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第二章・アイゼンリウト騒乱編

第35話 冒険者少女たち・その一

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「だったらどうすればいい?」
「そうだのよ……おっちゃんこのままだと……」

 ファニーは沈痛な面持ちで俯き、リムンは半泣きになって鼻をすする。

ミレーユもそんな彼女たちを見て可愛らしいなと思い行かせてあげたいとも思ったが、それこそ冷静では無いと頭を振り今出来る現実的な提案をする。

「簡単な話よ。貴方達がコウの力になれるようにすればいいだけ」
「今の我らでは力にならんと?」

「そうよ。貴方が本来の姿に戻らざるを得なくなれば、それは迷惑にしかならない。リムンちゃんも抵抗力が高いだけ。それはそれで凄いのだけど、スライムは従えても今はもう無いし、それに変わる戦う手段が無ければ意味が無い」

 ミレーユはリムンの頭を優しく撫でながらもしっかりと伝えるべきものは伝える。リムンはついに泣きだし

「リムンが泣くような話をするな!」

 とファニーは噛みつく。しかしミレーユは笑顔を崩さない。最初ここに来た頃よりも、年下のリムンを護ろうとするファニーの姿に、彼女は少しホッとしていたからだ。

生贄を逃がして来ていたとは言え、自分以外の生き物に欠片も興味も持たず、愛着も無かったが故に閉じこもっていた。

自ら膨大な魔力を消費して人の姿となった。口では元の姿にと言うが、消費したリスクによりそれが叶わないのを知っている筈。

それでも口に出すのは以前のファフニールであれば絶対に無かった。ましてや他者の為に怒り取り乱すなど有り得ない。

ミレーユはリムンよりもファニーの可愛さに堪えるのが必死だった。そして転生者として悲しい運命を背負っている彼、遠野コウの行きつく先も彼女が居れば大丈夫だろうと思い始めている。

良い出来事も偶には起こるものなのね。そう心の中で呟いてから、何とか先の旅に少しでも力になるよう促すべく気持ちを切り替えた。

「現実はもっと酷いわ」

 全てを堪えて声のトーンを抑え気味に発したミレーユの言葉に、ファニーは押し黙りリムンは大泣きする。

「で、貴方達はそれぞれコウの役に立つ戦い方を身に付けなければならない」
「具体的には?」

「ファニーはその状態での力の加減を学ぶ。リムンちゃんは抵抗力と魔力を使って結界を作るのと、幻術を学ぶ。これが最低条件よ。勿論いきなり上級では無くて初級程度で良いの。それが出来れば今は何とかなる筈」
「……なるほど。それを身に付けねば、冒険者として世は上手く渡れぬか」

「ええ、黒隕剣はこれから先を見据えて姿を変えたわ。となると今でもギリギリの状態で、結末に辿り着くにはまだ足りない」
「何でお主がそんな事を……我も何かが近くで起こったからこそ、リムンを叩き起こしたのだ。詳細までは解らなかったのに」

 あまりにも肩入れしすぎて自分でも驚く程前のめりになって喋り過ぎてしまった。どんな立場の者でも、良い出来事があれば浮かれてしまうんだな、とミレーユは自嘲気味に笑った。

あまりやり過ぎると全てのリンクが外れてしまう。そうすれば道を外れ見捨てられた者たちを護ると言う役目を果たせない。それは絶対にあってはならない。

自らの役目をもう一度思い出し、頭を振ってミレーユは話を続ける。

「私は勘が良いのよ。それに貴方達に力があるように私にもあるのは当然でしょう? それよりも考えるべき問題がある。貴方達はコウが死んでも良いの?」
「嫌だのよぉ!」

 リムンはミレーユの手を払いのけ、涙で顔がくしゃくしゃになりながら否定した。ミレーユは思う。私がどう言う存在であるかなど考える必要は無い。自分たちが手にしたものを決して離さない為戦いなさい、そう念じながら払われた手をカウンターに戻した。

「なら今すぐにでも取りかかりましょう。残された時間はそう多くは無い」
「どうすればいいのだ」

「取り合えず二人でクエストを受けてもらう。そして実地で習得してもらうわ。今回は私の権限で報酬をギルドから出します。討伐はイノシシの群れ。荷車を押して行けばその肉はこっちで買い取るから」
「……このギルドに長というかお主の父親などいるのか?」

「居るわよ。私は自然発生した訳じゃないから。今は会う時期じゃないだけよ」
「アタチ結界とか良く分からない……」

「リムンにこれを渡しておくわ」

 そう言った後、ミレーユはカウンターの下から杖の先に丸い水晶が付いた杖と、厚い本を取りだした。多少ズルはするが、コウに施した物よりもずっと小さいズルなので恐らく干渉しないだろうと考えながら。

「この本を読みながら実地で試して習得して頂戴。本来なら私自身が教えたい所なのだけど、私は魔術に関しては素人だから」
「なら何が専門なんだ」

「そうね、敢えて言うなら戦い全般かしら」
「全般だと?」

 ファニーは訝しむ。竜である自分を縛りつけ自由を奪える。そんな魔法をただの人間に出来るものなのか? と考えた。

これまで洞窟で透視した後千里眼や超聴覚を利用し、見聞を広めて来たがそんな魔法は初めて見たし体験した。

自分を閉じ込めておくなどと言うものよりもずっとハイレベルな魔法をギルドの受付が何故……。

 ミレーユはミレーユで自分は案外おっちょこちょい何だなと思い少し呆れている。あまりにも嬉しくて少女の様に色々口を滑らせてしまった。

長い間存在しているが根っこは何一つ変わらないのは基礎設定の為せる業なのか。それはさておき、話を逸らすかどうか考えた結果、ある程度は話してしまう他無いだろうと彼女は思った。

根幹に触れる部分については話せないし、話せば消されてしまうだろうが、ファニーはそこまで愚かでは無いだろうと信じて。

「そう。竜を縛るのは人でも出来るわ。その代わり私はここから動けないの。そういう条件付きだから可能とも言えるわ」

 今は、というのを省いて話すミレーユ。現在の状況では全て真実だから間違いではないし嘘でも無い。

「詳しくは聞くなと言うのだな」
「ええ、そうよ。今後を考えれば聞かない方がスムーズに行くのは保障するわ」

 知れば全て消えてしまう……と言うよりもう一度一から自分等を省いた全てがやり直す。ミレーユ自身も再チェックを受けてリスタートする。だがそれでこのおっちょこちょいは無くなるのだろうか。

大本の謀反気がうつっているなら治しようも無い……いやこの方針は大本の狙い通りなのかもしれない。竜の少女と出会わせたのもアレをどうにかしたいからか。

何にしてもルールはルール。逸脱しすぎると本当にそうされてしまうから、自重しなければとミレーユは気を引き締める。


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