別な存在だった。
不思議な能力を持ち合わせているかもしれない我が子に感動し、「この子はあなたと共に長く生きてくれるかしら?」と我が子を抱き、神に笑いかけた。
「長く生きれない人間の私に変わって神と長く幸せに生きてほしい」と心から願った。
王女は神のことをちゃんと好きになっていた。
護衛騎士のことを好きな感情は消え失せ、嫌いになっていた。
共に過ごしていくうちに穏やかな神に二度目の恋をしていた。
意外にも激務だった神は時間を作っては一途に愛を伝えてくれた。また、人間たちのために動く姿を尊敬し、深く愛するようになった。
一度目の燃え上がるような恋心とは違ったが、確かにじんわり温かい恋心が王女を満たしていった。
そこからなかなか手を出してこない神に真正面から向き合い、素直に気持ちを告げかわいい我が子を産むことができた。
王女は死ぬ間際も幸せだった。
愛する夫と我が子に手を握られながら微笑んだ。
「幸せでした。二人ともありがとう...」
最期に夫と息子へ、そう伝えた王女は(来世でも会えますように)と祈りながら息を引き取った。
【はるか昔の王女の護衛騎士。】
美しい王女が恋心を孕んだ瞳でチラチラと見てくるのが心地よかった。
美しい顔を活かし悟られぬよう高貴な王女を堕とした男は優越感に浸っていた。
そう、その男は歪んでいた。
歪みがどこからきたのか、少し彼の人生を見てみよう。
伯爵家の私生児だったその男は、伯爵の父と平民の母から生まれた。
その男の父は、後に本妻となる政略結婚の相手には婚約の前段階で恋人がいることを明かしていた。
さっぱりとした性格の本妻は想い人がいることやその間に子供ができることも許した。
そして貴族らしく優雅に微笑み言った。
「わたくしには恋愛というものがよくわかりません。しかし尊いものだと知っております。身分に関わらずそのような思いを持てることはうらやましく感じます。それに妻は夫の所有物同然のこの世の中で、束縛されないのは珍しく有難いので断る理由はありません。私たちは利害が一致しているのでうまくやっていけると思います」
意外にも肯定的なことに男の父は驚き、感謝をした。
その後、婚約を結ぶ前に大まかに二つの条件を出しけい
一.《自分との子を先に作り後継にする》
(貴族として生を受けた者の義務であり実家へ少しでも恩を返すため。)
《自由(所有物のような扱いをしない、許可なく監視や報告させない、など)》
(貴族として生を受けた以上覚悟してたことではあったが心の底からの願い。)
このように本妻は貴族としては少し変わっており心も広い人物だったため、男は私生児によくある、本妻による虐待や母と引き離されるなど壮絶な経験をせずに済んだ。
そして一般的な貴族のように裕福に暮らしながら教育も受けた。
一つだけ違うのは、正室腹の子供と違い社交界には出られなかったことだ。
男の母はしっかりと弁えていたが、その男はいくつになっても「父さんに愛されてるのは僕たちなのになんで舞踏会に行けないの!?」などと泣き喚きた。止める母を振り払い強行突破しようとし、力の強い男は家の騎士たち数人がかりで部屋に戻された。
元々得意だった剣を特訓して護衛騎士に上り詰めたが、心の歪みは戻らなかった。
むしろ加速したかもしれない。
神に気に入られた王女に告白されるのは最高に気持ちが良かった。
もしバレたらそのまま殺されてもいいくらいに。だが、バレないだろう。神は王女に心酔しているから。恋に溺れるなんて哀れなものだ。
そうして男の思惑通りになってしまったが、そう何度も見逃されるわけがなかった。男はのちに他の王女に手を出そうとして魔法で顔を焼かれた。取り柄である顔は火傷で爛れてしまった。その後捕らえられた男はさらに秘部をもぎ取られることになり、流刑地で短い生涯に幕を閉じた。精神錯乱状態で海に飛び込んでしまったようだった。
(母さんが平民だから悪いんだ)
(父さんが母さんを妾のままにしとくのが悪いんだ)
(兄さんたちも絶対見下してた!!)
(あの女、高貴ぶりやがって!!僕のことが好きなら神より優先すべきだろ?)
(あの女の周りは碌でもない。あいつの妹は顔を焼くし、あいつの父は秘部根こそぎ取って行った。ありえないだろ!!)
最後まで反省することなく、逆恨みながら人生を終えた。
歪み、それは一体どのときに始まったのか。
それは初めからだったかもしれない。
自分の視界に豪華な建物が目に入り、それが自分は入ることができない本邸だと知った時にはすでに———。
この男は天国には行けない。
魂が新たな世界に転生することもできない。
汚れ切った魂は処分するしかないのだ。
王女は自分の護衛騎士に恋をしていたが身分差から想いを伝えるのを躊躇していた。
そうしてそのうちに神に気に入られてしまった。
護衛騎士への想いから婚約者がいないなど知る由もない神は、(よかった~相手がいたら引き裂くわけにはいかんからな!)と喜び、王女は国のためにプロポーズを受けた。
王族として生まれたからには義務であり覚悟していたことだった。
天界に行く直前、想いを伝えたかっただけの王女は護衛騎士も同じ気持ちだと知った。
そしてそのまま気持ちが昂ったような様子の護衛騎士に押し倒されてしまう。
《神に既娘を捧げるなどこの国は滅んでしまう》
必死に抵抗しようにも王女はか細く、護身術には長けているものの私生児から王女の護衛騎士にまで上り詰めた実力者である男には当然通じなかった。
なにより攻撃魔法が使えないことが痛手だった。過去に部屋に出た虫に驚き咄嗟に使ってしまい、魔力量が多すぎるために大惨事になり封じられていた。
そうして攻撃魔法が使えなくなった王女の安全のために付けられた男は、神の妻になる王女を押し倒して襲い、王女を守るどころか国まで滅ぼそうとしていた。
最善であり唯一の方法は王女が自らに避妊の魔法をかけることであり全力を尽くした。
なぜ、そこで子供ができてしまったのか。
理由は単純で大きく動揺したことで魔力が乱れたからだった。
しかし王女はそれに気付かず最期まで神の子供だと思っていた。
生まれた子は自分にそっくりだったし、どことなく愛する神にも似ていた。
その上、王女は魔法の天才だったため避妊魔法の失敗など思い浮かばなかったのだ。
しっかりと教育を受けていたが、出産日の計算が合わないことを不思議には思わなかった。
ただ、《神の子》だからだとしか考えなかった。それほどに王女にとって神は特別な存在だった。
不思議な能力を持ち合わせているかもしれない我が子に感動し、「この子はあなたと共に長く生きてくれるかしら?」と我が子を抱き、神に笑いかけた。
「長く生きれない人間の私に変わって神と長く幸せに生きてほしい」と心から願った。
王女は神のことをちゃんと好きになっていた。
護衛騎士のことを好きな感情は消え失せ、嫌いになっていた。
共に過ごしていくうちに穏やかな神に二度目の恋をしていた。
意外にも激務だった神は時間を作っては一途に愛を伝えてくれた。また、人間たちのために動く姿を尊敬し、深く愛するようになった。
一度目の燃え上がるような恋心とは違ったが、確かにじんわり温かい恋心が王女を満たしていった。
そこからなかなか手を出してこない神に真正面から向き合い、素直に気持ちを告げかわいい我が子を産むことができた。
王女は死ぬ間際も幸せだった。
愛する夫と我が子に手を握られながら微笑んだ。
「幸せでした。二人ともありがとう...」
最期に夫と息子へ、そう伝えた王女は(来世でも会えますように)と祈りながら息を引き取った。
【はるか昔の王女の護衛騎士。】
美しい王女が恋心を孕んだ瞳でチラチラと見てくるのが心地よかった。
美しい顔を活かし悟られぬよう高貴な王女を堕とした男は優越感に浸っていた。
そう、その男は歪んでいた。
歪みがどこからきたのか、少し彼の人生を見てみよう。
伯爵家の私生児だったその男は、伯爵の父と平民の母から生まれた。
その男の父は、後に本妻となる政略結婚の相手には婚約の前段階で恋人がいることを明かしていた。
さっぱりとした性格の本妻は想い人がいることやその間に子供ができることも許した。
そして貴族らしく優雅に微笑み言った。
「わたくしには恋愛というものがよくわかりません。しかし尊いものだと知っております。身分に関わらずそのような思いを持てることはうらやましく感じます。それに妻は夫の所有物同然のこの世の中で、束縛されないのは珍しく有難いので断る理由はありません。私たちは利害が一致しているのでうまくやっていけると思います」
意外にも肯定的なことに男の父は驚き、感謝をした。
その後、婚約を結ぶ前に大まかに二つの条件を出しけい
一.《自分との子を先に作り後継にする》
(貴族として生を受けた者の義務であり実家へ少しでも恩を返すため。)
《自由(所有物のような扱いをしない、許可なく監視や報告させない、など)》
(貴族として生を受けた以上覚悟してたことではあったが心の底からの願い。)
このように本妻は貴族としては少し変わっており心も広い人物だったため、男は私生児によくある、本妻による虐待や母と引き離されるなど壮絶な経験をせずに済んだ。
そして一般的な貴族のように裕福に暮らしながら教育も受けた。
一つだけ違うのは、正室腹の子供と違い社交界には出られなかったことだ。
男の母はしっかりと弁えていたが、その男はいくつになっても「父さんに愛されてるのは僕たちなのになんで舞踏会に行けないの!?」などと泣き喚きた。止める母を振り払い強行突破しようとし、力の強い男は家の騎士たち数人がかりで部屋に戻された。
元々得意だった剣を特訓して護衛騎士に上り詰めたが、心の歪みは戻らなかった。
むしろ加速したかもしれない。
神に気に入られた王女に告白されるのは最高に気持ちが良かった。
もしバレたらそのまま殺されてもいいくらいに。だが、バレないだろう。神は王女に心酔しているから。恋に溺れるなんて哀れなものだ。
そうして男の思惑通りになってしまったが、そう何度も見逃されるわけがなかった。男はのちに他の王女に手を出そうとして魔法で顔を焼かれた。取り柄である顔は火傷で爛れてしまった。その後捕らえられた男はさらに秘部をもぎ取られることになり、流刑地で短い生涯に幕を閉じた。精神錯乱状態で海に飛び込んでしまったようだった。
(母さんが平民だから悪いんだ)
(父さんが母さんを妾のままにしとくのが悪いんだ)
(兄さんたちも絶対見下してた!!)
(あの女、高貴ぶりやがって!!僕のことが好きなら神より優先すべきだろ?)
(あの女の周りは碌でもない。あいつの妹は顔を焼くし、あいつの父は秘部根こそぎ取って行った。ありえないだろ!!)
最後まで反省することなく、逆恨みながら人生を終えた。
歪み、それは一体どのときに始まったのか。
それは初めからだったかもしれない。
自分の視界に豪華な建物が目に入り、それが自分は入ることができない本邸だと知った時にはすでに———。
この男は天国には行けない。
魂が新たな世界に転生することもできない。
汚れ切った魂は処分するしかないのだ。
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