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 「わかっています。魔王の討伐に失敗した私には利用価値がなくなり、すぐにでも聖女の称号は取り消されるでしょう。しかし、取り消されるその日までは聖女としての役割を果たす義務があるのです」


 少し動揺していたクレーエだが落ち着きを取り戻していつものように強弱のない一定のリズムで答える。


 「やっぱりクレーエはクレーエね。真面目で誠実だけど頑固で自分の意思を絶対に曲げない芯の強い女性ね。私なんか無頓着でいい加減だし神の存在も信じていないわ。正直、正統勇者一行の責務から解放されてホッとしているのかもしれないわ」


 少し寂し気な表情でメーヴェは話す。


 「そんなことはありません。メーヴェの天真爛漫でラフな性格は私たちに元気を与えてくれています。どのような状況下でも前向きで明るく前進する姿勢は見習いたいと思っていました。そして、素直に自分の気持ちを正直に答えることができる勇気は賞賛に値します。私もメーヴェのように飾らずに自分に正直に生きたいと思っています」

 
 クレーエは少し俯きながら答える。


 「そう言ってもらえるのは嬉しいわ」


 メーヴェはいつもの明るい笑顔に戻る。


 二人は一糸まとわぬ姿で体を洗いながら仲睦まじい様子で話しをしている。その姿を少し離れた木の陰で様子を伺っている不審者がいた。


 「なんて美しい姿なんだ・・・」


 俺は今までに見たことのない美しい姿を見て呆然と立ち尽くしていた。魔界にも美しいモノはたくさんある。しかし、今まで見たどんな美しいモノよりもそれは美しく心を奪われた。絹のようにきめ細やかな肌、無駄な脂肪や贅肉のない端正な体、大きく揺れる妖艶な二つの球体と小ぶりながらも綺麗な丸みを帯びた二つの球体、俺はこれまでたくさんの種族の姿を見てきたが、これほどまでに美しい姿を見たことはない・・・いや、そんなことはないはずだ。それぞれの種族の特徴をいかした姿はどれも美しいと感じていたはずだ。しかし、それとはまた別の特別の美しさを感じるこの感情の正体はなんだ!
 体が熱くなり鼻息も自然と荒くなる。おさえきれない感情が今にも爆発しそうになる。あの二人の肌に触れたい、強く抱きしめたい、あの二つの球体に顔をうずめたい。
 そうか・・・この感情感覚は人間の体だからこそ感じることができるのだ。ダメだ。体が・・・心が・・・抑えきれない。でもちがう。俺の中にある別の感情が、これ以上先に進むなと訴えている。なぜだ!なぜ、この感情はこれ以上先に進むなと俺に訴える。湯水のように湧き上がる情熱を、あの二人の体にぶつければよいではないのか。今すぐにでもあの二人を押し倒して、心が望むままに行動をしたい。しかし、もう一つの感情が・・・俺を止めている。なぜ、もう一つの感情が俺の行動を止めているのか俺には理解できない。魔族なら本能が望むままに行動をするはずだ。これも人間が効率の悪い生き物である所以なのであろうか・・・

 俺が木の陰で心と体が葛藤している間に二人が俺の存在に気付いてしまった。

 
 「もしかして!アル、アルなの」
 「間違いありません。この魔力はアルです」
 「違う!違う!これは・・・違うんだぁ~」


 俺がこの場から逃げ出す理由など何もないはずだ。俺はただ近くの川でなく森の奥に流れる川まで移動した理由を知りたかっただけである。しかし、2人に見つかった途端、急に心が動揺して頭がパニックになってしまった。そして、この場に留まることは危険であると肌で感じ取り、気づけば一目散に逃げ出していた。魔王である俺が人間に背中を見せて逃げ出すなんてありえないことであった。


 「アル~~~~」


 メーヴェが大声で叫ぶが俺は振り返ることもなく走り続けた。


 「アルが覗き見なんて信じられない」


 メーヴェは頬を真っ赤に染めて照れ臭そうに微笑んだ。


 「本当です。ミーランならまだ知らずアルまで欲望に忠実になるなんて想定外です」


 クレーエは至って冷静である。


 「私たちの裸・・・見られたかな?」
 「あの距離からだとはっきりとは見えてはいないでしょう。しかし、アルになら裸を見られても良いと言っていたではありませんか?」


 クレーエは淡々とした口調で突っ込んだ。


 「そうだけど・・・恥ずかしいのには変わりはないわ」


 メーヴェの頬は真っ赤に染まる。


 「そうですね。こんなことでしたら視界封じの魔法で霧を発生させるべきだったと思います」
 「でも、アルが私たちの裸に興味があったことは嬉しいわ」

 「私はとても不本意であります」

  
 クレーエは冷静さを保っていたが、アルバトロスに裸を見られたことに動揺はしていた。


 「ミーランならよかったのかしら」


 メーヴェは楽しそうに微笑む。


 「・・・」


 クレーエの顔が桜色に染まる。


 「当たりだね。でも、よかったわ。これでお互い気兼ねなく恋ができるわね」
 「・・・」


 クレーエは返事はしなかったが全身が桜色に染まるほど全身が熱くなっていた。

 
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