終焉の姫と聖女の姫

ゴブリンの村 パート1

　「お前ら勝手に飛び出すな！」


　ゴブリンメイジであるフラーゴラが大声を張り上げる。


　ゴブリンは亜人種と呼ばれ見た目は人間とほぼ変わらない。人間との違いは肌の色が緑色をしていて、頭に拳サイズの角が2本生えているくらいである。それ以外は人間と同じであり世界共通の言語を喋り人間とも会話も成立するのである。

　そして、ゴブリンは3段回で姿を大幅に変えていく。12歳まではコブリンと呼ばれ、とてもヤンチャな性格で森の中を好奇心旺盛に動き回っている。知性はかなり低く人間で言えば幼稚園児並みの知能しかない。

　コブリンは12歳までに120cm程までに成長して、12歳になるとホブゴブリンに進化する。ホブゴブリンには2種類あり12歳までの成長過程で武にたけた者がゴブリンナイトに魔法にたけた者がゴブリンメイジに変化する。そして、ホブゴブリンになると一気に知能が上昇して人間と同程度の年代までの知能をすぐに獲得をする。
　
　この2種類の違いは戦闘形態だけでなく、ゴブリンナイトは18歳までに身長が180cmを越えるくらいの巨漢になり筋力・体力ともにゴブリンメイジを遥かに凌ぐ身体能力を持つことになる。そして、ゴブリンメイジは170cmほどにしか成長せずに筋力・体力ともにゴブリンナイトに劣るが、その代わりに様々な魔法を習得することができる。

　そして、18歳になるとゴブリンナイトとゴブリンメイジの一部の優秀な者だけが男性はゴブリンオーガに女性はゴブリンアデージョに進化する。ゴブリンオーガ、ゴブリンアデージョに進化できたゴブリンは固有スキルを手に入れることができる。
　
　そして、50年に1度の周期でゴブリンオーガ、ゴブリンアデージョの中からゴブリンキング（ゴブリンクイーン）が誕生する。

　このゴブリンの村にはコブリンが20人、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジが20人。そして、ゴブリンオーガ、ゴブリンアデージョが6人で村が形成されている。

　フラーゴラはゴブリンメイジなので身長は165cmと小柄で細身の体型で金色の短髪の好青年である。



　「わーーい。肉だ！肉だ！」


　ホビットたちは、無邪気に肉を拾って大喜びをする。


　「ガロファーさん、この状況をどう思いますか？」


　ガロファーとはゴブリンの村プポンに住むゴブリンオーガである。ガロファーは身長は2mの筋骨隆々の肉体に荒々しくのびる金色の長い髪、大きな銀色の瞳の甘いマスクのイケメンのゴブリンである。ガロファーは村のリーダー的存在であり、ゴブリンの森の近くで異変を感じたガロファーは村長の指示で状況を確認しに来たのである。


　「動物の肉片と一生に人間の死体が40体くらい・・・そしてあの立派な馬車は高貴な人間が乗っていたと推測される。しかも、人間の死体がつけている鎧はデンメルンク王国の騎士団の物だ。そして、盗賊らしき風貌の死体も数体ある。そこから推測するとこれは盗賊と王国騎士団の戦闘があったかのように見えるが・・・王国騎士団が盗賊相手に殺されるとは考えらない。それに、なぜ動物の肉がばら撒かれているのだ。これは罠に違いない。そして、何か大きな組織が馬車に乗っていた人物を殺して俺たちに罪を着せようとしているのだろう」


　ガロファーは、森に取り残された馬車と人間たちの死体を見て推測する。


　「この状況をどうしますか」

　「このまま死体を放置すると、この馬車を襲ったのは俺たちのせいにされてしまう。全て焼却して綺麗に片付ける」


　コブリンは知能が低い。なので、目の前に肉があれば喜んで持っていくのである。フラーゴラが肉に手をつけるなと言っても言う事を聞いてはくれない。

　ゾルダート達が動物の肉を置いていったのは、コブリンの習性を理解しているから肉を置いていったのである。そして、ゾルダート達の思惑通りに、コブリンは馬車の周り置いてある肉を全て回収して、王女暗殺現場を荒らしてくれたのであった。


　「おい、何か聞こえないか？」

　「赤ん坊の鳴き声よ！」


　馬車の中から赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。


　「こんな状況で生存者がいるのか？」


　ガロファーは驚きを隠せない。草原には40名くらいの死体が転がっている。そんな状況で生存者を残して戻るわけがない。


　「赤ん坊よ。すぐに助けないと」


　見た目は人間の女性と変わりのないグラビアモデルのような大きな胸を揺らし、きらきら光る金色の長い髪を靡かせて、ゴブリンアデージョが馬車に駆け寄った。


　「アザレア！人間の罠かもしれないぞ。不用意に馬車に近づくな」


　この美しいゴブリンアデージョはガロファーの妻のアザレアである。アザレアはガロファーの言葉を無視して、馬車の中へ入って行った。


　「生きているわ。私を見て微笑んでいるわ」


　アザレアを見た赤ん坊はすぐに泣き止み微笑んだ。


　「なんて、可愛い女の子なんでしょう」


　アザレアは、赤ん坊を両手でゆっくり救い上げて優しく包み込むように抱きしめた。


　「ダクネス・・・私の可愛いダクネス」


　アザレアは涙を流しながら赤ん坊を抱きしめていた。


　「アザレア大丈夫か！」


　ガロファーはアザレアを追って馬車の中へ入ってきた。


　「アザレア・・・」


　アザレアが人間の赤ん坊を抱きしめて泣いている姿を見たガロファーは、一瞬言葉を失った。


　「赤ん坊は置いていけ」


　ガロファーは重たい口をこじ開けるようにしてきつく言い放った。


　「嫌よ。ダクネスを置いてはいけないわ」

　「アザレア！その子は人間の赤ん坊だ。ダクネスはもういないのだ」


　ダクネスとは、ガロファーとアザレアの間に生まれた子供である。ダグネスは、1年前に2人が留守の間に村に訪れた人間によって殺されたのである。


　「ダグネスは私に会いに戻ってきてくれたのよ。もう絶対に側から離れないわ」


　ダグネスが死んだのは3歳の時である。なので、赤ん坊がダグネスではないのはアザレアもわかっている。しかし、子供を失ったアザレアの前に現れた赤ん坊が無邪気にアザレアに微笑みかける姿を見て、ダグネスが戻ってきたのだと思いたいのであった。