終焉の姫と聖女の姫

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ゴブリンキング討伐 パート24

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 「なんだこいつは・・・やっぱり弱いではないか」


 クリムゾンが落胆した表情でつぶやいた。


 「痛い・痛い・痛い」


 右腕を切り落とされたモナークは転がりながら叫んでいる。


 「トドメを刺すか・・・」


 モナークが泣き叫びながら転がっている頃、モルカナの前にランチェとコンチェの遺体が転がっていた。


 「思ったよりも手応えのない相手だったな。俺は人間を過大評価していたのか・・・」


 モルカナは神から『称号』を授かった人間の力に恐れていた。しかし、思った以上に人間が弱かったので少し戸惑っていた。

 第3騎士団はモナーク専属の騎士団であり、ロード国王は騎士団で素行の悪い騎士や無能な騎士をあてがっていた。力があるのはダイモス大佐、ランチェ大佐とコンチェ少佐だけだる。しかし、桁違いの強さのモルカナの前にランチェもコンチェもなす術もなく力尽きた。

 
 「モルカナさん、その辺で降伏してくださいませんか?」


 モルカナは背後に悍ましい魔力を感じてゆっくりと振り返る。


 「お前は・・・」


 モルカナの顔がみるみると青ざめていく。


 「お久しぶりです。訳あってゴブリンキングの討伐に来ました。おとなしく降伏していただけませんか?私はこれ以上の争いは必要ないと思っています」

 「なぜお前が俺を倒しに来るのだ・・・」

 「私はゴブリンの森の統治権をもらいに来たのです。この森はデンメルンク王国の土地に属しています。ゴブリンキングを討伐したらこの土地を私の管理下にする許可をもらったのです」


 シメーレはロード国王にゴブリンキングを討伐した暁には、ゴブリンの森の統治権をもらいたいと嘆願した。もともとゴブリンの森はホビットを奴隷として捕獲する以外に価値はなく、しかもディスピアの事件があってからは、ホビットの捕獲も諦めて立ち入り禁止区域にしていたので、ゴブリンキングの討伐とケルトの殺害を条件でゴブリンの森の統治権を与えると約束したのである。


 「この森を統治してお前になんのメリットがあるのだ」

 「ゴブリン達を支配できるなんて最高ですわ!あなたも私の下僕になるのよ」

 「この森は俺が守る」

 「私に勝てるのかしら?無駄な争いをするよりも私の『支配』の虜になって、私の父のように豚になって這いつくばって生きた方が幸せだと思わないかしら?」

 「俺はゴブリンキングに進化したのだ。以前のようにはいかないぞ」

 「あなたの強大な力はわかっているわ。並大抵の相手ではあなたには勝てないでしょう。しかし、私は並大抵ではないのよ。強くなったのはあなただけではないってことよ」


 モルカナとシメーレの睨み合いは続いている。




 「助けてくれ!俺の腕が、俺の腕が」


 モナークは泣き叫び転がりながらダイモスのところまでようやく辿り着いた。クリムゾン達がモナークにトドメを刺す瞬間にシメーレが現れてクリムゾン達を一瞬で倒してモナークは難を逃れた。


 「モナーク王子様、落ち着いてください。腕の再生は王都に戻ってからでないと無理でございます。簡単な止血はすぐに治癒師にしてもらいますので、暴れないでください」


 「痛い、痛い、痛い。早く治せ!俺は次期国王だぞ」

 「落ち着いてください」

 「痛い、痛い、痛い。早くキュアを呼べ!」

 「キュアは魔力を消耗したので王都に戻りました」

 「あの役たたずめ!なんのためにここに来たのだ」

 「モナーク王子様にブーストをしたので魔力が無くなったのです」

 「そんなこと知るかぁ!魔力が切れるあいつが悪いのだ。お前も魔法を封じられる失態を犯すし、帰ったらどうなるかわかっているだろうな」

 「好きなようにしてください。そんなに無駄口を叩ける元気があるのなら自分で馬に乗って王都へ帰ってください」

 「馬鹿者め!無理に決まっているだろうが」

 「それならおとなしくしてください。治癒師が来たので簡単な治療はします」


 モナークは治癒師に治療してもらい傷口が塞がり痛みもマシになる。そして、騎士に連れられて一足早く王都へ引き返した。


 「ダイモス大佐これからどうしますか?」

 「怪物王女のお手並みを拝見します」

 「わかりました」



 モルカナは大剣を振りかざす。

 シメーレの頭上に大剣が降り注ぐが、シメーレは避けることも防ぐこともしない。大剣はそのままシメーレの頭に振り落とされる。


 『ガシャン』


 大剣はシメーレの頭に激突して粉々に砕け散る。


 「それが『覇王』レベル5の『完全なる5光の力』かぁ・・・」

 「そうですわ。私は『覇王』レベルを最大にまであげることに成功しました。なので、人間や亜人種の力では、私に傷をつけるのは困難になっているのですわ」

 「そこまで強くなっているとは俺も驚きだ。強くなったモノだな・・・」

 「お褒めの言葉ありがとうございます。私の力がわかったのであれば、先程の話を進めてくださいませんか?」

 「俺に下僕になれと・・・」

 「それが最善の策だと思いますわ」

 「わかった。お前の策にのる事にしよう」


 モルカナは両手をあげて戦意のないことを証明してからシメーレの前で跪く。シメーレはモルカナに手をかざす。


 「あなたは私に下僕になる宣言をしたわ。あなたの要望に答えてこの黒い首輪をプレゼントしますわ」


 シメーレは黒い首輪をモルカナに渡す。モルカナは黒い首輪を自分で首にはめた。


 「これで契約成立ですわ」

 





 
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