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1日目

05

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目を覚ますと僕は全裸になっていた。

横たわっているせいか、白いだけの天井は不思議なほど高く思えた。裸ではあるが寒くはない。ただ、全身がかじかんでいるような感覚で、一切力を込められずにいる。

「ごめんね。嫌いなわけじゃないの。でも最初はしっかり叱ってあげないとダメだから」

頭上で声がした。眼球だけ動かして見上げると少女の膝から上が見えた。天井の明かりを背負って逆光になった彼女の半身は影がかかっていて、それがなければ酷くけしからんアングルだった。

彼女は右手に本を持っている。

『犬のしつけかた』

「お……じさ……ぬ…じゃn…」
「こんなもの、あてにならないかな、やっぱ」

僕は自分の状態にショックを受けた。
口も利けないとは思わなかったし、これまでの人生でも体験したことのない不自由さだったからだ。

「だっておじさんさあ……」

彼女が飽きるまで「わんちゃんごっこ」に徹していれば、そのうち解放されるはずーーそんな楽観が、このときまではどこか残っていた。

「……人間だしね」

それは、天使のような鬼畜の微笑みによって無残に処分された。

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