上 下
25 / 75
第二章・アイゼンリウト騒乱編

第22話 おっさん、初依頼を終えて温かな食卓を囲む

しおりを挟む
「あら、おかえりなさい」

 町に戻り冒険者ギルドのウェスタンドアを開けると、直ぐにミレーユさんの声が耳に届き安心する。帰ってこれたんだと。
振り返るとゴブリンよりは怖くは無かったが、下手をすれば溶かされたかもしれないスライムと戦っていたと思うと急に身震いがした。

「あらあら、新しいお仲間かしら」
「あ、え、ええ。リムンです。リムン、ミレーユさんにご挨拶を」

「……アタチはリムン……」

「宜しくねリムンちゃん。……コウ、新しく冒険者ギルドに登録しても良いかしら?」
「あ、はい。宜しくお願いします」

 ミレーユさんに依頼の紙を渡し、内容をジッと見た後ミレーユさんは
リムンに優しく声を掛けてくれた。ある程度はお見通しの上で気を遣ってくれ感謝しかない。

「リムンちゃんは凄いわね……他種族に対して抵抗がすば抜けて高いわ。魔力も。キチンと学べばモンスターを従える事も出来るかもしれない」
「これはゴブリンシャーマンとドラフト族のハーフだそうだ」
「これっていうな! へんてこ女!」

「これはこれだ」
「何だのよ!」

「はいはいストーーーップ。同じことを二度もしない。ミレーユさんも困るだろ?」

「ふん!」
「……あい」

 ファニーは腕を組んでそっぽを向き、リムンはしゅんとした。
中々大変ではあるが、引きこもり集団だしこれくらいはコミュニケーションの一つだろう。

「取り敢えずドラフト族のハーフとして登録しておくわね」
「ありがとう」

「後、これは言っておかないとダメだから言うけど」
「依頼の件ですね」

 言われるだろうなと思っていたし組織として不味いからお叱りは当然だろう。俺の責任なので二人が嫌な思いをなるべくしないよう的になるべく俺が言うと、ミレーユさんは真顔で頷く。

「そう。冒険者ギルドは無料奉仕団体ではないわ。報酬を無料にしてしまうと、他の冒険者より無料で依頼を受けてくれる冒険者に、となってしまって問題になる。依頼に問題があった場合、依頼主にペナルティを科さなければ他の冒険者が被害を受ける可能性があるの。冒険者が勝手に依頼内容を変更するのも、仲介している冒険者ギルドの信用にかかわるのよ」
「個人で請け負っている訳じゃないのだからその通りです、申し訳ない」

「解ってくれてありがとう。今回の件はこちらの調査不足もあったようだし、お互い様ってことでペナルティ無しにしましょう」
「こちらこそありがとうございます」
「いいえ、今後無いように気を付けてね。あまりにも度が過ぎると、冒険者ギルドから追放せざるを得ないから」

「肝に銘じておきます」
「我らに二階を提供したのは監視が目的なのだから、ある程度はすませてくれるのだろう?」

 俺とミレーユさんの間に急にファニーが入ってきた。リムンの時から不機嫌全開である。

「そうね。貴方達の力は控えめに見ても異質だわ。ここに居れば、他の冒険者たちから危険視される可能性が低くなる。冒険者ギルド公認という風に捉えてくれるから。これは貴方達にも利益があるのだからお互い様よね」

 その言葉に何か言いたそうなファニーの頭を撫でて落ち着かせる。これは中々効果がある。

「ミレーユさん申し訳ない。俺たち何と言うか、その、あまり上手く交流できないもんで……」
「良いのよ。不器用なだけで悪い人達では無い、というのは会って話して解っているし、ファニーが今とても機嫌が悪いのも解っているから」

「ありがとうございます」

 俺は心の底から感謝した。ミレーユさんの心の広さは、これまで曲者の冒険者を幾人も相手にして来たことで得たのかもしれないと思う。
もし生まれつきなら神様なのかもしれない。そう言えばあの世界で逢った人ってミレーユさんに少し似てる気がする。

ミレーユさんを見ながら考えているとファニーとリムンに両側からベストを強く引っ張られ、後ろに倒れてしまう。何なんだ一体。

「まぁ硬い話は抜きにして、少し早めの夕食にする?」
「そうだねお願いしようかな。ファニー何が食べたい? 何でも好きなものを言って良いぞ。まだこの前のお金もあるし」

「ふ、ふん。我はモノでは釣られん」
「そっかじゃあリムンは……」

「あ! 待て待て。今考えるから」

 そう言うとファニーは腕を組んで考え込む。俺はそれを微笑みながら待つ。恐らくファニーは、リムンばかり気に掛けている俺に対して不満があったのだろう。ファニーを先にして正解だった。少し雰囲気が和らいでいる気がする。

「じゃあ肉を食いたい! 腹いっぱい!」
「じゃあそうしよう。ミレーユさんそれでお願いします」

「解ったわ。とは言ってもファニーの胃袋を全て満たすほど、うちにお肉の在庫が
あるかどうか……」
「よい。昨日の夕飯の二倍くらいあれば、この体には十分だ!」

「それなら助かったわ。コウとリムンは同じメニューで良いかしら」
「リムンは沢山食べるのか?」

「……わからないだのよ。こういう食事したことないだのよ」
「ならおかわりしたくなったら言ってくれ。遠慮するな。まだ蓄えがある!」

「そう多くは無いがな」
「そうだね。明日以降頑張る為に先ずは腹ごしらえだ!」

「うむ!」

 ファニーと笑いあうと、リムンをカウンターの前の椅子に座らせ、ファニーにも椅子を引いて促すと、照れくさそうに前に出て俺はそれに合わせて椅子を押して座らせ自分も隣に座った。そこからは大分賑やかになった。
ファニーは肉にがっつきながら、リムンは最初はおっかなびっくり食事をし始める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私って何者なの

根鳥 泰造
ファンタジー
記憶を無くし、魔物の森で倒れていたミラ。テレパシーで支援するセージと共に、冒険者となり、仲間を増やし、剣や魔法の修行をして、最強チームを作り上げる。 そして、国王に気に入られ、魔王討伐の任を受けるのだが、記憶が蘇って……。 とある異世界で語り継がれる美少女勇者ミラの物語。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

処理中です...