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第二章・アイゼンリウト騒乱編

第68話 転生者対転生者!

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 俺とアーサーは剣戟を交わし続けその音が周囲に鳴り響く。互いに相手を斬り伏せるつもりで振るっている。相手は魔族とは言え無敵では無いし、体力にも限界があるとアーサーの前に戦った王で確認済みだ。

剣の強さも黒隕剣とファニーの御蔭で斬り合っても互角。差があるとすれば、本体である俺の体力と素早さだろう。二人のフォローがあってもそこは恐らく埋められないかなと思ってた。

 暫く剣戟を交わし合った後でアーサーもそれに気付いたのか急にリズムを変える。それまでのように俺が二回斬り付けたのを弾くと、間を置かずアーサーは素早く体と手首を捻って斬り付けてきた。

二回までは素早さを重視した為軽くなっていたのであっさり弾いたが、そこから先ほどよりも踏み込んで素早い左右の斬り付け繰り出された。

これは見切れない、ヤバい! 

と思ったが何故か剣筋が良く見え体も動き、返しの二つはしっかり見てそれに合わせて足を引き、下がりながら小さく最小限の動きで避ける。

それを行った自分自身もかなり驚いたが、相手であるアーサーも唖然として剣を下に向けた。少し間があった後、歯を食いしばり睨みながら再度突っ込んでくる。

 アーサーも流石前王と共に戦場に居ただけあって、剣となった王よりも戦い方が巧い。こちらが合わせようとすると絶妙にタイミングをずらしてきていた。

だが俺はそれを少しずつ真似てテンポをずらし、斬り付ける角度やリズムを変えて反撃していく。避けられはするが、アーサーは徐々に苛立ちと焦りの色を濃くして行き、さっきの動きに出た。

そう考えるとあれは決めに来ていたのかなと思う。だとすれば避けられたらキレるかもなと納得してしまった。

 俺たちの攻防は一進一退。互いに体力を少しずつ削りながら相手の隙をジッと待っている。
 
 俺は切り札を出していない。剣になった王に出そうと思っていた切り札。と言っても思いついたのは、俺自身の魔力を黒隕剣が吸い取り力に変えているのを知って、命と魔力全てを相棒に注ぎ込めば大きな一撃を放てるだろうっていうものなんだけど。

相棒は俺の考えに否と言うならそう言ってくれると信じているから、そう言わないなら出来るだろう。だがその為には大きな隙が必要だ。恐らくこれまた相手も似たようなものを隠しているに違いないと見ている。

何とかこちらが先に打つ為に隙を作らないとと考え、俺は気になっていた点について問う。

「アンタ今は完全な魔族か?」
「混ざりモノだ。転生した時は魔族だったが、来る前は人間だ」

「何故人間になろうとしたんだ? 自分の野望を満たすのなら他はいざ知らず、お前は魔族のままでよかったんじゃないのか?」
「何?」

 そう、人を生贄として最強の力を手に入れる為の準備として人の振りをするまでは分かるが、今現在混ざりものである理由が分からない。

魔族ならその恩恵を最大限受けられるはずなのに、とふと疑問に思ったから聞いてみた。そして思った。コイツは人間に対する執着を捨てきれていない、元の世界への未練を自分でも気付いていない心の片隅にまだ持っている、と。

最強になって全て滅ぼした後に自分だけが残ればその答えに辿り着くんじゃないかと思った。でなければ民を全て生贄にしなくてもいい筈だ。

 そういう考えに至ったのも、俺自身そんな思いが頭を過ぎったから。あっちでは良い思い出が何も無いが、こっちに来てから良い仲間たちに出会えた。心の何処かに今帰ればやり直せる、もっといい思いが出来るんじゃないかって言う思いが芽生えたのかもしれない。以前の自分とは違う、と。

アーサーのこの世界での身内を全て犠牲にしてでも最強を目指しているのは、帰りたいからじゃないかなと言う結論に至った。

 命を全て掛けた一撃という発想が生れたのは、そう言う心の変化からだと思う。勿論それだけじゃなく、ファニーやリムンが笑顔で生きる為にここをどうにかしなきゃならないと言うのもある。何しろ俺は鍛えに鍛えてここに来たわけじゃないから。

互角に戦えているのも黒隕剣とファニーの御蔭だ。ならもう差し出せるものは命しかない。美しいとは言わないが、他に無いからそうする。

アーサーに指摘して自分にも見えて来たそんな心の片隅の想いも、きっと死ぬ時には消えてなくなるだろう。帰れる保証何て何処にもない。だがそれで良いのかもしれない。永遠に生きるなど思いもしないし何時か死ぬなら誰かの為に死にたい。

自分を初めて必要としてくれる人たちを護る為に持ってるもので何とかするだけだ。

 気付くとアーサーは茫然として俺を見ていた。チャンスは逃せない! 卑怯かもしれないとは思ったが、俺はその隙を生かして黒隕剣を突き出しアーサーの肩を捉える。だが後少しのところでアーサーは我に返り避けた為、浅い切り傷が出来ただけだった。

「私を混乱させて隙を作ろうと言う魂胆か?」
「アンタは最強の存在になって何をするんだろうと気になったんだ。自分の気の済む物語を体験し終える頃には誰もいなくなる。家族さえもね。孤独に永遠に耐えられる者なんて居ないのを、物語を書いて人に読んでもらいたいアンタは知っている筈だろう? 心の片隅に居たその恐怖が選択したのが人間との混ざりもの。踏ん切りの突かない自分自身を反映したんじゃないかなと」

「……人として転生したら何だと言うのだ」
「人として転生したら、アンタは真っ当に生きたんじゃないのかな。今度こそ誰かと幸せに、孫かひ孫に物語を読み聞かせる人に。だが転生したのは魔族だった。何故魔族になったのか心当たりもあるのかもしれないが」

 この人も俺のように前の世界でよい人生を送れなかった人なのだろう。でも誰も止めてくれなかった。走るしかなかった。もう止まれない、だから折れないで済むようにアーサーなんていう物語の主人公の名を名乗ったんだと思う。

そう考えると俺は幸せ者だ。曲がらないようここまで共に来てくれた仲間がいる。俺はもう一人じゃない。

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