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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第55話 リードルシュの足跡
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リードルシュはダンディスとレッサーデーモンの戦いを、仰向けになりながら聞いている。戦場で神狼の戦う音が聞けるとは、感慨深いと思っていた。
エルフの里の中でもリードルシュの家は伝統を重んじ、里の中核を成す家だった。小さい頃から何不自由なく暮らし家庭も問題無かった。すくすくと育ってきたリードルシュは、当然のように家を継ぐものだと思っていた。
そんなある日、エルフの里に迷い込んできたドワーフがいた。里で協議をする間、リードルシュの家で監視されながらも持て成された。
そこでリードルシュは外界に初めて触れる。工房を見せてほしいと頼まれドワーフに自分の家の工房を見せると、一宿一飯の恩義だ言って剣を作り始めた。その何かが乗り移ったかのような姿に、若いリードルシュは魅せられてしまう。
伝統を重んじそれを護るのみに注力している一族。その姿にこのドワーフのような姿は見られず、リードルシュの同族を見る目が変わった。護るのがダメではないが、変わらぬ今を維持のみに固執する一族には未来があるのだろうか、と考え始める。
暫くしてドワーフの放逐が決まり、ドワーフとしても異存は無かった。リードルシュは是非同行させてほしいと頼むも断られる。自分の技術は普通の技術で教えるほどのものではない、今日まで見ていたお前なら自分で出来るだろうと言って去って行った。
それからリードルシュは親の目を逃れて鍛冶に打ち込む。レイピアから始まり、剣へと移るのに時間はかからなかった。鉱石集めに里を抜け出す事も多くなる。
だが力でドワーフに及ばないリードルシュは苦悩する。自身が打った剣は、ドワーフが残して行った剣より脆い。打ち方はドワーフと同じ。足りないのは力なのか。ドワーフが普通の技術と言っていた技術は果たして本当なのか。リードルシュは里の外へ興味が沸く。
そして鉱石集めから、街へ行くのにそう時間が要らなかった。街へ出て鍛冶屋を覗くと、そこにはあの時のドワーフが居た。この偶然を天啓と捉えたリードルシュは、ドワーフに再度師事を願う。
しかし認められない。
一週間ほど通い詰め、ドワーフの頑固さに勝ると言う言葉と共に弟子入りを許されたリードルシュは鍛冶に打ち込む。その間に剣術の指南も受けていた。
ドワーフと言えば力技だと思われがちだが、手先の器用さもエルフと変わらないものを師匠は持っており、師匠は抜刀術を得意としていた。一気に力を解放して一刀でケリをつける。ドワーフらしいと言えばドワーフらしい。
そして月日が経つ。
だがリードルシュの作る剣は一向に重くならない。軽く丈夫な剣は女性の冒険者や初心者にはウケが良かったが、それ以外には見向きもされない。師匠であるドワーフはそれでも並のエルフでは無いと褒めてくれた。しかしリードルシュは魅せられた師匠の剣に近付きたいのだ。エルフの里に毎日帰っては古文書を漁り、使えそうな技術を盛り込む。
でも足りない。
そんなある日の事。黒いローブを着た一人の女性魔術師が師匠の工房へ訪ねてきた。人間だと思うがエルフに勝る美貌の持ち主の魔術師はリードルシュの剣を手に取り念入りに見た後で呟く。
「勿体無い」
それを聞き逃す訳が無い。魔術師に問うと答えをあっさりと教えてくれた。エルフの術が知らない内に込められているが故に軽い剣が出来ていると。魔術の基礎を学び応用すれば重い剣が出来るだろうとも言った。
リードルシュに躊躇いは無かった。師匠に隠れて工房での仕事が終わると、その魔術師に師事し魔術の基礎を学び、魔術の原理を習得した。物質と物質を魔術によって繋いで強い剣が作れるようになる。
リードルシュの剣は師匠に近付いた。ただ魔術を用いたのがバレて破門を言い渡されてしまう。リードルシュは師匠に今までの礼として給金の全てを渡し去ろうとした。
その時に師匠から餞別として渡されたのは袋に入った黒曜石だった。産出量が多くない希少なものを大量に渡され涙する。一礼して去ると魔術師の元へと訪れ礼をする。その時に魔術師からも餞別として自分では扱いきれないものだからと隕鉄を渡される。
空から降ってきた、未知の鉱物で値は付けられない。売れば巨万の富が得られる代物だ。リードルシュは断るが、これを使って何時か相応しい者に渡す為の剣を作って欲しいと頼まれ強引に渡された。
こうして街への行き来が終わると、リードルシュは自分の家で鍛冶に没頭する。そして一年が過ぎた時、完成したのが黒隕剣だった。誕生の喜びにうち奮えたが、工房へ押し寄せたエルフの兵隊に捕縛される。
リードルシュは周りが見えないほど鍛冶に没頭していた。その怪しさに保守的なエルフ達は危険視し、隙を窺っていたのだ。
長老に種族に対して危機をもたらそうとしたとして、エルフと名乗れぬようにと罰を与えられた結果容姿が変わる。だがリードルシュは満たされて居たので罰を与えられても恨みは無かった。
アイゼンリウトへ招かれたのは、首都アイルから離れた街で工房を開き、武器を懸命に打ち評判を得た時のことだった。王はリードルシュの打った剣を気に入り、是非兵士達にと頭を下げた。
保守的なエルフとは違うその器の大きさに魅せられ、リードルシュは晴れて王室御用達となる。中でもアグニスは王の傍で戦う為に、強い剣を欲していた。毎日通い、手に馴染み強度の高い剣をリードルシュと共に日々調整した。
ダンディスと出会ったのもそんな時だった。アグニスに紹介された獣族は、どこか影のある兵士に見えた。
会う度に武勲を重ねて戻ってくるも、宮中の評判は芳しくない。それをダンディスに伝えるも、仕方ないと諦めたようだった。王が、アグニスが居ることで成り立っている軍であり、二人が欠ければエルフの里と何も変わりが無いとリードルシュは落胆した。
王が亡くなり興味が失せたリードルシュは流浪の旅に出た。目的も無く人との接触も最低限にし野宿も得意になった。胸の乾きが癒えない。さまよい歩いていた時、エルツの肉屋が高く買い取りをしてくれて、冒険者の間で信頼を得ていると言う話を聞き、何か予感がしてふらりと寄ってみた。
「旦那!」
懐かしい顔だった。兵士であった頃とは別人のような爽やかな笑顔で迎えてくれた旧友に、安心した。
「旦那もこの街で見つけてみたらどうかな」
「何を?」
「旦那の剣を、王やアグニス、俺以外に託せる相手が居るかどうか」
「居るとは思えないが」
「解らないぜ。ここは冒険者の出入りも激しく、活発で生き生きした連中が多い。その中には変わりモノが一人くらい居るだろう」
そう久しぶりに杯を交わした時に言われ、路銀を蓄える為に少しだけ
居ようと思って工房を開く。確かに活発だったが、誰も自分が手抜きで打った剣を見抜けなかった。
ここでもリードルシュは落胆し、いつしかこの世界に自分が望む持ち手など居ないのではないかと思い、引きこもった。
怠惰の中で過ごす日々の中で出会ったへんてこな男。明らかに自分より高等な種族を引き連れた人間は言った。
「ええ、でも残念なことに俺の力に耐えられそうなものが無いんで、取り合えず服だけで」
その言葉にカチンと来た訳ではない、心の中で自らが鍛冶に打ち込んでいた姿とその音が鳴った気がした。試しに打ちあうと言葉通りで剣を見る目もあったのが嬉しかった。真っ向から否定されたがそれが何よりも心を震わせる。
この男なら託せる。
この男の為に打ちたい。
そう思わせてくれた。
アグニスから竜を連れて去ったのがコウだと聞いた時、得も言われぬ嬉しさで笑顔になる。そういう男だと思った。期待通りだった。
そしてアイゼンリウトを救う為に戦うと言う。敵は魔族に身を落とし魂を食らった化け物と化した王。前王よりも強く自分では歯が立たなかった。
王と戦うべく進んだコウの背中と黒隕剣の覚醒。それは自身の予想を超えた者であり、この先どうなるのか誰よりも見たかった。位も望まず報酬も望まずただ冒険者の生活を取り戻す為、ただそれだけの為に剣を進化させたおかしな人間。
王との決着がつく時、その場に居なければならない。それが鍛冶屋として貫いた自分の一章の終わりだとリードルシュは思った。
エルフの里の中でもリードルシュの家は伝統を重んじ、里の中核を成す家だった。小さい頃から何不自由なく暮らし家庭も問題無かった。すくすくと育ってきたリードルシュは、当然のように家を継ぐものだと思っていた。
そんなある日、エルフの里に迷い込んできたドワーフがいた。里で協議をする間、リードルシュの家で監視されながらも持て成された。
そこでリードルシュは外界に初めて触れる。工房を見せてほしいと頼まれドワーフに自分の家の工房を見せると、一宿一飯の恩義だ言って剣を作り始めた。その何かが乗り移ったかのような姿に、若いリードルシュは魅せられてしまう。
伝統を重んじそれを護るのみに注力している一族。その姿にこのドワーフのような姿は見られず、リードルシュの同族を見る目が変わった。護るのがダメではないが、変わらぬ今を維持のみに固執する一族には未来があるのだろうか、と考え始める。
暫くしてドワーフの放逐が決まり、ドワーフとしても異存は無かった。リードルシュは是非同行させてほしいと頼むも断られる。自分の技術は普通の技術で教えるほどのものではない、今日まで見ていたお前なら自分で出来るだろうと言って去って行った。
それからリードルシュは親の目を逃れて鍛冶に打ち込む。レイピアから始まり、剣へと移るのに時間はかからなかった。鉱石集めに里を抜け出す事も多くなる。
だが力でドワーフに及ばないリードルシュは苦悩する。自身が打った剣は、ドワーフが残して行った剣より脆い。打ち方はドワーフと同じ。足りないのは力なのか。ドワーフが普通の技術と言っていた技術は果たして本当なのか。リードルシュは里の外へ興味が沸く。
そして鉱石集めから、街へ行くのにそう時間が要らなかった。街へ出て鍛冶屋を覗くと、そこにはあの時のドワーフが居た。この偶然を天啓と捉えたリードルシュは、ドワーフに再度師事を願う。
しかし認められない。
一週間ほど通い詰め、ドワーフの頑固さに勝ると言う言葉と共に弟子入りを許されたリードルシュは鍛冶に打ち込む。その間に剣術の指南も受けていた。
ドワーフと言えば力技だと思われがちだが、手先の器用さもエルフと変わらないものを師匠は持っており、師匠は抜刀術を得意としていた。一気に力を解放して一刀でケリをつける。ドワーフらしいと言えばドワーフらしい。
そして月日が経つ。
だがリードルシュの作る剣は一向に重くならない。軽く丈夫な剣は女性の冒険者や初心者にはウケが良かったが、それ以外には見向きもされない。師匠であるドワーフはそれでも並のエルフでは無いと褒めてくれた。しかしリードルシュは魅せられた師匠の剣に近付きたいのだ。エルフの里に毎日帰っては古文書を漁り、使えそうな技術を盛り込む。
でも足りない。
そんなある日の事。黒いローブを着た一人の女性魔術師が師匠の工房へ訪ねてきた。人間だと思うがエルフに勝る美貌の持ち主の魔術師はリードルシュの剣を手に取り念入りに見た後で呟く。
「勿体無い」
それを聞き逃す訳が無い。魔術師に問うと答えをあっさりと教えてくれた。エルフの術が知らない内に込められているが故に軽い剣が出来ていると。魔術の基礎を学び応用すれば重い剣が出来るだろうとも言った。
リードルシュに躊躇いは無かった。師匠に隠れて工房での仕事が終わると、その魔術師に師事し魔術の基礎を学び、魔術の原理を習得した。物質と物質を魔術によって繋いで強い剣が作れるようになる。
リードルシュの剣は師匠に近付いた。ただ魔術を用いたのがバレて破門を言い渡されてしまう。リードルシュは師匠に今までの礼として給金の全てを渡し去ろうとした。
その時に師匠から餞別として渡されたのは袋に入った黒曜石だった。産出量が多くない希少なものを大量に渡され涙する。一礼して去ると魔術師の元へと訪れ礼をする。その時に魔術師からも餞別として自分では扱いきれないものだからと隕鉄を渡される。
空から降ってきた、未知の鉱物で値は付けられない。売れば巨万の富が得られる代物だ。リードルシュは断るが、これを使って何時か相応しい者に渡す為の剣を作って欲しいと頼まれ強引に渡された。
こうして街への行き来が終わると、リードルシュは自分の家で鍛冶に没頭する。そして一年が過ぎた時、完成したのが黒隕剣だった。誕生の喜びにうち奮えたが、工房へ押し寄せたエルフの兵隊に捕縛される。
リードルシュは周りが見えないほど鍛冶に没頭していた。その怪しさに保守的なエルフ達は危険視し、隙を窺っていたのだ。
長老に種族に対して危機をもたらそうとしたとして、エルフと名乗れぬようにと罰を与えられた結果容姿が変わる。だがリードルシュは満たされて居たので罰を与えられても恨みは無かった。
アイゼンリウトへ招かれたのは、首都アイルから離れた街で工房を開き、武器を懸命に打ち評判を得た時のことだった。王はリードルシュの打った剣を気に入り、是非兵士達にと頭を下げた。
保守的なエルフとは違うその器の大きさに魅せられ、リードルシュは晴れて王室御用達となる。中でもアグニスは王の傍で戦う為に、強い剣を欲していた。毎日通い、手に馴染み強度の高い剣をリードルシュと共に日々調整した。
ダンディスと出会ったのもそんな時だった。アグニスに紹介された獣族は、どこか影のある兵士に見えた。
会う度に武勲を重ねて戻ってくるも、宮中の評判は芳しくない。それをダンディスに伝えるも、仕方ないと諦めたようだった。王が、アグニスが居ることで成り立っている軍であり、二人が欠ければエルフの里と何も変わりが無いとリードルシュは落胆した。
王が亡くなり興味が失せたリードルシュは流浪の旅に出た。目的も無く人との接触も最低限にし野宿も得意になった。胸の乾きが癒えない。さまよい歩いていた時、エルツの肉屋が高く買い取りをしてくれて、冒険者の間で信頼を得ていると言う話を聞き、何か予感がしてふらりと寄ってみた。
「旦那!」
懐かしい顔だった。兵士であった頃とは別人のような爽やかな笑顔で迎えてくれた旧友に、安心した。
「旦那もこの街で見つけてみたらどうかな」
「何を?」
「旦那の剣を、王やアグニス、俺以外に託せる相手が居るかどうか」
「居るとは思えないが」
「解らないぜ。ここは冒険者の出入りも激しく、活発で生き生きした連中が多い。その中には変わりモノが一人くらい居るだろう」
そう久しぶりに杯を交わした時に言われ、路銀を蓄える為に少しだけ
居ようと思って工房を開く。確かに活発だったが、誰も自分が手抜きで打った剣を見抜けなかった。
ここでもリードルシュは落胆し、いつしかこの世界に自分が望む持ち手など居ないのではないかと思い、引きこもった。
怠惰の中で過ごす日々の中で出会ったへんてこな男。明らかに自分より高等な種族を引き連れた人間は言った。
「ええ、でも残念なことに俺の力に耐えられそうなものが無いんで、取り合えず服だけで」
その言葉にカチンと来た訳ではない、心の中で自らが鍛冶に打ち込んでいた姿とその音が鳴った気がした。試しに打ちあうと言葉通りで剣を見る目もあったのが嬉しかった。真っ向から否定されたがそれが何よりも心を震わせる。
この男なら託せる。
この男の為に打ちたい。
そう思わせてくれた。
アグニスから竜を連れて去ったのがコウだと聞いた時、得も言われぬ嬉しさで笑顔になる。そういう男だと思った。期待通りだった。
そしてアイゼンリウトを救う為に戦うと言う。敵は魔族に身を落とし魂を食らった化け物と化した王。前王よりも強く自分では歯が立たなかった。
王と戦うべく進んだコウの背中と黒隕剣の覚醒。それは自身の予想を超えた者であり、この先どうなるのか誰よりも見たかった。位も望まず報酬も望まずただ冒険者の生活を取り戻す為、ただそれだけの為に剣を進化させたおかしな人間。
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