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第二章・アイゼンリウト騒乱編

第36話 冒険者少女たち・その二

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「コウは勝てるのか?」
「それは解らない。だからこそ黒隕剣は姿を変えた。元々通常の剣とは違う黒隕剣は、コウが握る度に成長をしていくのを感じていた。引きこもりのダメ人間から、誰かの為にもがき、罪を背負うのさえ厭わない人間に変わり始めたのを。もし最初のままなら今回の件に首を突っ込んだりもしなかったでしょう。大きな問題にに立ち向かう決意を固めそれを成し遂げさせる為に、必要な形態になったのよ」

「……何もかも見透かしたような言い草だな」
「でも結末は解らないわ。勝てるかどうかもそうだし、その後どうなるのかもね」

「我らが強くなれば助かる可能性があるのだな」
「高くなる、と言っておくわ。この戦いの結末は誰にも解らない。一時間毎に占いの結果が変わる」

「あの国はそんな事になっているのか」
「ええ、コウを助けるには貴女達の力が必要不可欠なの。さ、一刻も時間が惜しいわ。クエストへ行ってらっしゃい」

「ファニー早く早く!」

 リムンは本と杖を持って冒険者ギルドの入口へ素早く移動し、ファニーを呼ぶ。これにはミレーユも驚きを隠せない。話に気を取られていたとは言え、この世界の人間が使うレベルでは無い魔法で拘束していた筈なのにあっさり解かれてしまった。

本来生まれる筈の無い存在が生まれた。彼女はコウやファニー以外の奇跡の一つなのだろうが、生まれの過酷さや大切な幼少期に不憫を強いられた点も考慮すれば、この程度は彼女にあって然るべきだろう。

この世界を創造した男の理想の土台に、リムンも乗っているかもしれないと考えると手放しには喜べない。注意深く見守らなければ、とミレーユは思った。

「拘束が解かれたのか」
「目的がはっきりしてるなら、貴女達も無茶をしないでしょう?」

 ファニーも拘束が解かれているが、それも彼女の力の影響を受けただけだ。しかしそれを話すと余計な問題が生じるので、ここは自分が解いたというていで話を進める。

「食えん奴だ」
「いってらっしゃい」

 ミレーユは笑顔で手を振る。まだまだ試練は先。今は二人でのんびりと力を磨いてねと心の中で呟きながら、冒険者少女たちがクエストへと旅立つのを見送った。

                
                  ・



「皆の者! よく聞くが良い! 我は第一王子にして王位継承者である、アルディオである! 剣は国一、軍を指揮してはどの国の次期王にも勝る!」

 多くの鎧を着こんだ兵たちの前にある高台から大演説する、まさに王子と言わんばかりの煌びやかな格好に、飾が散りばめられ斬れそうもない剣を携えた男がいた。

「今回の魔物たちの動きは国を危ぶむ者たちによる扇動だと言う。これを討伐出来るのはこのアルディオのみであると硬く自負するところである!」

 鎧で素顔が見えないが、全員が全員辟易していた。頼みの綱の姫は独自で動いたという話が兵士達にも伝わっている。隙があればそちらへ向かいたいという者が、ほぼ全員である。

「……何が次期王だ……」
「全くだぜ。あの馬鹿に振りまわされるこっちの身にもなって欲しいわ」

「馬鹿は馬鹿でも飛びぬけてるからな。自分に攻撃が来ないように、常に一番後ろに居る癖に」
「まぁ馬鹿さで言えばどの国の次期王にも勝るな」

「言えてる。姫が婿でも貰ってくれた方がまだマシだ」
「どうせ今回も痛くも痒くもない所へ行くんだろ。気楽ではあるがな」

「そうだな。適当に切り上げて小隊長に姫の救援に向かうよう進言しよう」
「いや小隊長殿もそのつもりらしい。見ろよ王子様の後ろの隊長達を。誰もフルフェイスの兜を脱いでないだろ?」

「脱げるわけもないよな。馬鹿の演説を長々と聞かされるんだ。脱いだら寝ているのがばれる」

 兵士たちに散々な言われようの王子は大演説中である。最初はキチッと立っていた者たちも、段々と姿勢を崩し始めた。

「では皆の者!出立の準備に掛かれ!」
「はっ!」

 威勢のいい返事は、王子が自身の演説に満足し終えた事への喜びだった。自己顕示欲の塊のような演説を聞かせられるのは、苦痛以外の何物でもないからだ。

「皆の者!続け!」

 城門に一軍を引き連れ、先頭に立つ王子は剣を掲げ馬を走らせる。そして魔物がいるであろう森に近付くと、段々と速度を下げ集団に埋もれて行き最後列になった。通り過ぎる兵たちは心の中でこの王子を軽蔑していた。市民には良いカッコをしたいが、見えなくなれば安全な所へ引く。

有能であれば指揮の為だと理解するが、後ろに居ても討伐にてこずると、将軍から隊長、小隊長へと叱責が伝令で伝えられるという迷惑極まりない存在だった。魔物を討伐しつつも、兵たちは思っていた。

 この無能な主が国王になったら国が破綻するのではないか。姫はいつも先頭に立ち味方を鼓舞し、自らも奮闘する。時には殿さえ務める。どさくさにまぎれてこの無能者を亡き者にするか。口を合わせなくとも兵たちの間で思惑が交差する。

問題は誰が亡き者にするか。

それがいつも課題であり、それが躊躇われるからこそ王子は存命出来ていると言っても過言ではない。しかし何かきっかけがあればと誰もが思っていた。

 不穏な空気に包まれつつも、村を襲う魔物を討伐していく兵士たち。しかしいつもと違うのは、中に魔族が混じっていたからだ。その異変に気付いた兵士たちは伝令を飛ばし、状況を伝える。

「魔族が何だと言うのだ!民の為にさっさと片付けよ!」
 
 という期待を裏切らない馬鹿な回答に戦意をそがれて行く。徐々に押し込まれ後退を余儀なくされる兵士たち。王子はいち早く後退していた。仲間の屍を見つつ後退する兵士たちの心の中で怨嗟がとぐろを巻き始める。

「いいわぁ心地良いわぁ」
「本当ねお姉さま。実に良い気分だわ」

 後退する王子の前に、二人の女性が現れる。一人は長い黒髪から飛び出て上に尖る耳とコウモリの羽根に、タイトな黒い鎧を纏った美女。

もう一人は黒い髪を両端で縛りそれによってはっきりと見える尖った耳、幼い顔立ちで口から犬歯が尖って出ている。コウモリの羽根を世話しなく動かし、黒のワンピースが印象的な美少女だった。

「くっ魔族か!者ども奴らを倒せ!」

 王子の号令に誰も従わなかった。全ての兵士がその切っ先を王子へ向けんとしていたからだ。

「きっ貴様ら!我が命を聞けんと言うのか!?」
「あらあら、どうしようかしらアリス」

「そうねえイーリス姉さま。同志討ちさせるのも面白いんじゃないかしら?」
「おのれ、おのれ、おのれ!」

 王子はそう叫びつつも、魔族と怨嗟を抱く兵に挟まれ右往左往するばかりだった。
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