透明少女症候群

塔野とぢる

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透明少女症候群・2

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「でさー、先週末くらいからなんだけど。お父さんもお母さんもなんかよそよそしいわけ」

3年4組の教室は、閑散としていた。

受験対策シフトを組んだ学年主任の計らいで、秋以降は自由出席になっている。クラスで朝から出席しているのは、およそ半分。

「まあ親である以前に夫婦でもあるしさあ。そういうことも…」

親友のさきは「4月生まれ」ということもあり、早々に有名校への推薦入学を決めた。早く18歳になるからって、そこまで有利なのはどーなの?と思う。生まれた季節で有利不利が分かれるのは、フェアじゃないよね。どこかで線を引かないと社会が回らないってこともまあ、わかるんですけど。

「……ところで真布由って、そろそろ誕生日なんだっけ」
「うん。てか明日~」
「だよね。うん……そう。わかってる」
「んー?どゆこと?? 祝ってよー」
「嬉しくて、悲しくて、寂しい……かな」
「なにその唐突なポエム笑」

急によそよそしくなった咲が自分の席に戻っていく。

まもなく一限が始まる。一限は倫理。受験科目に使わない人も多いから、今日はみんな遅いのかもしれない。

「みなさんの年頃は、人生でいちばん、不安で、不安定でーー」

毎回「なぜこの勉強をするか」みたいな切り口から授業を始めるのが成美なるみ先生のスタイルだ。数少ない聴講者は、それをわかっている側の生徒たち。

「今日は透明少女症候群の社会的解釈と研究結果についてーー」

思春期の少女が「消える」ようになったのは、とある分野の研究で「恋愛感情の物質的質量」が観測されるようになってからだ。
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