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精
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人間はとても非効率な生き物である。人間が絶対に魔族に勝てない理由はその非効率が原因である。人間の非効率な点を上げるとすれば、それは人間の人生である。人間の寿命は長くても100年だ。しかも、そのうち全盛期といえる期間は20~30年ほどしかない。人間は0歳から12歳までは非常に弱く、この期間は準備段階で物事の吸収力はあるが戦闘能力は低く体も未成熟だ。13歳から20歳の期間は成長の期間であり心も体も知能も上昇する。そして20歳から40歳までが全盛期といえるだろう。幼い頃からだ学んだことを応用し、さらに新しい技術を身に着けて、ますます強くなることができるだろう。だが、自分の限界値を理解して人生の選択肢を迫られる時期ともいえる。20代で自分の人生の岐路を選択する者は多い。
人間は40歳を過ぎると著しい成長を望むのは難しくなる。それどころか体力など衰えて最前線で戦うのでなく、今まで得た経験をもとに後方で知恵をしぼり若い者の支援や成長を助ける指導者になる者が多い。そして、60歳を過ぎると完全に前線からは退き、安全な場所で体を使わずに今まで得た知識の貯金で指揮をとることになる。
人間の寿命はあまりにも短いうえに成長できる時間はさらに短い。これは人間の人生が非効率である理由で、絶対に魔族に勝てない理由でもある。
多くの人間は勘違いをしていることがある。魔族が強いのは魔力量が多い、強靭な肉体を持っているなどと思っているが実際は違う。魔族が人間より強い理由の最大の要因は常に全盛期であり成長し続けるからである。魔族は不死ではないが不老である。老いることなく常に成長する魔族は、人間のようにピークをすぎることはない。永遠に続く坂道のように常に上に向かっている。魔族は年齢を数えることはない。それは成長に終わりがないからである。常に成長し続ける魔族と成長がすぐに止まってしまう人間とでは比べることすら無駄である。
膨大な知識、それを可能にする肉体の成長、魔族は歳を重ねるにつれて強くなり強さがカンストすることはない。魔族は強くなり過ぎた。気づけば魔族に勝てる種族がいなくなっていた。全てを創り出した神、魔法を創り出した妖精、神に反旗を翻した元神であった悪魔、原初の3種族でさえ魔族の手によって滅んでしまった。
強者がいなくなったこの世界、俺たち魔族を満足させる遊び相手はいなくなった。そんな時、創生12魔将軍の1人アインツェルゲンガーが人間界を滅ぼそうと魔王会議《レユニオン》で発案した。退屈だった俺たちはその案に賛同することになった。
「アル、だいぶ元気を取り戻したみたいね」
食事を終えた俺たちは馬車に乗り込みフリューリングに向かっていた。
「そうだな。だいぶこの体にも慣れてきたみたいだ」
「ガハハハハ、なんだその感想は。まるで別人の体に入れ替わったみたいな言い回しではないか」
「クスススス・・・本当ね。アル、変なこと言わないで」
俺は美味しい食事をして気が緩んでいた。思わず本音をポロリと吐き出してしまう。だが幸いにも2人は冗談だと受け止めてくれた。
「悪い、そういうつもりで言ったのでない。ただなんというかその・・・あの・・・」
俺はどのように表現するのか迷っていた。
「ガハハハハ。アルバトロス、お前は真面目か!ちょっと茶化しただけだ。気にするな」
「そうよアル。ミーランは冗談が好きだから気にしてたらダメよ」
「アハハハハ、そうだな」
俺は2人のなごやかな雰囲気に引きずられるように笑みを浮かべた。
「メーヴェ、ミーラン!アルをいじめてはいけません。アルは魔王との戦いで何かしらの精神魔法を受けたと思います。アルの言動の変化や言い間違いを茶化してはいけません」
馬車の御者席で操縦していたクレーエが淡々とした冷静な口調で二人に注意した。いつもなら強弱の無い落ち着いたクレーエの口調は心地よく感じ取ることができるのだが、今回は背筋が凍るような寒気が馬車の中が支配する。
「ごめん」
「ごめんなさい」
クレーエの静かなる恐怖を感じたのは俺だけではなかったようだ。2人は背筋を伸ばしてすぐにクレーエに謝る。
「わかれば良いのです」
またいつものクレーエの心地よいトーンに戻った。しかし、ここでわかったことがある。正統勇者一行の仲間たちは、アルバトロスが魔王の精神魔法を受けて記憶を失い言動や態度に変化が生じているのだと考えているようだ。この考えは俺にとっては朗報だといえるだろう。俺が偽物のアルバトロスであることに全く気付いていないということが裏付けされたのであった。
人間は40歳を過ぎると著しい成長を望むのは難しくなる。それどころか体力など衰えて最前線で戦うのでなく、今まで得た経験をもとに後方で知恵をしぼり若い者の支援や成長を助ける指導者になる者が多い。そして、60歳を過ぎると完全に前線からは退き、安全な場所で体を使わずに今まで得た知識の貯金で指揮をとることになる。
人間の寿命はあまりにも短いうえに成長できる時間はさらに短い。これは人間の人生が非効率である理由で、絶対に魔族に勝てない理由でもある。
多くの人間は勘違いをしていることがある。魔族が強いのは魔力量が多い、強靭な肉体を持っているなどと思っているが実際は違う。魔族が人間より強い理由の最大の要因は常に全盛期であり成長し続けるからである。魔族は不死ではないが不老である。老いることなく常に成長する魔族は、人間のようにピークをすぎることはない。永遠に続く坂道のように常に上に向かっている。魔族は年齢を数えることはない。それは成長に終わりがないからである。常に成長し続ける魔族と成長がすぐに止まってしまう人間とでは比べることすら無駄である。
膨大な知識、それを可能にする肉体の成長、魔族は歳を重ねるにつれて強くなり強さがカンストすることはない。魔族は強くなり過ぎた。気づけば魔族に勝てる種族がいなくなっていた。全てを創り出した神、魔法を創り出した妖精、神に反旗を翻した元神であった悪魔、原初の3種族でさえ魔族の手によって滅んでしまった。
強者がいなくなったこの世界、俺たち魔族を満足させる遊び相手はいなくなった。そんな時、創生12魔将軍の1人アインツェルゲンガーが人間界を滅ぼそうと魔王会議《レユニオン》で発案した。退屈だった俺たちはその案に賛同することになった。
「アル、だいぶ元気を取り戻したみたいね」
食事を終えた俺たちは馬車に乗り込みフリューリングに向かっていた。
「そうだな。だいぶこの体にも慣れてきたみたいだ」
「ガハハハハ、なんだその感想は。まるで別人の体に入れ替わったみたいな言い回しではないか」
「クスススス・・・本当ね。アル、変なこと言わないで」
俺は美味しい食事をして気が緩んでいた。思わず本音をポロリと吐き出してしまう。だが幸いにも2人は冗談だと受け止めてくれた。
「悪い、そういうつもりで言ったのでない。ただなんというかその・・・あの・・・」
俺はどのように表現するのか迷っていた。
「ガハハハハ。アルバトロス、お前は真面目か!ちょっと茶化しただけだ。気にするな」
「そうよアル。ミーランは冗談が好きだから気にしてたらダメよ」
「アハハハハ、そうだな」
俺は2人のなごやかな雰囲気に引きずられるように笑みを浮かべた。
「メーヴェ、ミーラン!アルをいじめてはいけません。アルは魔王との戦いで何かしらの精神魔法を受けたと思います。アルの言動の変化や言い間違いを茶化してはいけません」
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「わかれば良いのです」
またいつものクレーエの心地よいトーンに戻った。しかし、ここでわかったことがある。正統勇者一行の仲間たちは、アルバトロスが魔王の精神魔法を受けて記憶を失い言動や態度に変化が生じているのだと考えているようだ。この考えは俺にとっては朗報だといえるだろう。俺が偽物のアルバトロスであることに全く気付いていないということが裏付けされたのであった。
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