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第二章・アイゼンリウト騒乱編

第62話 冒険者、手玉に取られる

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「存外持たなかったなぁ王よ」

 その声に聞きおぼえがある。あの時はまさかそんな分かり易くはないだろうと思った。だが今このタイミングで現れたのを考えれば、相手の思うように誘導されてたのは間違いないだろう。

都合よくダンディスさんとリードルシュさんがアイルに現れ共に行動し、生贄を調べに行くと現れた魔族などの大群。魔剣を持ったビルゴとアリスとの戦い。首都アイルの惨劇とボスだと言う割には自由に歩き回る王。

行く先々でタイミング良く現れる敵や状況は、この男が成したい結末への必要な手順であり掌で踊らされていたのはもう疑いようもない。

こちらの戦力を分断し王と均衡を保ちつつ戦わせ、準備が整うと俺の仲間がここへ来て王を追い詰める。止めを刺そうとした今この時を、ずっと息を潜めて待ち構えていたのかと思うと悔しさで体が震えた。

「礼を言おう冒険者よ。これで私の剣は完成する」

 それは俺たちが崩した天井からゆっくりと下りて来た。禍々しい気を纏い、今度こそ間違いなく悪役として素晴らしい笑顔を携えて降り立つ。

「ぐああああ!?」

 王の叫びが聞こえ視線を向けると、紫色の炎に焼かれ王の体は灰になり一振りの剣がそこに残されていた。紫を基調とし金色で細かい装飾が施された大剣。美しい剣だが、王の無念や怨念が満ち満ちているように剣から黒い煙が溢れ出て漂わせていた。

「さぁ来い、我が愛剣キャロルよ!」

 その声に反応し、剣は声の主の元へ飛んでいく。黄金色の剣と共に。

「これぞ覇王よ、これぞ魔王よ。見るが良い愚か者どもよ! 全て私の策略通りだ!」

 二剣を右と左に握った宰相は高笑いをする。その間に徐々に若返っていき、笑いが収まる頃には金髪の血色の良い若者になっていた。全くなんで覇王とかになると都合よく若返るのか。俺もどうにかすれば若返るのか、などと埒も無い考えが頭を過ぎり首を振る。

全て嵌められ思い通りに動いた自分に対する呆れと怒りで冷めきってしまったんだろうなと冷静に分析する。だが落胆し手ばかりもいられない。この後コイツが俺たちをこのままにしておくほど能天気では無いだろう。

頭を切り替え体勢を立て直し少しでも回復しないと駄目だ。黒隕剣もそう思ったのか魔力吸収を遮断し形態をレイピアモードに移行する。それに合わせて膝を着き、俺は肩を落として地面に手を突く。

勿論諦めたのではなく諦めたふりをして全力で体力を回復する為だ。最後の最後まで思い通りにさせてなるものか!

「アグニス宰相殿……何故貴方が!?」
「アグニス? ……ああ、そう名乗っていたな確か」

 アグニスはニヤリと嫌らしい笑顔を浮かべて答える。演技なんて上手くは無いだろうが、あの愉悦に浸っている表情からして見抜かれないだろうと考え思い切り悔しそうな顔をして見る。

「そうか……糞ッ! ファニーが逃げ出したのをいち早く知り、ダンディスさんとリードルシュさんに情報を流せたのは変だと思ってたんだ……!」
「流石察しが良いなその通りだ。ただの老いぼれが、竜の千里眼も無しにそんなものを分かる筈がなかろう?」

「ずっと騙していたのかっ!」
「そうだ。隔世遺伝の時を待ち、材料が揃うのをジッと待っていたのだ。この剣を作るには色々と条件が必要でな。前王では絶望が足らず、それまでの王では能力的に足りなかった。私は姿を変えてずっとずっとずぅーーっとこの時を待っていたのだよ」

 アグニスだったものは両剣を素早く左右薙ぐと、それにより発生した斬撃の衝撃波によって王座の間の壁に穴が開いた。それを見て俺は俯き拳で床を叩いて見せる。するとアグニスだったものは声を上げて笑う。

中々俺も魅せる演技が出来るもんだと勘違いしそうになり、自分の体の調子を確認して逸らす。呼吸は整えられたが腕や足は痛い。切り傷は熱を持った状態から氷を素手で掴んだ感じの痛さになっている。

こういう時に超回復とかあると良いなと思わざるを得ない。あの若返り機能はそう言ったものなんじゃなかろうか。便利だな。

「ついに手に入れた……完璧なる力。神も、魔も、そして人も、全て私の中にある!貴様らにとっては残念な話だが、私は夜も昼も関係ない。力が左右される事も無い上に情も何もない! 全力で貴様らに褒美をやらんとな!」

 金髪の青年は半狂乱して笑い始めた。耳障りな声だがチャンスはチャンスだ。今のうちに少しでも回復しておく。あの薄気味悪い野郎を確実にぶっ潰す為に堪える。

少し間を置いてから後ろを見ると、姫は絶望に慄きこの世の終わりのような顔をしていた。これは演技では無いだろう。そう考えると俺が少し変なのかもしれない。まだ一ミリもあの野郎をぶっ倒すのを諦めていないのだから。

「姫、無事か?」
「な、何とか……」

 だが身震いが止まらないようだ。それはそうだろう。父が死んだのもそうだが、
宰相の遠大な策略に乗せられていた。更に国を思い尊敬までしていた宰相が自分の欲望を満たす為に欺いていたのだから。

そして恐らくあの感じからして魔族だろうから、姫は自分の血からも恐怖せざるを得ないのだろう。

「竜を倒そうってか?」

 俺が時間稼ぎでそう問うと、鼻で笑った後

「竜を倒す? ああ、邪魔だったし生贄を手に入れる為に、封印を施し利用していただけだ。別にあの時でも倒そうと思えば倒せたのでな。だが完全となった私にはどうでもいいことだ」

 そう上機嫌で答えてくれた。凄いに違いないし強いのも間違いないのだから、全盛期とやらに戻れば倒せるのだろう。……いや待てよ? 封印を施しってそもそもコイツがファニーを封印したのか!?

アイゼンリウトと言う国自体が俺やファニーを追い回すなら、その根っこどうにかしたくて姫に協力しその褒美で放置の確約を得ようと思ったが、まさかファニーの自由を奪い生贄システムを生み出した張本人と会えるとは。

こうなればファニーの為にもコイツを必ずぶっ倒すしかない。これまでの相棒の借りを返させてもらう!

「そうかい。アンタが勝つとは決まってないだろ?」
「何を言っているのだ。勝てる訳が無かろうにお前達が」

「なら始めようか」

 俺はファニーに視線を送り頷いた後、姫の方に手を置いて前へ出る。体の調子は完全じゃないが、ここまで何度も皆に回復の機会を与えて貰ってかなりいい感じだ。今度こそと思い気合を入れて最後の戦いに挑む。
 
 




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