異世界営生物語

田島久護

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相良仁、異世界へ転職!

風舞う教会

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「今回の襲撃の目的は町を破壊するだけでなく、誰かを排除する目的があったと思います。私たちやクライド殿以外で。となると村周辺を積極的に捜索したい町長か色々知り出した貴方か。まぁ両方でしょうね」
「村を探られると困るんですねやはり。例えば暗闇の夜明けのこの国における拠点があるとか」

「どうでしょうか。貴方が報告した時詳細な調査を村は拒絶した。国も見逃したのを考慮すると見つかってはならない何かがそこにあるのは間違いないですが」
「アタイたちと握手をしながらもう一方の手で別のやつと握手をしている可能性もあるよねぇ」

 ティーオ司祭とシスター、それにクライドさんを町から遠ざけたのはゴブリンの襲撃に巻き込まれたら不味いからと考えられても仕方が無い。竜神教の司祭とヨシズミ国の貴族が襲われたとなれば、問題無いと言った人物の首一つでは済まなくなるだろうし。

そうなると暗闇の夜明けとこの国の上層部が繋がっている可能性が高い。シンラたちは傭兵の様な活動をしながら各国の弱みを握っている最中だと聞いたし、ヨシズミ国の上層部が利用していると考えられなくはない。

だが何の為に? 国に対して五月蠅く言ってくる町長を排除する為だとすれば異常な気がする。これまで町長に対する悪い評判は聞いた記憶がない、国に対する不平不満はよく聞くけど。その人気に嫉妬したからって理由でそんな危ない連中を動かすだろうか。国の信頼を得る為に暗闇の夜明けが勝手にやったって言うのが一番ありそうな線か。

「今の不穏な状況を改善する為には先ず村へ行くしかないでしょうね」
「それはそうですが」

 ティーオ司祭は言い淀む。町長を足止めする為とは言え犠牲や損失が大きすぎるのも気になるし、シンラも魔法少女もあっさり引いたのも気になっていた。村に行くしかないと思わせて、こちらを村へ誘き出す罠っていうのもあり得る。

「何だ二人とも迷ってるのか?」
「……珍しいお客だ。こんなところまで何をしに?」

「おおっ! 良く来た!」

 教会の入口を開け入って来た人物は、煙管をくゆらせながらにこやかに微笑みつつそう言った。ティーオ司祭はその人物を見て苛立ちの表情を少し見せたが、直ぐに何時もの穏やかな顔になって問い返す。シスターは俺と初めて会った時のように勢い良く飛びついて行き抱き合う。

目の前に居たのは、マゲユウルフたちに導かれ進んだ森の先にあった紋様のところで出会った小父さんだったので驚いた。白髪交じりのボサボサ頭に紺のシャツにスラックスと草履、緑を基調とし花の模様が幾つもあしらわれた羽織を着た格好は変わらずなので直ぐに分かった。

「何をしにって……どうも教え方がダメな弟子がいるみたいだから気になって来たのさ。それに胡散臭いのもウロウロしてたから」
「こちらにも事情があるんですよ。貴方みたいに暇潰しに放浪する立場でも無いので」

「そりゃそうだ。俺はもう一線を引いた身だからね。とは言えこの世界に責任があるから遠くから見守っているんだ」
「不甲斐なくて申し訳ない」

「若さ故だな。まぁ戦乱が無くなって良かったがその所為で得られなくなった経験もある。切り替えて行こう」

 小父さんは笑顔でそう言い俺は良く分からないので愛想笑いをしていたが、ティーオ司祭は違った。風を置き去りにして飛び込み拳を突き出す。喰らったらあっという間に隣の国まで行きそうな一撃を、その小父さんは片手であっさり受け止め煙管をゆっくり吸って吐いた。

「良い拳だ。だがまだだな。他人に教えるのも修行だぞ? 教えた相手が満足に理解していないのはお前自身の理解が足りないと思った方が良い」

 ティーオ司祭はそれでも諦めず一撃入れようと拳を暴風を起こすくらい連続して叩き込む。その風に危険を感じ長椅子の陰に身を隠しながら見れる位置に移動した。

「これも良い攻撃だ。急所を狙いつつけん制も織り交ぜ釣りもしながら速度を上げる。感情に任せて蹴りを出さないのも正しい。だが」

 小父さんはティーオ司祭の高速で繰り出した拳の横にスッと手を当てるとあっという間に掴んで捻り回転させ叩き付けた。気付くとそれまでティーオ司祭のものだった風は搔き消されている。一体どんな魔法を使ったんだが分からん。

「もう少し変化を付けなければな。読まれてしまうし読めなくなってこうなる」
「なる訳ないだろう普通」

「分からんよ? 何処かの異世界から強い男が来るかもしれないじゃないか。なぁ? ジン・サガラ」

 急に水を向けられ驚きつい身を隠してしまった。あの人異世界とか言う言葉を口にしたが、俺がそうだと知っているのだろうか。だとしたらあっちに戻れる方法も。

「お、小父さんは異世界から帰る方法を……!」
「残念ながら俺は異世界に帰る方法とやらは知らん。親父なら知ってたかも知らんがもう死んでるしな大分前に」

「御爺様の記録に無いのかい?」
「無いよ。親父は仕事も俺たち子供も多くて自分の回顧録なんて碌に残してないんだから。大体俺も母上から内緒で異世界の話を聞いただけだしな。生まれは竜神教の総本山であるリベンだし」

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