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1章

入口付近

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 暫く空を見上げていて気付いた。俺はなんでここにいるんだ。
突然チート能力を手に入れてファンタジー世界にいるもんだから、
ついついテンションがあらぬ事になってしまった。

 はよ帰らないとなぁ。あの腐った後輩を野放しにしていては、
会社のデスクがオタグッズのブースと化してしまう。
そんな事になったらまた課長からお小言の雨霰だ。
俺はゲンナリした気持ちで溜息を吐く。

 ふと目線を下におろすと、エルフの主婦の皆さんが
続々と俺の目の前に物を持ってきて置いていた。
そしてリュックサック位の大きさの紐付き袋を手に、
これは色々なものを詰め込める魔法の袋である事、
中に入れた物を覚えておき、取り出すときに思い浮かべながら
手を突っ込むと出てくるらしい。

 一つ一つ、これはリンゴだのこれは油の容器だのと
五歳児に教えるように言われながら、袋に物を突っ込んだ。
終わって俺は直ぐに立ち上がり、バッグを肩に掛ける。

「んじゃな。期待しないでくれよな」

 俺はそう告げて世界樹の麓まで足を進める。
後ろではがんばってー!だのお願いねー!だの気を付けて―!だのと
わしゃお使い番組の子供かって言いたくなるくらいの声援を浴びながら、
エルフの村を後にする。ある程度離れた瞬間、俺はダッシュする。
あんな感じで見送りされてダッシュなんぞしたら、照れ隠しみたいで
超絶嫌なんで我慢して若干早歩きだが歩いた。

「ンゴォオオオ」

 なにやらやわらかめの泥んこが地面から起き上がり、
人型のなりそこないみたいになってこちらに向かってきた。
世界樹の麓の近くまできたんだが、もしや入口が近いのかもしらん。
俺を確実に視認したのか、水泳のバタフライみたいに地面を
出たり入ったりしながら高速で近付いてきた。

「おいおいマジかよ」

 こういうのってどうすればいいんだろうな。
後輩は萌えとかカップリングがどうとか言うだけで、
マニアックな素晴らしい知識とかそういうの一切無かったんだよな。

「どーすっかなどーすっかな!」

俺は解りやすい位あわあわしている。
こういうのってチートとか関係無く、
殴ったりしたら引き込まれたりとかしそうな気がする。
物理的に破壊とか出来ないんじゃね?これ。

「あーらお兄さんお困りで?」
「胡散臭いから間に合ってるわ」
「あら失礼」

 何やら耳元に変な甲高い女の子の声がした。
しかしこういう森であのジジイみたいのがエルフで居るんだから、
どうせ碌なもんじゃない。オーケー解ってる。

「あ、そうだ。油油」

 俺は袋を肩から下ろし手を突っ込もうとした瞬間、
何かが俺の後頭部にぶつかった。

「いって!」
「何してんのアンタ!?」
「は?あの泥を火で炙って消そうかと」
「山火事起こす気か!」
「森火事じゃね?」
「ひっくるめて山火事なの!そんな事より森に火つけるとか
何考えてんの!?賠償問題よ!?」
「賠償て……」
「当り前でしょアンポンタン!自然を大事にしなさいよ自然を!」
「いってぇな!お前はオカンかよ!」
「オカンでもミカンでも無いわ!兎に角イカンのよ!」
「……駄洒落だ……いてっ!」

 ブンブン俺の周りを小突きながら飛び回っていた喋るハエは、
俺の的確な突っ込みに憤慨したのか目の前に来て鼻を蹴った。

「ハエ人間?」
「ハエ人間違うわ!フェアリーよフェ・ア・リー!」
「ファニー?」
「フェアリーだっつってんでしょこのスカタン!」
「いってぇな止めろやハエ人間!」
「貴様!!」

 ホント何て日だ。変なジジイに絡まれるわ
ハエ人間にド突きまわされるわ。
取り合えず異世界にいてこれは夢なんて生易しいもんじゃ
無い事は、ド突きまわされて理解したわ。痛いもんね。
ダメージを受けて目が覚める夢オチはこれで期待できない。

「いい加減にしろよこのハエ!」

 何となく勘で叩き落そうと手を振り下ろした。
そして感触があったのでとっさに掴んだ。

「つーかまーえーた」

 俺はジジイに負けず劣らずであろう嫌らしい顔をしながら、
握っているハエ人間の顔だけ出してご対面した。
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