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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第21話 おっさん、大人らしく振る舞う
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「うぅ……」
俺は暗闇から抜け出したくてもがくと
「コウ、しっかりせよ!」
「おっちゃん、しっかり!」
ファニーとリムンの声を聞いて目を開く。二人は心配そうな顔をしながら俺の体を揺さぶっていた。笑顔を見せると安心したのか、少し離れ俺はゆっくりと上半身を起こす。そして二人の頭を撫でながら
「ありがとう、大丈夫みたいだ」
感謝をした。二人は安心して笑顔になる。
しかしあの夢……なのかどうなのか分からない現象はなんだったのだろう。
二人の頭から手を離し手を握っては開きを繰り返してみる。
何の後遺症も無いようだ。
今回特別にリスク無しでとあの絶世の美女は言っていた。
黒隕剣の話も最後出て来たが何かあるだろうか。
「コウ、その剣は思ったより難物のようだな」
「やっぱりこれか」
俺の横に置かれた黒隕剣に視線を移す。竜として色々なものを洞窟に閉じ込められながらも見ていたファニーが言うのだから、やはりこの世界にとって異質な存在なんだろう。
そう言う意味では俺にまさしく相応しい剣なんだなと思った。
「うむ。我の見たところ、倒れた時のお主の魔力量はゼロで生命力も削られていた。それで我らはこれだけ心配したのだ。生憎元の姿に戻る訳には行かんので、この姿のままこれと一緒に敵が来ないよう気を付けながら目覚めるまで待っていた」
「元の姿で町に戻って居たら大騒ぎになるからな……大変だったろう? リムンも」
「おっちゃん生きてるか!?」
「生憎生きているようだから心配ない。さぁ町に戻ろう」
俺は二人に笑顔を見せて立ち上がる。リスクが無いどころか回復しているようにも思えたが、兎に角あの絶世の美女には感謝しないとな。
「……凄い回復力だな」
「ああ、今回は運が良かったみたいだ。でも今後は別の対策を考えないと、毎回倒れる羽目になりそうだ」
「おっちゃん凄いな! お父みたいだ!」
「全然凄くないよ。たまたま運が良かっただけだ。二人とも、今後も頼りにしているよ」
そう言って俺はゆっくり歩き出し振り返って言うと、ファニーとリムンは我先にと駆けてきた。
「本当にすみませんでした」
「ごめんなさいだのよ」
俺は真っ先に最初に出会った農家の人の所へ行き、事情を話しリムンと一緒に頭を下げて謝罪した。
「いやいや、冒険者さんがキチンと解決してくれなかったら、追い払ってもまた依頼を出さなきゃならなかった。依頼を受けてくれたのが、アンタで良かった」
そう言って俺の手を握り感謝してくれた。良い人で助かった。それもこの町と国の豊かさがあればこそ、なのかもしれないが。
「それで依頼の成功報酬なんですが、今回はそういう事なので無しで」
「いや、でも」
「いえいえ、農作物に被害が出ているでしょうし、補填すると言っても俺はここの物価が解らない。なので冒険者ギルドと相談してからになりますが、取り敢えず謝罪の意味も込めて無しにして頂ければと思います」
「……そうか、ならそうさせてもらおう。で、補填は良いよ」
「ですが……」
「いやいやアンタが正直に話してくれたから、俺も正直に話すけどあの森の奥に誰かいて、意図的に増やしている可能性を考えなかった訳じゃないんだ。それを依頼にプラスすると、更に料金は掛かっていた。ズルを最初にしたのはこっちなんだよ」
「やはりの」
「あはは、やっぱりアンタ達もそう思ってたか。なら話は早い。アンタの好意に甘えさせてもらって報酬はサービスしてもらって、補填は無しでこの話を終わりにしよう。他の冒険者が来ていたら、その女の子もどうなっていたか解らない。俺にも良心の呵責はある。アンタも男ならそこを汲んでくれるだろう?」
「……解りました。ではこちらも甘えさせて頂きます。有難う御座います!」
「こちらこそ。その女の子を頼んだよ。お嬢ちゃんもこれからはしっかり生きるんだぞ」
「……ありがとだのよ」
こうして俺たちは農家の人に見送られた街へ戻る。依頼の紙には
”気の良い冒険者さんに完全に解決してもらい、サービスして貰った”
とサインと共に農家の人が書いてくれた。これをギルドに出せば初クエストの完了だ。
「おっちゃん、ありがとうだのよ……」
リムンは俺のベストの裾を掴みながら歩きつつ、そう小さな声で感謝の言葉を口にした。引きこもりが人に感謝の言葉を言うには勇気がいる。
世界の全てが自分を疎み蔑んでいて、自分を不幸にしていると信じていたのだから。優しさに触れると不安になる。これは嘘ではないのか、と。
「ああ、これから頼りにさせてもらうんだから、お互い様だよ」
「うん……」
安心させるようにそう俺は言って頭を撫でる。この優しさが永遠ではない事を知っていても、すぐに消えてしまうかもしれないと怖くなる。
俺がいつか死を迎えるまで、リムンが感じた優しさが嘘ではなくすぐ消えてしまわないものだと信じられるまで、俺は出来るだけ優しくしようと思う。
勿論ダメなものはダメだと言って叱らなければならない。
っていうかこんなダメで無職の引きこもりのおっさんが説教するなんておこがましいけど、無い頭でひねり出して少しでも足しになるように、注意を促して行こう。
いつの日かリムンが一人でも明るく生きていけるように。
俺は暗闇から抜け出したくてもがくと
「コウ、しっかりせよ!」
「おっちゃん、しっかり!」
ファニーとリムンの声を聞いて目を開く。二人は心配そうな顔をしながら俺の体を揺さぶっていた。笑顔を見せると安心したのか、少し離れ俺はゆっくりと上半身を起こす。そして二人の頭を撫でながら
「ありがとう、大丈夫みたいだ」
感謝をした。二人は安心して笑顔になる。
しかしあの夢……なのかどうなのか分からない現象はなんだったのだろう。
二人の頭から手を離し手を握っては開きを繰り返してみる。
何の後遺症も無いようだ。
今回特別にリスク無しでとあの絶世の美女は言っていた。
黒隕剣の話も最後出て来たが何かあるだろうか。
「コウ、その剣は思ったより難物のようだな」
「やっぱりこれか」
俺の横に置かれた黒隕剣に視線を移す。竜として色々なものを洞窟に閉じ込められながらも見ていたファニーが言うのだから、やはりこの世界にとって異質な存在なんだろう。
そう言う意味では俺にまさしく相応しい剣なんだなと思った。
「うむ。我の見たところ、倒れた時のお主の魔力量はゼロで生命力も削られていた。それで我らはこれだけ心配したのだ。生憎元の姿に戻る訳には行かんので、この姿のままこれと一緒に敵が来ないよう気を付けながら目覚めるまで待っていた」
「元の姿で町に戻って居たら大騒ぎになるからな……大変だったろう? リムンも」
「おっちゃん生きてるか!?」
「生憎生きているようだから心配ない。さぁ町に戻ろう」
俺は二人に笑顔を見せて立ち上がる。リスクが無いどころか回復しているようにも思えたが、兎に角あの絶世の美女には感謝しないとな。
「……凄い回復力だな」
「ああ、今回は運が良かったみたいだ。でも今後は別の対策を考えないと、毎回倒れる羽目になりそうだ」
「おっちゃん凄いな! お父みたいだ!」
「全然凄くないよ。たまたま運が良かっただけだ。二人とも、今後も頼りにしているよ」
そう言って俺はゆっくり歩き出し振り返って言うと、ファニーとリムンは我先にと駆けてきた。
「本当にすみませんでした」
「ごめんなさいだのよ」
俺は真っ先に最初に出会った農家の人の所へ行き、事情を話しリムンと一緒に頭を下げて謝罪した。
「いやいや、冒険者さんがキチンと解決してくれなかったら、追い払ってもまた依頼を出さなきゃならなかった。依頼を受けてくれたのが、アンタで良かった」
そう言って俺の手を握り感謝してくれた。良い人で助かった。それもこの町と国の豊かさがあればこそ、なのかもしれないが。
「それで依頼の成功報酬なんですが、今回はそういう事なので無しで」
「いや、でも」
「いえいえ、農作物に被害が出ているでしょうし、補填すると言っても俺はここの物価が解らない。なので冒険者ギルドと相談してからになりますが、取り敢えず謝罪の意味も込めて無しにして頂ければと思います」
「……そうか、ならそうさせてもらおう。で、補填は良いよ」
「ですが……」
「いやいやアンタが正直に話してくれたから、俺も正直に話すけどあの森の奥に誰かいて、意図的に増やしている可能性を考えなかった訳じゃないんだ。それを依頼にプラスすると、更に料金は掛かっていた。ズルを最初にしたのはこっちなんだよ」
「やはりの」
「あはは、やっぱりアンタ達もそう思ってたか。なら話は早い。アンタの好意に甘えさせてもらって報酬はサービスしてもらって、補填は無しでこの話を終わりにしよう。他の冒険者が来ていたら、その女の子もどうなっていたか解らない。俺にも良心の呵責はある。アンタも男ならそこを汲んでくれるだろう?」
「……解りました。ではこちらも甘えさせて頂きます。有難う御座います!」
「こちらこそ。その女の子を頼んだよ。お嬢ちゃんもこれからはしっかり生きるんだぞ」
「……ありがとだのよ」
こうして俺たちは農家の人に見送られた街へ戻る。依頼の紙には
”気の良い冒険者さんに完全に解決してもらい、サービスして貰った”
とサインと共に農家の人が書いてくれた。これをギルドに出せば初クエストの完了だ。
「おっちゃん、ありがとうだのよ……」
リムンは俺のベストの裾を掴みながら歩きつつ、そう小さな声で感謝の言葉を口にした。引きこもりが人に感謝の言葉を言うには勇気がいる。
世界の全てが自分を疎み蔑んでいて、自分を不幸にしていると信じていたのだから。優しさに触れると不安になる。これは嘘ではないのか、と。
「ああ、これから頼りにさせてもらうんだから、お互い様だよ」
「うん……」
安心させるようにそう俺は言って頭を撫でる。この優しさが永遠ではない事を知っていても、すぐに消えてしまうかもしれないと怖くなる。
俺がいつか死を迎えるまで、リムンが感じた優しさが嘘ではなくすぐ消えてしまわないものだと信じられるまで、俺は出来るだけ優しくしようと思う。
勿論ダメなものはダメだと言って叱らなければならない。
っていうかこんなダメで無職の引きこもりのおっさんが説教するなんておこがましいけど、無い頭でひねり出して少しでも足しになるように、注意を促して行こう。
いつの日かリムンが一人でも明るく生きていけるように。
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