上 下
32 / 75
第二章・アイゼンリウト騒乱編

第29話 おっさん、解りにくい悪を見つける

しおりを挟む
「ほほう、舞踏姫の武勇だけでは飽き足らず、国を治めようというのか?」
「私が治めなくとも構いません。ですが、今のままでは何れ国は崩れましょう。それを理解せぬ父上ではありますまい」

  王様は悪い顔しているが余裕で姫に問い、姫も引かず真正面から答えている。それにしても王様のこの余裕っぷりは何だ? 竜を崇めている国で居なくなったとなれば大慌てして喚いても可笑しくないのに。何かまだ手を持っている……いやそもそも竜を封じておいたのは国の安泰とは関係ないのかもしれない。

「ふふん、そんな事はない。現に今も国は安泰そのものだ。そなたが罪人を確保した事で、民も納得しよう。なぁアグニス宰相」
「ええ、ええ、陛下。我が国の至宝たる姫君が罪人を捕えて参ったのです。何も問題はありますまい。それよりも代わりの仕組みを整えませんと」

 俺を取るに足らない存在だから居ないものとして話を進めているのが分かる会話の内容だ。俺を生贄に差し出した村の人間が聞いたらどう思うか、なんてのは想像したくない。

「そちの良いようにせよ。そちの行いは全てわしの為であるからな」
「ええ、ええ、勿論ですとも陛下」

 ……何と言う解り易い悪役だ。アグニス宰相というのは六十を超えてそうな
青白い肌に薄気味悪い笑みを浮かべた細身の爺さんだ。王は傀儡に過ぎない、
この爺さんが裏で手を回したと言う風に聞こえるが果たして本当にそうだろうか。

権力を欲しいままにして私腹を肥やしているとしたら、テンプレな悪役過ぎてとても安易に思える。そこまで親切では無いだろうな流石に。

「父上、一旦下がらせて頂いても宜しいですか?」
「うむ。罪人を逃がさんようにな」

 そう言われて姫は俺と腕を組んで王の間を出て行く。本当にあの二人にとって俺は取るに足らないらしいな罪人なのに扱いが軽すぎる、てか姫にも興味なさそうだし何だあの王様は。

「どうだ?」

 小さく俺に耳打ちする姫。どうもこうもない。分かり易い不愉快な二人組で細かい感想すら述べたくない。と言うか腕を組んでいて姫が近いのがちょっと困る。ファニーが見たら確実に殴られるな、俺が。

結果的に言い訳が出来たとは言え、置いてけぼりにしたのは間違いないのでお仕置きは覚悟した方が良いが。考えるのも怖くなったので頭を振り姫に大臣の話を振ってみる。

「あの爺さんはどういう奴なんだ。解り易い悪い大臣て感じだけど」
「大臣より上だ。文字通りこの国を仕切っている人物になる。更に怖い事実を言うが、あの方は腕が立つ上に魔力もそれなりだ」

「なるほど。上手く王に取りいって成りあがった訳じゃないってことか」
「ああ、私が王に改革の意思を示したのも、その宰相の態度を見る為だ」

「何にも考えてなかったんじゃないのか?!」

 俺が驚いてそう言うと、にっこり微笑んで姫は腕を解く。そして瞬きをする暇もないくらいの速さで、姫の肘が鳩尾にめり込む。悶絶する俺を引き摺って姫は進む。ホント逞しくて涙が出そうだ。

「新しい仕組みとは何だろうな。まぁ恐らくは貴殿を処分し竜が居る事にして、生贄を洞窟に閉じ込め始末するという方法を取るのだろう」
「いたたたた。まぁその位が妥当だろうね。どうもドラスティックな改革をしそうにない人物のようだし」

「流石だ」

 俺と姫は王の間を出てからさっきの場所に戻りビッドたちと合流した後、右に行った先にある大きな階段を上る。踊り場に出た後で真っ直ぐ進み暫く歩いた所の扉を開けた。質素だが所々可愛らしいデザインの装飾が施された、女性の部屋だ。もっと無骨な部屋を想像したんだが。

「さ、掛けてくれ」

 姫はダメージの抜けない俺を丁寧に椅子にかけさせると、姫自身は俺と向かい合うように椅子に座った。部屋の前に居たお供と僕に同行して来たお供は姫の後ろへ控え、ビッドは俺の後ろに居る。

「で、今後どうするかだが」
「あの様子だと俺を大々的に処刑しようとするだろう」

「だろうな。私もそう思う」
「しかし俺は一つ忘れていた事を思い出した」

「何だ?」
「竜が消えた事は、周りのモンスターたちの方が気配で感じたんじゃないか? そして確証を得ればその動きは活発化する」

「村々が危ないな」
「討伐隊を編成していかなければならない、と言う事は」

「我々が赴いてそれらを各個撃破し、民に向けて声望を高める事が出来るか」
「そう言う事だ。しかしそうなると気に入らないな」

「何が?」
「あの宰相だ。腕も立ち魔術の方もそれなりと言う事は、冒険者か軍隊に所属して戦った経験があるんだろう? そんな人物が果たして俺程度が考え付く事を考えていないかな?」

「しかり」

 俺はその声に驚き振り返る。
そこには王の間に居たあの薄気味悪い宰相が一人で立っていた。

「まてビッド」

 俺は身構えたビッドの腕を掴み制止する。こんなところであの人に怪我をさせたりしたらその罪だけで死刑確定だろうし、この場で殺されても文句は言えない。

折角問題を解決する小さな糸があるんだ。今は大人しくしてその糸をしっかりと引いて手繰り寄せるまで我慢の時。

「宰相閣下は何かお話があるようだ」

 そう言って俺は宰相に向かって笑顔を見せた。すると、薄気味悪い笑みをするのかと思いきや、豪快な笑い声を上げた。

「いやなるほど、どうやら多少の思慮はあるようだな若いの」
「思慮と言うか、貴方が本気になれば俺を抹殺する位造作も無いでしょう。何せ音も立てずに女性の部屋に入れるんですからな」

 何かの魔術を使用して来たんだろうが、流石この国を仕切っていると言われているだけある。これなら王や国の方針に反対する者を闇に紛れて暗殺するのも容易い。

現に声を掛けられなければ気付かなかったし、面食らって動けなかったのは間違いない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...