上 下
20 / 23

第20話 発明令嬢「ビーム、だと、思った?」/ゴーレム令嬢「痛くないわけじゃなくなくもない」

しおりを挟む

 》

 ガラルが剣を掲げる。黄金の剣が放出する光がその光量を増していく。それに従い、魔法使いの少女の正面にもまた、炎が集まっていく。

 空間を埋める炎球の数は、すでに大小含めれば500を越えている。少女らさらに追加で炎球を加えつつ、グーラとルカの方へと割り振っていた炎球をも集結させ、「それ」を作っていった。

 砲だ。

 炎の球が寄り集まり、赤い光を放つ砲身を形成していく。その向く先は当然ガラルだ。否、ガラルが掲げた黄金の剣だった。

 左右、さきほどなにやら抗議の声が聞こえてきた方向からは、戦闘の再開を示す金属音や鉄を殴る音が聞こえてきていた。
 グーラとルカの行動を阻害していた炎球はこちらへと全て集まった。当初のガラルの目論見通りである。ならば後はあちらの仕事だ。正直ガラルが何もしなければルカのほうは決着がついていたような気もするのだが、いや、多分、何かこう、奥の手的なものがあったに違いない。ガラルが何もしなければルカが何か致命的な攻撃を受けていたはずだ。そういうものだろう、こういうものは。うん。

 そんなことを考えている間にも、少女が作る「砲」は輪郭をはっきりとさせていく。最初は炎球の集まりとして。次は炎で描かれた円筒として。ついには赤い光を激烈に放つ長大な砲身が少女からガラルへと向かって伸び、その砲口に圧力が集まり始めた。
 撃つのだ。少女の目的はこちらの手にしたエクスカリバーがその真価を発揮する前に、自らの最大火力を撃ち放つことだ。

 ガラルが手にした剣に光が満ちる。

 少女が生成した炎の砲身が光を溜める。

 先に怒涛を放ったのは、少女の砲であった。

 》

 波だ、とガラルは思った。

 津波、あるいは瀑布。目の前を埋め尽くす光の波濤は、洪水のそれにも近しく耳朶を叩く。

 ご、という音が空気を焼きながら迫る。地下下水道のフロアが光で満ちる。その根源は炎の熱だ。軌跡の全てが焼かれ、剥がれ、炭すら残さず塵となる。

 砲の向く方向、剣を掲げたガラルと、その後ろにいるレイネが諸共にこの世から消えようとした時、

「――かか、った」

 ガラルの剣が振り下ろされた。

 》

 ガラルの剣が、迫る波の全てを受け止めた。

 大気を焼く音と、エネルギーの奔流が無理やりに押しとどめられたことによる不協和音が地下空間を埋め尽くす。
 拮抗する。
 砲と炎の根源は聖女が扱う神聖力である。対する光の剣を構成するのは悪役令嬢が持つ魔力である。
 相反する力が正面からぶつかり合い、弾けたとき、炎と光は「そう」なる前の純粋なエネルギーを撒き散らし、互いを食い合いながら勝敗を欲する。

 少女が叫んだ。

「……そんなバカな!」

 なぜって、

「聖女が持つ神聖力は悪役令嬢の力を削ぎ取ります! ならば相性的に私の砲はその剣を凌駕するはず! なのになぜ!」

 答える義理はないが、ガラルは答えた。

「なぜ、って」

 それは、

「この剣、が、もしかして、ビームか何か放つものだとでも、思ってる?」
「――違うのですか!?」
「違うんですの!?」
「違うのか!?」
「ちげぇのぉ!?」

 何か味方側からも驚愕が聞こえたが、まあそうなるのも理解はできる。なにせ「エクスカリバー」だ。黄金の剣がビームを放つのは界隈での常識である。どうやらレイネが生きた2030年代、2040年代でもそうであったようでガラルは安心をした。

 ガラルは言う。

「この剣、の、能力。それは、受けた攻撃、の、『完全反射』」
「は」
「そう」

 つまり、

「あなた、に、とって。この剣は、脅威でもなんでもなかった。……攻撃さえしなければ」

 拮抗していた炎と光の相対が、不意に終わりを告げる。
 凪。まるで何事もなかったかのように、ただ炎の残滓だけが周囲の光源となり、それすらも消えていく。
 薄闇が闇へと変遷していく。
 だがその前に、

「!」

 ガラルの剣が、先ほどと逆の位置関係で炎のレーザーを吐き出した。

 》

 大気を焼き、全てを塵と為し、炎が瀑布となって水平方向へと駆けた。
 先ほどとまったく同じ流れが、位置関係を逆にして為されていく。
 波だ。波濤だ。奔流だ。洗い流すという行為が、攻撃力を根拠として魔法使いの少女へと向かっていく。

 奔る。

 少女が炎で作った砲身は、発射と同時に崩壊していた。放たれたレーザーのエネルギーは少女の神聖力だ。無論、発射のプロセスとして、弾を込めるようにそれを砲身にぶち込んだだろうが、威力の底上げのため、砲身そのものを神聖力に還元して補ったのだろう。

 反撃はない。反射した攻撃は正しく遂行される。

 されるはずだ。

 される直前、

「!」

 魔法使いの少女の体が、背後の影に沈んだ。

 》

 炎のレーザーが地下空間を激烈に照らし、その奔流が奔るのを見守る中、ルカは見た。
 レーザーの向かう先、魔法使いの少女が、影へと沈む緊急回避を敢行した。
 だがそれは、

 ……魔法の領分じゃないし!

 魔法でこれを再現するなら、「移動」と「隠蔽」、「空間」、「適応」、「接続」など、気が遠くなるほどの多重起動が必要になる。不可能だとは言わないが、何かしらのスキルによるものという方が納得はできた。

 だが少女はスキルホルダーであっただろうか? 立ち回りを見る限りは純正の魔法使いのように思えた。思えたのに彼女は影に潜った。ならばこれは、

 ……別人のスキル?

 黒装束の忍者が扱う影移動のスキル。これが他者にも適用可能で、今それが魔法使いを助けたのだとすれば納得だ。
 だが、

「ーー」

 ルカは、もうひとつの可能性を警戒した。
 そして、

 ……あーしが「その可能性」に気が付いていることを、気づかれちゃいけない!

 ルカが、忍者のナイフを警戒してゴーレムを下がらせた。ような動きを見せた。ルカが乗る銀ゴーレムが咄嗟のバックステップを踏む。それと入れ替わるように土ゴーレムが両者の間に入り、壁のように立ちはだかった。

 忍者が影に沈む。

 ルカの右後方に出てきてナイフを振る。

 銀ゴーレムが腕を滑り込ませてガードする。

 また忍者が消える。

 至近、銀ゴーレムの足元に現れてルカの足を狙う。

 避ける。

 潜る。

 来る。

 距離をとる。

 潜る。

 来る。

 受け止める。

 潜る。

 止める。

 潜る。

 避ける。

 潜る。

 受ける。

 潜る。

 ルカに油断はなく、ゆえに忍者の攻撃は当たらない。  

 影移動という能力ゆえに忍者に決定打はなく、だから攻撃は通らない。

 忍者の攻撃は通じない。

 勝てる。

 と、ルカは思った。

 》

 勝てる。

 と、ルカは思った。

 と、忍者は勘違いをした。

 》

 ルカは感じた。

 幾度となく影に潜り、ルカを狙ってきた忍者が、今度は天井に現れた。

 一応は初見の動きだ。これまで忍者はあくまでルカの背後を取る動きを優先してきて、奇をてらったような挙動は控えていた。それが何かの制約によるものなのか、こちらの油断を誘うものなのかは判然としなかったが、どうやら後者であったようだ。

 だがルカに油断はない。天井からの攻撃であろうとも、さばき切る自信があった。

 ルカは天井へと視線を向けない。ルカの全ての感覚は、全てゴーレムの感覚器を通すため戦闘を行っていないときよりも鋭敏だからだ。
 その、自分の目を通さない情報が肌から浸透してくるような不思議な感覚に眉根を寄せながらも、ルカは感じ取った。

 上。天井。忍者の足が振ってくる。影から忍者の全身がずるりと出てきて、先ほどまでと同じく、その手に持ったナイフを、

「――」

 ルカは己の首筋に手を添えた。

 》

 宙に突如として影が現れた。

 影から伸びたナイフを、ルカは素手で握り止めた。

 》

 これが忍者の切り札だ。

 影のスキルは同時起動ができない。だが、もうひとり別の影使いがサポートをするのなら話は別だ。

 散々決定打の不足をアピールし、影による高速移動と攻撃の乱舞を見せ、最後に残した手札を静かに切る。

 殺す。

 だが、現れたナイフは確かにルカによって受け止められた。無傷ではない。手のひらが裂けて血が噴き出る。滴る。

 ルカが呟く。

「血人」

 ナイフを持った手が、ルカの手のひらから伸びた血の腕によって絡め取られた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

処理中です...