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待合室
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大手ゼネコン、建設会社の一角。
圭吾と琴音は案内された椅子に腰を掛ける。面接の時に数回来ていた待合室だった。さすがに最大手のゼネコンで、待合室は商談スペースも兼ねている。今日は休み前で人も多かった。
「圭吾くん、なに飲む?」
「あぁ、いいよ。自分で行くから」
「ううん」
「取ってくるから言って」
「じゃあ、アイスコーヒーで」
「分かった」
無料の自販機。琴音はさきほど秘書から何杯飲んでもただと説明を受けた。それを聞いて圭吾と自分のジュースを取りに行く。大学にもあればいいのに、とオレンジジュースを飲みながらこっちを振り返る。
「ごめんね、来なくてもよかったのに」
由美の電話の後。すぐに琴音と俺は由美の父親に呼び出された。プライベートな問題なので、琴音には関係がなかった。別に断れば良かったのだが……。
「ううん、これはわたしの問題でもあるから」
琴音の瞳が圭吾の方をじっと見つめている。少し潤みをたたえた表情が愛らしい。
本当に本心なんだろうか。
さきほどの琴音の言葉を考える。
(圭吾くんが好き)
チラリと琴音の方を見る。
流石に学園一の美少女が圭吾のことを一目惚れするわけがない。圭吾を守るためにとっさについた嘘なんだろうけど。それにしても。
「オレンジジュース好きなんだ」
「うん、大好き」
たまに見た目以上に幼く感じる。オレンジジュース好きは琴音のイメージに合っていた。
「なに、言われんのかなあ?」
ミディアムヘア、幼さとあどけなさが残る笑顔が男心をくすぐる。この笑顔に何人の男が撃沈して来たことやら。鈴木ほどイケメンじゃ無ければ正直難しい、と思う。
「ごめんな、好きなんて言って」
琴音が数秒間じっと視線を絡める。ため息をついて、遠くを見る。なにかを吹っ切ったように再度振り返る。
「圭吾くん気にしないでいいよ、分かってるから」
意味深な表情でこちらをじっと見つめる。分かってるというのは、好きと言う言葉のことだろうか。それとも、他に意味があるのだろうか。
「圭吾くんには由美さんがいること分かってるから」
窓の向こう、遠くをじっと見ながら。圭吾は喫茶店のことを思い出す。そう言えば、まだ誤解は解けていなかった。琴音には圭吾と由美の愛は続いていると思っているのか。
「それにしても、由美さんの愛凄いよね」
「わたし、びっくりした」
「完全にわたしたち、浮気してるみたいだよね」
ちょっと悪戯っぽい笑顔を向けてくる。琴音は浮気と勘違いされて嬉しいのだろうか。当然、それは思いあがりだと思う。さすがに琴音と俺じゃ釣り合いが悪すぎる。
「琴音ちゃんに言ったこと、嘘はないから」
「……なんのこと」
「あっ!」
「……」
「またまたー、そんなこと言う」
分かってるってという顔をして、こっちをじっと見つめてきた。
なにが分かってるのだろうか。琴音が本気で好きと思ってくれているのなら。全てを投げ出してでも、応えたい気持ちはある。もちろん琴音が気を使ってくれているだけで、本心のはずはないのだが。
「圭吾くんと由美さんお似合いよねえ」
手をパンッと合わせて嬉しそうな笑顔。
勘違いなのか、俺が好きと言った牽制なのか。どちらとも取れる表情だった。
「琴音も鈴木さんとお似合いだろ」
琴音の勘違いを慌てて否定するのも大人気ないと感じたので、琴音の話に変えてみる。
「ハァ、本気で言ってる?」
「ごめん」
「私たちは本当に終わり」
俺から見ればすごくお似合いのカップルに見えた。美少女とイケメン。実際は復縁の可能性はなさそうだ。
琴音がフリーなのであれば、出来ればお近づきになりたい気持ちはある。
「ただねえ」
「そんなに簡単に行かないのだ、これが」
「どう言うこと?」
「鈴木の話聞いてたっけ?」
内容は痴話喧嘩だったが、鈴木は最後に何か吐き捨てるように言っていた。
「医者を継ぐとか」
「そう!」
パッと明るい笑顔をする琴音。覚えていたくらいでこんなに表情が変わるもんだろうか。そこが可愛いんだろうけど。
「わたしのミスコンの話知ってるかな?」
「鈴木が琴音を口説き落とした話?」
「そんなこと、してない。されてない」
口を尖らせて語られている噂を否定する。
「そうなの?」
「なんで、あんな奴好きになるのよ」
「でも、君だけを、とか言ってなかった」
「よく覚えてるなぁ。確かにそんなこと言ってたことはあります。無視してたけど」
「えっ、でも彼女だよね」
「まあ、それは、そうなんだけどね」
今度は机に両手を伸ばして、顔を机に乗せる。本当見てて飽きないよなあ。
「そうじゃなくて……」
「そこに父親が来ててね」
「鈴木を気に入ったの」
「わたし、一人っ子だし」
「わたしが医者になれれば良かったんだけどね」
「わたしは文化系。どう編入しても無理で」
「まあ、もともと文系脳だし」
「それで付き合うようになった」
殆ど政略結婚と変わらない内容だった。
ふたりは相思相愛だと思ってたんだけれど。
「だから、何か浮気とか大きな理由がないと別れられないのよ」
それであんなめちゃくちゃな別れ話になったのか、と納得した。
「社長がお呼びです」
先ほどのメガネをかけた秘書がふたりに声をかけてきた。俺はドキドキした面持ちで琴音の横を歩く。やがて、社長室の扉が見えてきた。
――
琴音ちゃんと圭吾の勘違い?
いつ気づくのか、気づかないのか。
それは今後のお話。
読んでいただきありがとうございました。
感想、いいねしていただければ喜びます。
よろしくお願いします。
圭吾と琴音は案内された椅子に腰を掛ける。面接の時に数回来ていた待合室だった。さすがに最大手のゼネコンで、待合室は商談スペースも兼ねている。今日は休み前で人も多かった。
「圭吾くん、なに飲む?」
「あぁ、いいよ。自分で行くから」
「ううん」
「取ってくるから言って」
「じゃあ、アイスコーヒーで」
「分かった」
無料の自販機。琴音はさきほど秘書から何杯飲んでもただと説明を受けた。それを聞いて圭吾と自分のジュースを取りに行く。大学にもあればいいのに、とオレンジジュースを飲みながらこっちを振り返る。
「ごめんね、来なくてもよかったのに」
由美の電話の後。すぐに琴音と俺は由美の父親に呼び出された。プライベートな問題なので、琴音には関係がなかった。別に断れば良かったのだが……。
「ううん、これはわたしの問題でもあるから」
琴音の瞳が圭吾の方をじっと見つめている。少し潤みをたたえた表情が愛らしい。
本当に本心なんだろうか。
さきほどの琴音の言葉を考える。
(圭吾くんが好き)
チラリと琴音の方を見る。
流石に学園一の美少女が圭吾のことを一目惚れするわけがない。圭吾を守るためにとっさについた嘘なんだろうけど。それにしても。
「オレンジジュース好きなんだ」
「うん、大好き」
たまに見た目以上に幼く感じる。オレンジジュース好きは琴音のイメージに合っていた。
「なに、言われんのかなあ?」
ミディアムヘア、幼さとあどけなさが残る笑顔が男心をくすぐる。この笑顔に何人の男が撃沈して来たことやら。鈴木ほどイケメンじゃ無ければ正直難しい、と思う。
「ごめんな、好きなんて言って」
琴音が数秒間じっと視線を絡める。ため息をついて、遠くを見る。なにかを吹っ切ったように再度振り返る。
「圭吾くん気にしないでいいよ、分かってるから」
意味深な表情でこちらをじっと見つめる。分かってるというのは、好きと言う言葉のことだろうか。それとも、他に意味があるのだろうか。
「圭吾くんには由美さんがいること分かってるから」
窓の向こう、遠くをじっと見ながら。圭吾は喫茶店のことを思い出す。そう言えば、まだ誤解は解けていなかった。琴音には圭吾と由美の愛は続いていると思っているのか。
「それにしても、由美さんの愛凄いよね」
「わたし、びっくりした」
「完全にわたしたち、浮気してるみたいだよね」
ちょっと悪戯っぽい笑顔を向けてくる。琴音は浮気と勘違いされて嬉しいのだろうか。当然、それは思いあがりだと思う。さすがに琴音と俺じゃ釣り合いが悪すぎる。
「琴音ちゃんに言ったこと、嘘はないから」
「……なんのこと」
「あっ!」
「……」
「またまたー、そんなこと言う」
分かってるってという顔をして、こっちをじっと見つめてきた。
なにが分かってるのだろうか。琴音が本気で好きと思ってくれているのなら。全てを投げ出してでも、応えたい気持ちはある。もちろん琴音が気を使ってくれているだけで、本心のはずはないのだが。
「圭吾くんと由美さんお似合いよねえ」
手をパンッと合わせて嬉しそうな笑顔。
勘違いなのか、俺が好きと言った牽制なのか。どちらとも取れる表情だった。
「琴音も鈴木さんとお似合いだろ」
琴音の勘違いを慌てて否定するのも大人気ないと感じたので、琴音の話に変えてみる。
「ハァ、本気で言ってる?」
「ごめん」
「私たちは本当に終わり」
俺から見ればすごくお似合いのカップルに見えた。美少女とイケメン。実際は復縁の可能性はなさそうだ。
琴音がフリーなのであれば、出来ればお近づきになりたい気持ちはある。
「ただねえ」
「そんなに簡単に行かないのだ、これが」
「どう言うこと?」
「鈴木の話聞いてたっけ?」
内容は痴話喧嘩だったが、鈴木は最後に何か吐き捨てるように言っていた。
「医者を継ぐとか」
「そう!」
パッと明るい笑顔をする琴音。覚えていたくらいでこんなに表情が変わるもんだろうか。そこが可愛いんだろうけど。
「わたしのミスコンの話知ってるかな?」
「鈴木が琴音を口説き落とした話?」
「そんなこと、してない。されてない」
口を尖らせて語られている噂を否定する。
「そうなの?」
「なんで、あんな奴好きになるのよ」
「でも、君だけを、とか言ってなかった」
「よく覚えてるなぁ。確かにそんなこと言ってたことはあります。無視してたけど」
「えっ、でも彼女だよね」
「まあ、それは、そうなんだけどね」
今度は机に両手を伸ばして、顔を机に乗せる。本当見てて飽きないよなあ。
「そうじゃなくて……」
「そこに父親が来ててね」
「鈴木を気に入ったの」
「わたし、一人っ子だし」
「わたしが医者になれれば良かったんだけどね」
「わたしは文化系。どう編入しても無理で」
「まあ、もともと文系脳だし」
「それで付き合うようになった」
殆ど政略結婚と変わらない内容だった。
ふたりは相思相愛だと思ってたんだけれど。
「だから、何か浮気とか大きな理由がないと別れられないのよ」
それであんなめちゃくちゃな別れ話になったのか、と納得した。
「社長がお呼びです」
先ほどのメガネをかけた秘書がふたりに声をかけてきた。俺はドキドキした面持ちで琴音の横を歩く。やがて、社長室の扉が見えてきた。
――
琴音ちゃんと圭吾の勘違い?
いつ気づくのか、気づかないのか。
それは今後のお話。
読んでいただきありがとうございました。
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よろしくお願いします。
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