終焉の姫と聖女の姫

ninjin

文字の大きさ
上 下
21 / 54

ゴブリンの少女ルティア パート5

しおりを挟む
 2人はシェダルに見つからずにアルカナ王女に会う方法を模索したが良い案は浮かばなかった。


 「とりあえず俺の家に戻ろう」


 ケルトは王都グロワールで少し小さめの屋敷を借りている。王都に住んでいないグロワール王立学院に通う者は学院内の敷地にある寮に住んでいるが、裕福な貴族などはケルトのように屋敷を借りて通っている者も少なくない。


 「そうね。この子もフカフカのベットで休ませてあげたいわ」


 ヒーリンはルティアを優しく抱きあげて馬車まで戻りケルトの屋敷に戻った。


次の日・・・


 グロワール王立学院の校庭にはたくさんの民衆が集まっていた。校庭には入りきれない者も多く学院の周りにも人集りができている。

 学院に集まった民衆の目的はモナークでも国王でもない。ケルトを見にきたのである。文武両道かつイケメンそして、分国の小国であるが王子であるケルトの人気はデンメルンク王国でもずば抜けていた。ケルトの卒業演説を聞くために多くの民衆が集まったのである。

 ケルトの人気が面白くないのがロード王である。ロード王はケーニヒ王が反乱を起こさないように人質としてケルトを学院に強制的に入学させたが、それが裏目に出てしまったのである。ロード王はケルトが『英雄』の『称号』を授かったのも知っていたので、ケルトの能力を把握するためにも自分の近いところで監視したかったのである。

 学院の卒業式では成績優秀者の1人が卒業演説を行うが、今年はモナーク王子が卒業するので、学院側は特例としてモナークにも演説するようにお願いをした。もちろんこれはロード王が学院側に圧力をかけたからである。

 最初にケルトが演説して次にモナークが演説をする。最後にロード王のありがい話しがあるというカリキュラムである。


 学院の卒業式が始まり厳かに式は進みケルトの演説の順番がきた。ケルトは学院の成績優秀者のみが羽織ることができる赤いマントを羽織り堂々とした振る舞いで壇上に立つ。ケルトの登場に民衆達は騒つくが大声をあげたり声援を送ることはない。それは国王とモナークの面目を潰すことになるからである。あくまで主役はモナークと国王である。


 「まずは、分国であり小国の王子である私をグロワール王立学園に招いていただいた国王陛下に感謝を致します。ハイドランド国はデンメルンク王国の発展のためにいかなる努力も惜しみません。もちろん私もグロワール王立学院で学ばせてもらった事を生かして、デンメルンク王国の為に全力を尽くして貢献したいと思います。私の『英雄』の『称号』は、ハイドランド国、デンメルンク王国に住む全ての住人の幸せを実現するために与えられたモノだと理解しています。いかなる時でも私の力が必要ならば遠慮なく言ってください。私は皆様のために死力を尽くし皆様を守ることをここに誓います」


 ケルトは演説を終えると深々と頭を下げた。

 集まった民衆は歓喜の声をあげたい気持ちをグッと抑えて、拍手によってケルトの演説を讃えた。

 ケルトが壇上から降りると次はモナークが壇上に上がった。モナークは白いマントを羽織り頭には黄金の冠を被っていた。これは次期国王になるのは自分であると民衆にアピールする為である。

 ケルトが優雅に壇上に上がったのに対してモナークは荒々しく民衆を威嚇するかのように壇上に上がる。そして、鋭い眼光で民衆達を睨みつけて誰が主役であるかアピールをする。そして、モナークは両手を演台に置き、聞いている者の鼓膜が破れるような大きな声で演説を始めた。


 「俺はデンメルンク王国の次期国王になる人物だ!昨日の模擬戦ではケルトに不覚をとり負けてしまったが、あれは俺の本当の実力ではない。俺はそれを証明するためにゴブリンキングの討伐をここに宣言する。ゴブリンキングが現れてからは、ゴブリン狩りもほとんど行えず不憫な思いをしている者も多いはずだ。俺の『覇王』の『称号』の力で、醜い亜人種の王に死をプレゼントしてやる」


 モナークは怒りに満ちた鬼のような形相で演説をした。鬼気迫るモナークの表情に民衆達は怯えていたが、演説を終えると盛大なる拍手と大きな声援を送った。

 モナークは民衆の怯えた顔で強制的に行われる拍手と声援を見て、満足そうにニタニタと笑っていた。モナークは力に屈している民衆の姿を見るのがとても気持ちがいいのである。


 「いいかよく聞け!ゴブリンキングを倒したあとは次はケルトを叩き潰す。従属国である小国の王子が、栄光あるグロワール王立学院の赤のマントを羽織るのはおこがましいことだ。誰がそのマントに相応しかったのか必ず証明してやる」


 モナークの言葉に流石の民衆も拍手や声援を上げることはできない。しかし、来賓席に座っているロード王がモナークに賛辞の拍手を送る。それを見た貴族達も仕方なく拍手をすると、民衆達も半ば強制的に拍手を送るのである。

 言いたいことを全て言ったモナークは満面の笑みを浮かべて壇上を後にした。







 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。

みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

これは私の物ではない

callas
ファンタジー
 マリアンナは6歳にして命を終えた。生まれ変わった先は、前回と同じ。これは時間が巻き戻った?いや違う…サラ(妹)しか目に入らなかった両親の元に、今度は私がサラの妹として生まれたのだ。またあの放置生活が始まるのか…ならば、こちらから距離を置かせてもらいましょう。期待なんてしなければ、私の心の安寧が保てるもの。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

処理中です...