逆転勇者~勇者と体が入れ替わった魔王が辿る敗戦勇者の敗走譚~

ninjin

文字の大きさ
上 下
9 / 18

しおりを挟む
 「アルバトロス、いい面がまえをしているじゃないか。良い事でもあったのか?」
 「うるさい。お前こそまだここでのんびりしていたのか」


 俺は無我夢中で逃げて来て、ミーランが足を凍らされて動けなくなっている場所まで戻っていた。


 「さすがメーヴェの魔法だ。強引に足を引っこ抜いたらちぎれてしまうぜ。おとなしくここで説教をされるのを待つしかないのだ」

 
 ミーランは逃げるのを諦めていた。


 「いい気味だ。俺は一人でも逃げるぜ」
 「ちょっと待て!これだけは教えろ。ちゃんと覗けたのか?」


 ミーランはいつになく真剣な面持ちである。


「遠くからだったので、良く見えなかったがとても美しい景色だった。まさに桃源郷と呼べる場所だった」


 本当に美しい光景だった。今でも俺の瞼の裏には美しい白い柔肌と大きく揺れる二つの球体が焼き付いている。以前俺がスライムだと思っていた物体の正体はメーヴェの美しくて妖艶な体の一部だと知ってしまった。


 「ガハハハハ、そうだな。あそこはまさに桃源郷と呼ぶに値する場所だ。なぜ、メーヴェたちが森の奥の川で水浴びをしていたかわかったか?」
 「わかったような気がする。あれほど美しく心地よい景色だったが、人の心を惑わす神秘的で魅惑的な魅力を感じた。あの桃源郷は人を狂わす精神魔法に匹敵する効果があるのだろう。だから、メーヴェたちは俺たちを精神魔法から遠ざけるために森の奥で水浴びをしたのだと思う」


 俺の導き出した答えは間違っているかもしれない。しかし、これだけは言えるだろう。許されるのならばもう一度だけ桃源郷を覗きたい・・・


 「ガハハハハ、アルバトロス。お前も面白いことを言うようになったな。たしかに精神魔法に近い効果がありそうだな。ガハハハハ、ガハハハハ」


 ミーランの笑いが止まらない。



  「ミーラン、アル。見つけたわよ!」


 しばらくすると、メーヴェとクレーエが俺たちのもとへやって来た。


 「ミーラン、どうして私たちの水浴びを覗き見したのでしょうか?」


 クレーエの静かなる恐怖がミーランを襲う。


 「聞いてくれ、これはアルバトロスの疑問の答えを教えるためにしかたなくやったことなのだ。決して俺の本意ではないのだ」
 「何をバカなことを言っているの!潔く自分の非を認めるのよ」


 メーヴェがミーランを怒鳴りつける。


 「本当なんだ。アルバトロスはお前達がなぜすぐ近くの川に入らずに森の奥まで行って水浴びをしたのか知りたかったのだ」
 「言い訳をするなんて男らしくありません」


 クレーエの冷酷な瞳がミーランに突き刺さる。


 「アルバトロス、お前から説明してくれ」


 ミーランは俺に助けを求める。


 「メーヴェ、クレーエ、本当に申し訳ない。俺には理解できなかったのだ。すぐ近くに川があるのに、わざわざ森の奥まで水浴びをする理由が・・・。でも、なぜそうしたのか少しわかった気がする。あの美しくて魅惑的な姿を人前にさらすことは、あまりにも危険であり人の心を狂わしてしまう。俺も体が熱くなり自分を制御できなくなりそうだった。お前達は俺たちを守るためにあえて森の奥まで行ってくれたのだろう。その気遣いに気付けなかった俺は愚か者だ」


 俺は正直に自分の感じたままの答えをメーヴェたちに伝えた。すると、メーヴェたちは顔を手で隠してしゃがみ込んだ。


 「ガハハハハ、ガハハハハハ」


 一方、ミーランの笑いは止まらない。


 「本当なんだ。信じてくれ!あの大きな二つのやわらかそうな球体、そしてこぶりで小さな美しい二つの球体、今でも思い出すと俺の心を、体を、脳を刺激して変な気分にさせるんだ」


 俺は三人の想定外の反応に焦りが募り必死に説明をする。


 「アル、恥ずかしいからもういいわ。ねぇ、クレーエもいいでしょ」
 「許しますので、もう何も言わないで下さい」
 「ガハハハハハ、ガハハハハハ、お前の言い訳は一級品だぜ」


 ミーランは空を見上げながら大笑いを続けた。



 「本当に申し訳ない」


 俺たちは馬車に乗り込み再びフリューリングに向けて出発する。キャリッジは6人乗りで前後に3人座ることができる。俺は後ろ側に座り対面する形でメーヴェとクレーエが前側に座る。今回は馬車の運転はミーランが担当する。あれから、メーヴェたちは俺に目を合わせることなくじっと下を向いている。俺がアルバトロスの体に入れ替わってからはほとんど会話を交わすことなく、俺がずっと下を向いたり窓から外の風景を眺めていたが、立場が逆転したようだ。こうなってしまったのは俺が原因だと理解することができるが、原因が何なのか理解できない。


 「もういいの!アル」


 いつも元気いっぱいの大声を出すメーヴェだが、恥ずかしそうに呟いた。しかし、はにかみながら答えるメーヴェの姿がとても可愛く感じたのはなぜだろう。


 「もう二度とあのような過ちをおこさない。でも・・・あの美しい姿は余りにも幻想的で魅惑的だった」
 「お願いだからやめてください。もう、その話はしないでください」


 クレーエの単調で強弱のない心地よい声が少し震えているように感じた。しかし、その震えはとてもなまめかしく俺の体を刺激する。


 「わかった」


 俯いたメーヴェたちのなまめかしい姿を見て、さらなる刺激が体を襲い心臓が激しく鼓動する。メーヴェたちは拒絶感を示すというよりも恥じらいを感じているようだ。しかし、その理由に俺は気付くことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...