上 下
74 / 75
第二章・アイゼンリウト騒乱編

第71話 アーサー、最後の足掻き

しおりを挟む
「仲間同士最後の会話は済んだか?」
「ごめんなさい……別れの挨拶もする人が居ない人をお待たせした上に目の前でみせつけちゃって」

 アーサーはどんな思いで俺たちを見て待っていたのか分からないが、村に居た少女が謝罪しながら殴り掛かるような煽りをかましたので怒りのオーラを発し、こちらを威圧する。

「すまんなお前と違って我らは人数が多くてな」
「そうだのよ! 挨拶はしなきゃいけないだのよ!」

 ファニーとリムンも続けて煽り

「最強ドラフト一族の兄弟の別れの挨拶は戦いの中でするもんさ」
「別れの挨拶に相応しい相手だと良いが」

 ビッドとビルゴも続けて煽る。皆が皆、誰一人欠けるどころか一人増えて再会出来た喜びで大分強気になっているようだ。

「お前の道連れはもう十分だろう?」
「一人寂しく死んでゆけ!」

 リードルシュさんとダンディスさんが締めて戦闘を開始。アーサーが作った洞窟内を四方八方から攻めていく。

アーサーは一人でそれを捌いていたが、全てを捌き切れずに攻撃を受け始めた。黒いオーラによって傷はつかないまでも、衝撃は体に伝わっているようで顔を歪ませる。

「くっくそおおおお!」

 苛立ちの原因を解消すべく剣を振り回すアーサー。俺との戦いで消耗してから変身したので体力を回復させたのかと思いきや、どうやら総量が増えただけで全回復した訳では無いらしい。

俺たちを黙って見ていたのも回復したかったからと考えれば自然に思える。

「あらら、魔王の癖に情けないねぇ」
 
 村に居た娘がアーサーに呆れながら言うと、アーサーは血管を浮き上がらせ力んだ後、黒いオーラ―を更に増大させ衝撃すら喰らわないよう防御を厚くした。

皆はそれを気にせず攻撃を加えるも全く攻撃が通らない。

「そんな亀みたいに護ってどうする気?」
「こうするんだ」

 アーサーは言葉では無く行動で示す。ビルゴビッド兄弟を見て素早く距離を詰めそのまま壁へ押し込んで行く。兄弟はそれを何とか押し返そうとするがあっさり壁に背が付けられてしまう。

「このっ!」

 俺は急いで側面を攻撃し兄弟を助けるべく突っ込む。アーサーは当然それを読んでいてこちらを向いて突っ込んで来た。

「よいしょっ!」

 黒隕剣で斬り付けようとしたが手を引かれて衝突は免れる。引っ張ってくれたのは村に居た娘だった。ここまで来るだけあってただの村娘ではない。

「貴様は一体何者だ? 確か城の入口で会った覚えがあるが」
「やぁ、さっき振り。君が僕を見て逃げてくれたお陰ですんなりここまでこれて皆をここに連れてこれたよ有難う」

「貴様が私の結界を破ったと言うのか!? 馬鹿な……たかが人間の分際で」
「厳密に言うと違うね。僕は貴方の血も引いているが恐らく母の血の影響が強いかな」

「……母の血、だと?」
「そうだよ。僕の名はロリーナ。聞き覚えがあるだろう?」

 その名を聞いてアーサーの顔は血の気が引き、急いで左手を見る。するとその手にあった黄金色の剣は強い光を放ち始め

「ぐあっ!」

 アーサーの手を弾き黒いオーラを突き破ってこちらへ回転して向かって来た。そしてロリーナと名乗った村に居た娘の手に収まる。

「察しの良い貴方なら僕の正体に気付いたね? そうだよあの時死んだと言われていた赤ん坊だ。乳母が母に頼まれ死んだとして城から連れ出し今日の今日まで潜んでいたのさ。この時の為にね」

 ロリーナは堕天剣ロリーナを掲げそう告げる。唖然とした表情でそれを見ていたアーサーは、ロリーナの言葉が終わると体を震わせた。

「どこまで……どこまで私を絶望させれば気が済むんだ……! 私に夢を与え私に絶望を与えた作品が、私の命さえも奪うと言うのか!?」
「違うよ。アンタの悪夢を終わらせてあげるんだ。どうか元の世界でやり直し幸せを見つけてほしい」

「うああああ!」

 アーサーはキャロルを手に向かってくる。ロリーナにキャロルを振りおろそうとするも、剣は寸での所で止まったまま動かない。

「さぁ夢の終わりだ」

 ロリーナの言葉にアーサーは俯きながら下がりつつ、キャロルをその手から離した。諦めたように見えるがそれは戦いをじゃない。俺の勘がそう告げている。黒いオーラはやがてどす黒い禍々しさを増し始めた。

「そうか、そうか。ならばもう良い。この世界の何もかもを私の絶望で染め上げてやる……許さんぞ……絶対に許さんぞ……お前たちを消す為ならこの姿も要らん!」

 暗く低く小さいがその声は洞窟内に響き、アーサーの声色に薄気味悪い声まで重なり始め、最後に叫んだ後でアーサーの体を青白い炎が焼き、絶叫が木霊する。

そしてアーサーの体が無くなり黒いオーラだけが残ったが、今度はそれが人の形を模した者へと変化し赤い瞳を出現させ僕を睨んだ。

「コレデ終ワリダ」

 機械のような音声が聞こえた後、それはぬるっと動きこちらに迫る。影を斬るべく黒隕剣を振り下ろすも、こちらの風圧によって流されたように避けられてしまう。

更に側面へ移動して手を尖らせて突き刺そうとして来たので無理やり体を回転させてそれを薙いで弾いた。すり抜けられたら不味いと思ったが、どうやらその心配はしなくて良いようで安心する。

「往生際が悪いな!」

 ロリーナが泳いだアーサーの影に斬り付けるも地面を滑るように避け、それに対して他の皆も追撃するが、スルスルと移動されてしまった。

「遅イナァ遅イヨ」

 ケタケタと笑いながら高速で地面を滑りながら移動し皆に対して斬り付けて行く。体と言う檻から解放したアーサーは縦横無尽に駆け回りこちらを翻弄して行く。素早く勘の良い相手に対して何とか追い込んで攻撃を加えるもするりと逃げられる。

「モウ良イカイ?」

 アーサーの影はそう言うと体の中心に口が出現し、大きく開いた後でそこから黒い球が静電気のような現象を起こしながら複数出て来て僕らへ向かって飛んで来る。

各々の武器で弾こうとするも避けられ直撃を受けてしまい、黒い霧に包まれた上に電気が発生しているようで動けないようだ。

「コウ! リムンちゃんを!」

 ロリーナは堕天剣ロリーナでそれを切り伏せていて、その声を受けてリムンを探すと離れたところで杖を振り回し難を逃れていた。

俺は自分のところに来た黒い球を黒隕剣で斬り払い消滅させてからリムンのところに向かい斬り払う。

「どうする!?」
「こうなったら閉じ込めるしかない! リムンちゃん、結界の準備を。イリア! アリス!」

 ロリーナは急いで二人の元へ向かうと堕天剣ロリーナの剣腹を当てる。すると黒い霧は晴れて二人は動けるようになったのか地面から起き上がった。

「コウ! 時間を稼いで! 僕らはその間に準備をする!」

 俺は頷いてアーサーの影と向かい合う。コイツは俺をまず最初に殺したいだろうから避けながら攻撃を加え、ロリーナの作戦の準備完了まで死ぬ気で時間を稼いでやる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...