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第19話 発明令嬢「そっち、の、タイミングの悪さにも、一因あると思う」

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 ガラルは悟った。

 己が取り出した黄金の剣。それを見た魔法使いの少女が、追加で出したものを含めた全ての炎球を、こちら、正面側へと割り振り始めたのを。

 ……効果、覿面。

 黄金の剣。選定の武具。これだけでまあ、わかる人にはわかるだろうが、剣身にカタカナで「エクスカリバー」と彫ったのは正解だったようだ。正直うさんくささが上がった自覚はあるのだが。
 しかし、この剣もまた元の世界では違法だったパーツ・素材をふんだんに使った、真なるマジックアイテムである。
 錬金術、魔法、調合、合成。あらゆるクラフト系要素の技術をふんだんに盛り込んで造り上げた、精霊界(のようなもの)にて鍛え上げられた(という設定の)、王の剣。一応、岩の台座に1回刺して抜いてというプロセスも踏んである。その際に先っぽが欠けたのも修復済みだ。

 その特殊効果は、ありとあらゆるものを粉砕するためにある。

 ガラルは剣を掲げた。

「……っ!」

 魔法使いの少女が息を飲む気配がして、ガラルは己の周囲に炎球が集結してくるのを感じた。

 》

 グーラは剣を振った。

 別に特別な剣ではなく、令嬢軍にいる鍛冶屋令嬢が手慰みに造ったような粗悪品だ。ワゴンセールで2割引。加えてグーラが2時間粘ると4割引になる。8時間粘れば無料になる計算だが、そこはさすがの悪役令嬢、最終的には6割引で買わされた。悪役令嬢に机上の計算は通じない。わかっていたはずだが、まだまだグーラも令嬢に対する理解が足りないようだ。次は通す。

 剣を交える相手は、どこか存在が希薄な剣使いだ。黒いもやがかかったような容貌からは、男か女かも知れない。基本この島には悪役令嬢か聖女かしかいないはずだが、男の令嬢・男の聖女だっていてもおかしくはない。
 だからといって、やることに変わりはないが。

「!」

 剣士が炎球に身を隠しながら、蛇のような動きでこちらに迫る。

 炎の隙間を通す、という意識で剣を差し込めば、走る最中の体がぬるりと落ちて回避された。
 剣士が、まるで地面を這うような体制を保ったままこちらの足を狙ってくる。
 下がることはできない。炎球があるから。飛び上がることはできない。炎球があるから。
 だから、グーラは足先に仕込んだ鉄板を、

「!」

 金属音。

 迫る剣、その先端へと正確にぶち当てて回避とする。
 すると今度は周囲の炎が、狭まって来るようにしてグーラを狙ってきた。隙間を通って逃げに徹すれば、剣士もまたこちらから距離をとり始める。

 剣士は一瞬、走りながらさきほど鉄板で打撃された剣先へと視線を送った。少々の刃こぼれが見て取れる。だが剣士は気にせず、そのまま周囲の炎を迂回するように走り、またこちらへと突っかけに来る。
 同じようにグーラが迂回をしようとすれば、想定していた進行方向には新たな炎が撒かれ始めていた。

 ……やりづらい。

 正直な感想だ。

 周囲、ゆっくりと動き回る炎球は、グーラが思っていた数倍くらい厄介だった。
 何せこちらに向かってくるものもあれば、そうでないものもある。速度もまちまちで、戦闘中の動きを制限することに終始しているのだ。
 もとより、そういう運用が想定されているものなのだろう。
 グーラは試しに、

「『風帝』」

 剣に風の魔法を乗せ、炎をいくらか吹き飛ばす。
 炎は完全に消えはしないが、剣士への牽制と同時に行えるのでコスパがいい。
 たまに風の斬撃を交えれば、剣士の警戒はいっそう強くなり、動きが狭まり、戦いやすくなる、はずだ。
 そのはずだ。なるだろう。たぶん。なったらいいな。なるべきだ。
 なれ、と思いを込めて、グーラは斬撃を4つほど飛ばす。
 だが、

「――」

 風によって炎が吹き飛ばされて開いた空間。剣士はそこを駆けながら、空間全てを使った稲妻のような軌道をもって斬撃全てを回避した。

 全力の速度と体重を込めた攻撃が、大上段からグーラを襲う。

 ……そうなるかー。

 グーラは、次に使う魔法を準備しながら、攻撃を受け止めようとした。

 》

 土のゴーレムの特性は汎用性。銀のゴーレムの特性は魔法付与効率。もっとも自力が高い金が真っ先に破壊された以上、この2体で済ませたいな、と思いながら、ルカは正面の相手を見据えた。

 黒装束。低い姿勢。忍者、という形容がもっとも相応しい容貌だが、手にもつナイフは西洋風でイメージが定まらない。

「舐めんなし!」

 ルカがそう叫んで銀ゴーレムの肩へと駆け上ると、相手、忍者がびくりと肩を震わせた。
 ついでに左を見れば、離れた位置の魔法使いとグーラが相手する剣士も青い顔でこちらを見ている。

 ……あーしそんな怖い?

 にわかにショックを受けつつも、周囲を囲う炎球を銀ゴーレムの拳で払っていく。付与した「水泡」の魔法は宙に浮かぶ炎を次々と捕らえ、無力化していった。
 だが、

 ……数が多いし!

 捕らえる数より追加される方が多い。「水泡」で捕らえられた炎は次第に周囲に増えていき、攻撃力を失いつつもルカとゴーレムたちの視界を制限していく。
 忍者が走る。
 水泡に捕えられた炎、その向こうだ。左から右へ。内から外へ。ルカはそれに合わせて視界を回す。右へ。銀ゴーレムの向きもまたそれに合わせて回っていく。

 と、

「!」

 いくつかの水泡が集まり、重なった場所。その向こうを通り過ぎる、と思われた忍者が、一瞬待っても、二瞬待っても出てこず、

「ーー」

 ルカは、己の背後に気配が生じたことを悟った。
 先ほどレイネがやられかけたのと同じ、地面に潜って行う瞬間移動だ。原理は不明。魔法で同じことが再現できるだろうか? できないとすればスキルの類だが、であるなら今度は「どこまでやれるか」が図りづらい。

 地面に潜るスキル。否、足元は鉄板だ。その下が水路か別の通路かはわからないが人が移動するスペースなどありはしない。ならば足元に、何かゲートのようなものを設置するスキルだろうか? あるいは――「影」。
 対象は自分だけだろうか。他者にも適用可能となれば逃げの一手を打たれたときに厄介だ。

 背後、現れた気配がナイフを振りかぶる気配を感じ、

「――」

 ルカは無言で銀ゴーレムの肩に手を置いた。

 そこにあったルカの影から、巨大な拳が突き出てきて背後へと発射された。

 》

 勝負あった、とルカは思った。

 ルカの錬金術対象に制限はない。それだけの研究をした。今では物理的な物質だけでなく、炎や水、大気や影といった現象・概念まで制限付きでならゴーレム化できる。

 ルカが影を素材としたのには理由があった。今回の相手、この忍者が「影」を媒介とした移動スキルを使っているのではないか、と思ったからだ。
 ゆえに、使用する「影」の範囲は「周囲5メートル」と広めにとった。そうすると消費が大きくなるが、出来上がるゴーレムの自力も上がる。瞬間的に腕のみを生成するのであればなおさらだ。
 周囲の「影」を消費してゴーレムを作った結果として、忍者はとっさの逃げ場をなくしたはずだ。

 ゆえに当たる。

 拳が飛ぶ。その先に忍者がいるという確信がある。

 と、その時だった。

 ルカの周囲、漂うように展開されていた炎球が、急激にその軌道を変え、

「え」

 ルカが作った、影ゴーレムの腕、その前腕あたりに突っ込んだ。

 》

 グーラの周囲、漂うように展開されていた炎球が、急激にその起動を変え、

「え」

 大上段からの、落下と重量と剣の硬度の全てを乗せた剣士の一撃、それを受け止めた瞬間のグーラの顔面に突っ込んだ。

 》

「ガラルーーーーーーーーーー!!!」

「ガラルちんーーーーーーーーーー!!!」

 》

 ……事故、だって、ば。
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