17 / 18
失
しおりを挟む
「カーカラック伯爵、ご支援のほど誠にありがとうございました」
クレーエは中古品のぼろ布を継ぎはぎされた茶色く変色した白の魔法着に着替え、メーヴェも同様に中古品のぼろ布を継ぎはぎされ、返り血もしくは持ち主の血なのかわからないが、あちこちに血が吸い込まれた不気味な赤い魔法着に着替える。メーヴェの魔法着はサイズは合っているのだが、メーヴェの胸が規格外の大きさのため今にも魔法着が破裂しそうなのは言うまでもないだろう。
カーカラック伯爵が旅の為に用意してくれていたのは、正統勇者一行の為の新たな装備品と武器、少額の路銀、小さなアイテムボックスである。小さなアイテムボックスにはボロボロの調理器具、穴の開いたテントが二つ、期限切れの調味料が入っていた。
反対に没収された物は、正統勇者一行が装備していた装備品と武器、冒険者証、無限アイテムボックスとその中に入っていた全ての品物である。そして、馬車だけは返却をしなくてもよかったのは幸いであった。
カーカラック伯爵が正統勇者一行の馬車以外の全ての持ち物を没収した理由は、正統勇者一行を罰したという正統な理由を皇帝陛下と領民に明確に示す必要があるからであった。正統勇者一行が魔王討伐に失敗したことは、本人たちが報告をするまでもなく、ネズミ算式に超スピードで広がっていく。そしてその情報は無作為の悪意が加えられ、情報の内容は激しく捻じ曲げられ新鮮な真実のまま運ばれることはない。そのことを理解しているカーカラック伯爵は、何も罰せずに正統勇者一行を送り出すことは、自殺行為と同じである。ましてや、自分一人が犠牲になるのならば正統勇者一行を手厚く送り出すことをしたのかもしれないが、カーカラック一族すべてに影響を及ぼす可能性があるので、やむを得ず持ち物を没収して粗悪な品を提供したのである。
魔王から世界を守るために全ての欲望を捨てて戦ってきた正統勇者一行、たった一度魔王に敗れたことにより全てを失った。地位も名誉も財産も・・・。
「スタートよりも酷い格好だ。ガハハハハハ」
ミーランのバカでかい声が通路内にこだまする。
「そうね、でも見た目は良くないけど心が詰まった温もりがあるプレゼントだったわ」
カーカラック伯爵は、最初から魔王を討伐するのは難しいと考えていたのだろう。だからこそ、短時間で最善の策を準備していた。正統勇者一行は、カーカラック伯爵が用意した粗悪品の真意をすぐに理解していた。
「初心に戻っただけです。何も案ずることはありません」
一度贅沢をすれば贅沢の沼から抜け出すのは難しい。最高の装備、最強の武器、最高品質の道具を失った正統勇者一行がすがすがしい表情をしているのか俺には理解することはできない。今俺は最強の体を失い最弱の人間の体を手にした。今正統勇者一行の立場と非常に似ているはずだ。しかし、俺は正統勇者一行のようなすがすがしい表情がでることはない。俺は人間よりもひ弱な心になったのか?いや違う。正統勇者一行が失った物に比べたら俺が失った物はレベルが違うのだ。比べることすら無駄だ。小銭を失ったとしてもそれほど心情は揺るがない。しかし、大金を失えば心は激しく動揺するだろう。それと同じだ。正統勇者一行が失った物は小銭に過ぎない。しかし、俺は違う。俺はとてつもない大金を失ったのだ。俺の苦しみは誰にも理解できないだろう。
「アル、元気を出して。私たちは多くの物を失ったかもしれない。けど一番大切な仲間を失わなかったわ。それだけで私たちは満足なのよ」
俺が暗い顔をしているのにいち早く気付いたメーヴェは、元気な声で俺を励まそうと声をかける。メーヴェの太陽のように明るい笑顔には全く雲がかからない晴天のように晴れやかだった。それは俺のどんよりとした心に一筋の光が差し込むようにとても眩しく気持ちが良いものであった。
「そうだな」
俺はそっけなく返事をした。メーヴェの笑顔で心に少し平穏が訪れたが、簡単に気持ちを切り替えれるほど俺の苦しみは浅くはない。
「アル、1人で抱え込まないで。私たちは仲間でしょ」
俺の態度に敏感に反応したメーヴェは俺を正面から抱きしめた。すると大きな二つの物体が俺の顔を覆いつくし視界が無くなった。この心地よい感触はなんだ!以前俺はこの大きな物体を背中に押し付けられて魅了されそうになった。しかし、背中で感じた感触と顔で感じる感触は全く異なる感触だ。この感触を例えるのは非常に難しいと言える。それは、いままでに感じたことのない柔らかくて弾力がある張りのあるこの物体はスライムとは別次元のふわふわの物体であると言わざる得ないのである。水浴びを覗き見したときに望んだ夢が現実のものとなった。しかし、あの時、衝動的に感じた顔をうずめたいという気持ちは間違いだったと言える。
今俺は大きな物体に顔をうずめられて、全身の自由を奪われたかのように体から力が抜けて動くことができなくなった。そして、さきほどまで抱いていた心の苦しみが泡のようにはじけ飛び、生まれたての赤子のように心がまっさらになった。怒り、苦痛など全ての負の感情が消え、心には平穏のやすらぎだけが漂っていた。
あらゆる負の感情を消し去って戦意を喪失させる巨乳のあらたな使い方を俺は身をもって教えられたのであった。
クレーエは中古品のぼろ布を継ぎはぎされた茶色く変色した白の魔法着に着替え、メーヴェも同様に中古品のぼろ布を継ぎはぎされ、返り血もしくは持ち主の血なのかわからないが、あちこちに血が吸い込まれた不気味な赤い魔法着に着替える。メーヴェの魔法着はサイズは合っているのだが、メーヴェの胸が規格外の大きさのため今にも魔法着が破裂しそうなのは言うまでもないだろう。
カーカラック伯爵が旅の為に用意してくれていたのは、正統勇者一行の為の新たな装備品と武器、少額の路銀、小さなアイテムボックスである。小さなアイテムボックスにはボロボロの調理器具、穴の開いたテントが二つ、期限切れの調味料が入っていた。
反対に没収された物は、正統勇者一行が装備していた装備品と武器、冒険者証、無限アイテムボックスとその中に入っていた全ての品物である。そして、馬車だけは返却をしなくてもよかったのは幸いであった。
カーカラック伯爵が正統勇者一行の馬車以外の全ての持ち物を没収した理由は、正統勇者一行を罰したという正統な理由を皇帝陛下と領民に明確に示す必要があるからであった。正統勇者一行が魔王討伐に失敗したことは、本人たちが報告をするまでもなく、ネズミ算式に超スピードで広がっていく。そしてその情報は無作為の悪意が加えられ、情報の内容は激しく捻じ曲げられ新鮮な真実のまま運ばれることはない。そのことを理解しているカーカラック伯爵は、何も罰せずに正統勇者一行を送り出すことは、自殺行為と同じである。ましてや、自分一人が犠牲になるのならば正統勇者一行を手厚く送り出すことをしたのかもしれないが、カーカラック一族すべてに影響を及ぼす可能性があるので、やむを得ず持ち物を没収して粗悪な品を提供したのである。
魔王から世界を守るために全ての欲望を捨てて戦ってきた正統勇者一行、たった一度魔王に敗れたことにより全てを失った。地位も名誉も財産も・・・。
「スタートよりも酷い格好だ。ガハハハハハ」
ミーランのバカでかい声が通路内にこだまする。
「そうね、でも見た目は良くないけど心が詰まった温もりがあるプレゼントだったわ」
カーカラック伯爵は、最初から魔王を討伐するのは難しいと考えていたのだろう。だからこそ、短時間で最善の策を準備していた。正統勇者一行は、カーカラック伯爵が用意した粗悪品の真意をすぐに理解していた。
「初心に戻っただけです。何も案ずることはありません」
一度贅沢をすれば贅沢の沼から抜け出すのは難しい。最高の装備、最強の武器、最高品質の道具を失った正統勇者一行がすがすがしい表情をしているのか俺には理解することはできない。今俺は最強の体を失い最弱の人間の体を手にした。今正統勇者一行の立場と非常に似ているはずだ。しかし、俺は正統勇者一行のようなすがすがしい表情がでることはない。俺は人間よりもひ弱な心になったのか?いや違う。正統勇者一行が失った物に比べたら俺が失った物はレベルが違うのだ。比べることすら無駄だ。小銭を失ったとしてもそれほど心情は揺るがない。しかし、大金を失えば心は激しく動揺するだろう。それと同じだ。正統勇者一行が失った物は小銭に過ぎない。しかし、俺は違う。俺はとてつもない大金を失ったのだ。俺の苦しみは誰にも理解できないだろう。
「アル、元気を出して。私たちは多くの物を失ったかもしれない。けど一番大切な仲間を失わなかったわ。それだけで私たちは満足なのよ」
俺が暗い顔をしているのにいち早く気付いたメーヴェは、元気な声で俺を励まそうと声をかける。メーヴェの太陽のように明るい笑顔には全く雲がかからない晴天のように晴れやかだった。それは俺のどんよりとした心に一筋の光が差し込むようにとても眩しく気持ちが良いものであった。
「そうだな」
俺はそっけなく返事をした。メーヴェの笑顔で心に少し平穏が訪れたが、簡単に気持ちを切り替えれるほど俺の苦しみは浅くはない。
「アル、1人で抱え込まないで。私たちは仲間でしょ」
俺の態度に敏感に反応したメーヴェは俺を正面から抱きしめた。すると大きな二つの物体が俺の顔を覆いつくし視界が無くなった。この心地よい感触はなんだ!以前俺はこの大きな物体を背中に押し付けられて魅了されそうになった。しかし、背中で感じた感触と顔で感じる感触は全く異なる感触だ。この感触を例えるのは非常に難しいと言える。それは、いままでに感じたことのない柔らかくて弾力がある張りのあるこの物体はスライムとは別次元のふわふわの物体であると言わざる得ないのである。水浴びを覗き見したときに望んだ夢が現実のものとなった。しかし、あの時、衝動的に感じた顔をうずめたいという気持ちは間違いだったと言える。
今俺は大きな物体に顔をうずめられて、全身の自由を奪われたかのように体から力が抜けて動くことができなくなった。そして、さきほどまで抱いていた心の苦しみが泡のようにはじけ飛び、生まれたての赤子のように心がまっさらになった。怒り、苦痛など全ての負の感情が消え、心には平穏のやすらぎだけが漂っていた。
あらゆる負の感情を消し去って戦意を喪失させる巨乳のあらたな使い方を俺は身をもって教えられたのであった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~
いちまる
ファンタジー
旧題:追放されたエンジニアは解体の天才です~人型最強兵器と俺の技術でダンジョン無双~
世界中に無数の地下迷宮『ダンジョン』が出現し、数十年の月日が流れた。
多くの冒険者や戦士、魔法使いは探索者へと職を変え、鋼鉄の体を持つ怪物『魔獣(メタリオ)』ひしめく迷宮へと挑んでいた。
探索者愛用の武器を造る技術士(エンジニア)のクリスは、所属しているパーティー『高貴なる剣』と、貴族出身の探索者であるイザベラ達から無能扱いされ、ダンジョンの奥底で殺されかける。
運よく一命をとりとめたクリスだが、洞穴の奥で謎の少女型の兵器、カムナを発見する。
並外れた技術力で彼女を修理したクリスは、彼を主人と認めた彼女と共にダンジョンを脱出する。
そして離れ離れになった姉を探す為、カムナの追い求める『アメノヌボコ』を探す為、姉の知人にして元女騎士のフレイヤの協力を得て、自ら結成したパーティーと再び未知の世界へと挑むのだった。
その過程で、彼は自ら封印した『解体術』を使う決意を固める。
誰かの笑顔の為に「直し」、誰かを守る為に「壊す」。
ひと癖ある美少女に囲まれたクリスの新たな技術士人生の幕が今、上がるのであった。
一方、クリスを追放した『高貴なる剣』は、今まで一同を支えていた彼の力が常軌を逸したものだと気づく。
彼女達は自称Aランク探索者から一転、破滅への道を転げ落ちてゆくのであった。
●一話~百二話…クリス・オーダー結成編(ざまぁ多め)
●百三話~百六十七話…仲間の過去編(シリアス中心)
●百六十七話~現在…スローライフ編(のんびりドタバタ)
※書籍版とWEB版では一部内容が異なります。ご了承ください。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~
椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。
しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。
タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。
数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。
すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう!
手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。
そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。
無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。
和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる