終焉の姫と聖女の姫

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ゴブリンの少女ルティア パート7

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 ヒーリンは誰にも見つかることなくアルカナ王女の部屋の前まで来ることが出来た。アルカナ王女は特別待遇されているので、ミレニアム大聖堂で治癒魔法を学ぶ学生達が住む寮とは別の場所に部屋を与えられている。

 ヒーリンはアルカナ王女の部屋をノックする。すると中からシェダルと思われる女性の声が聞こえた。


 「どちら様でしょうか?」

 「私はハイドランジア国の第1王女のヒーリンと申します。アルカナ王女様にお願いがありここに参りました。アルカナ王女様との御面会を許してもらえないでしょうか?」

 「事前に手続きをしていただかないと、アルカナ王女様に会わせることはできません」

 「事前の手続きが必要なのはわかっています。しかし、急を要する事なのです。事前の手続きをする時間がありませんでした」


 アルカナに個人的に会うには事前に国王へ許可が必要である。それは、同じミレニアム大聖堂内で治癒魔法を学ぶ学生も同じである。学業以外でアルカナに会う事は禁止されている。

 「申し訳ありません。いくらハイドランジア国の王女様でも規則を守っていただかないと面会をさせるわけにはいきません」

 「お願いします。シンシ教皇からは許可はもらいました。生命の危機が迫っているのです。今すぐにでも治療をしてもらいたいのです」

 「確かヒーリン様もこの聖堂内の学生ですよね。しかも、かなり優秀な治癒師だとお伺いしております。ご自身で治癒された方が良いのではないのですか?」

 「それが・・・かなり損傷が激しいので、私の治癒魔法ではこの子を元の姿に戻せることができないのです。お願いします。この子を助けてください」

 「それならば、医者に診て貰えば良いと思います。王都グロワールの病院は最高峰の治癒魔法士がいるはずです。かなりの金額を請求されるかもしれませんが、ヒーリン様なら問題ないでしょう」

 「たぶん・・・病院でも無理だと思います。これほどの惨たらしい仕打ちを受けた身体を元に戻せるのは聖女様しかいないのです。それにこの子は人間ではなくゴブリンなのです。ゴブリンの治療などしてくれないでしょう」

 「・・・」

 「お願いします。この子を助けてください」

 「・・・」

 「お願いします」


 ヒーリンは扉の前で何度も何度もお願いした。


 『ガチャ』


 扉の開く音がした。


 「早く中へ入りなさい」


 シェダルがヒーリンを部屋の中へ入るように言う。


 「ありがとうございます」


 ヒーリンはお礼を言うとすぐに部屋の中へ入っていく。


 「状態を見せてもらいます」

 「はい」


 ヒーリンは布で包まれたルティアを背中から下ろし、床の上にそっと寝かせつける。そして、ルティアを包んでる布を静かに外していく。

 布を外すとそこには、顔が肉ダルマのように腫れ上がり、全身に無数の咬み傷、そして乳房はなく全身の皮膚が黒く変色したルティアがいた。


 「最低限の治癒しかしておりません。下手に治療すると元に戻らないと判断しました」

 「これは・・・モナーク王子の仕業ね」

 「は・・は・い」

 「この子を治すと言うことはモナーク王子に対する反逆だと受け取っても良いのですね」

 「・・・はい」

 「私が王子に報告するとは思わなかったのですか?」

 「シンシ教皇からシェダル様はそのようなことはしないと聞いています」

 「もし、それが嘘だったらどうするのですか?いくらあなたがハイドランジア国の王女様であっても、デンメルンク王国でモナーク王子に逆らうとどうなるかわかっていますよね」

 「はい。しかし、私はこの子を助けたいのです」

 「なぜ、ゴブリンのためにあなたは命をかけるのですか?」

 「この子の姿をよく見て下さい。いくら種族が違うからといって、このような惨たらしい仕打ちを放っておけません。それに、このようなことは日常的に行われている可能性があるのです」

 「スラム街の施しに行ったのですね」

 「はい。そこでこの国の裏の世界を知ってしまったのです」

 「私に与えられた命令はアルカナ王女様の護衛と魔法の教育です。このゴブリンの治癒はアルカナ王女様の治癒魔法の勉強になると思います。アルカナ王女様との面会を許します」

 「ありがとうございます」


 シェダルは隣の部屋の扉をノックする。


 「アルカナ王女様、お勉強中のところ申し訳ありませんが少しお話があります」

 「はーーい。私は全然構いませんよぉーー」


 扉の向こうからは明るく元気な可愛らし声が聞こえた。


 『ガチャ』


 シェダルは扉を開いた。扉を開くとそこには、勉強机の前で椅子に座って本を読んでいるアルカナ王女がいた。まだ下まで足が届かない大きな椅子に座り、足をブランブランさせながらニコニコと魔導書を読んでいるみたいである。

 アルカナ王女は、光り輝く黄金の長い髪に、人を魅惑するようなキラキラ光る金色の大きな目をしており、とても愛嬌のある可愛らしい女の子である


 「シェダルちゃん。もうこの魔導書は飽きたよぉー。もっと面白い魔導書を持ってきてよぉー」


 ニコニコと笑いながらアルカナ王女はシェダルに声をかける。


 「アルカナ王女様、人様が居てる時はシェダルとお呼び下さい」


 シェダルは少しキツめの口調で言う。


 「え・・・誰かいるのぉーー」

 「はい。ハイドランジア国の第1王女のヒーリン様が面会に来ています」

 「ヒーリン様がきているのぉー、どこ?どこ?」

 「アルカナ王女様、私とお話しする以外は聖女様らしくしてくださいと言っていますよね!」


 シェダルの額の血管がピクピクと動いている。


 「あ・・・忘れてたぁーー。ごめんなちゃい」


 アルカナ王女はニコニコと笑みを浮かべながらシェダルに頭を下げる。


 「アルカナ王女様、お久しぶりです」

 
 ヒーリンがアルカナの部屋に入り膝を付き一礼する。

 アルカナ王女はピョンと椅子から飛び降りて、ヒーリンに目の前にテクテクと歩いていく。


 「ヒーリン様、私もあなたと同じここの学生です。そして、ここではあなたは私の先輩でありますので、アルカナとお呼びください」


 先ほどとは違い丁寧にアルカナは答える。


 「しかし、そう言うわけにはいきません」

 「いいのです。それがここのでのルールです」


 ミレニアム大聖堂の中にあるミレニアム学院では、年功序列でありいくら国の王女でも先輩を立てないといけない。


 「わかりました。アルカナにお願いがあるのです。隣の部屋に横たわっているゴブリンの治療をしてほしいのです」

 「わかりました。何か深い事情があるのですね。すぐに治療を致します」


 アルカナ王女はテクテクと隣の部屋に向かった。



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