終焉の姫と聖女の姫

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ゴブリンの村 パート2

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⭐️ ガロファー視点になります。


 アザレアは人間の赤ん坊を連れて帰ることにした。俺はアザレアを止めることはできなかった。アザレアは子供を失ってからずっと塞ぎ込んでいた。ろくに食事も取ることもしなかったのでかなり痩せ細っていた。俺はそんなアザレアを慰めることも救うこともできなかった。

 しかし、人間の赤ん坊を抱きかかえたアザレアの顔はとても生き生きしていた。以前のアザレアのような明るい笑顔が戻ってきたのである。人間の赤ん坊をタプポの村に連れて帰るのは危険だ。タプポの村は一年前の人間たちの襲撃により、ダグネス以外にも数名の死者が出て数名の女の子のコブリンが連れて行かれた。

 人間達はゴブリンを性奴隷として使用する為にゴブリンの村を襲撃することがある。まだ知能も戦闘能力も低いコブリンを連れ去ってホブゴブリンになるまで奴隷として扱い、ホフゴブリンになると性奴隷と働かせるのである。


 「アザレア、ダグネスは人間の独特の匂いがする。これを着させてくれ」


 人間は独特の異様な匂いを発している。だから、俺たちは人間が近くに来るとすぐに匂いでわかるのである。俺は獣皮で作られたフード付きの服を赤ん坊に着せるように言った。この服はホビットが着ていた服を借りたモノである。だからサイズは大きめだが人間臭を消すためには必要だと俺は思ったのである。


 「わかったわ」


 アザレアは、獣の服をダグネスに着させた。


 コブリン達は人間が放った動物の肉を拾って嬉しそうに村へ戻って行く。


 「ガロファー様、人間の赤ん坊を連れて帰っても本当によろしいのでしょうか」


 フラーゴラは心配そうに俺に尋ねてきた。


 「カレンドゥラ様に相談する予定だ。カレンドゥラ様の判断が出るまでこの事は内密にしてくれ」


 カレンドゥラはタプポ村の村長である。一年前の冒険者の襲撃で前村長ブトントールは命をかけて人間達と最後まで戦い帰らぬ者となり、ブトントールの息子のカレンドゥラが新たな村長に就任したのである。


 「わかりました。しかしカレンドゥラ様が人間の受け入れを賛成するとは思えません」

 「わかっている。俺がなんとか説得をする」


 タプポの村に戻る前に、俺はフラーゴラと協力して草原に転がっている全ての死体・馬車などを焼却してから骨を大きな穴に埋めた。これは、ここで起きた事件の隠蔽工作と亡くなった者の弔いでもある。全てを綺麗に片付けた後、先に村に帰って行ったアザレアとコブリン達を追いかけた。


 俺はタプポの村に戻るとアザレアと一緒にカレンドゥラの家に向かった。カレンドゥラは、ゴブリンオーガであり、俺よりも10歳年上でこの村で最強の戦士である。

 カレンドゥラは俺と同じで身長は2mあり屈強な体をしていて、腕、足の太さは丸太ほどの大きさで、力に自信がある俺でもカレンドゥラには一度も勝つことはできなかった。


 「カレンドゥラ様今戻りました」

 「ご苦労であった」


 ゴブリンの村では畑を耕し作物も育て、また森に入って動物を捕獲して自給自足の生活を送っている。育てた作物も狩りで捕獲した動物も一旦は村長に渡してからみんなに配給される。

 俺は人間が置いていった動物の肉をカレンドゥラに渡して、草原の馬車の件を説明した。


 「何かきな臭いことに巻き込まれたみたいだな」


 ゴブリンから人間を襲うことはない。ゴブリンは温厚で欲が少ない種族なので、必要最低限の生活をすることができたら満足なのである。なので、ゴブリン同士の争いもなくみんな仲良く暮らしている。
 
 よくゴブリンが人間の女性を襲って蹂躙する描写をイメージする方も多いと思うが、この世界では逆であり人間がゴブリンの女性に欲情して、森で見かけた女性のゴブリンを複数人で襲ったりするのである。なので、女性のゴブリンは1人での外出は禁止されている。

 
 「はい。警戒を強めた方がいいかもしれません。2度とあの時の悲劇を繰り返すことはできせん」


 俺達は一年前、子供を村長であるブトントール様に預けて、ゴブリンオーガからゴブリンキングに昇格したモルカナ様に挨拶をする為に村を離れていた。あの時、もし俺たちが村にいたらダクネスもブトントール様も死なずに済んだのかもしれないと後悔している。


 「そうだ。俺たちがモルカナ様のところへ行っている隙に、この村は襲われたのだ・・・」


 カレンドゥラも俺と同じ気持ちである。


 「アザレアが抱いている赤子は誰の子だ」

 「そのことでお話があります」


 俺はカレンドゥラに人間の赤ん坊について説明した。


 「その赤ん坊は人間なのだな!」

 「はい。人間の匂いを消すために獣の服を着させています」

 「アザレア、その子は俺たちの村を滅茶苦茶にした人間の赤ん坊だぞ。それでも自分の娘だと言うのか?」


 カレンドゥラも娘を失ったアザレアの気持ちを理解している。なので無下にすることはできない。


 「誰がなんと言おうともこの子はダクネスです」


 アザレアはダクネスをしっかりと抱きしめて、ダクネスを守るように力強く言い放った。アザレアの真剣な瞳と揺るぎない覚悟を感じたカレンドゥラは頭を抱えて悩み込んだ。


 「どうすればいいのだ・・・人間の赤ん坊をこの村に置いてもいいのか・・・後々トラブルにならないのか」


 カレンドゥラは、一旦俺たちに家に帰るように伝えて、後日判断すると言うと部屋に閉じこもったのである。
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