終焉の姫と聖女の姫

双子の王女 パート9

　「ルシーーー！」


　俺は思わず大声で叫んだ。さっきまでは白い仮面の女性がいたはずなのに、今俺の目の前にいるのは、俺の剣で胸を激しく突き刺されて多量の血を流しているルシーである。


　「大事な仲間を刺すなんて、本当におバカさんね！」


　ルシーの後ろには王女様を両腕で抱いた黒いローブをまとい白い仮面を付けた女性が立っていた。そう、さっき俺が見た女性だ。


　「うぉーーーー」


　俺は言葉にならない雄叫びをあげた。そして、胸から多量の血が溢れ出ているルシーを抱きしめて必死に止血しようと傷口を塞ぐ。しかし、俺の剣で胸に大きく空いた傷口が塞がることはない。


　「ハーレークイン、そちらは片付いたのか？」


　ゾルダートは、馬車の中を覗き込み仮面の女性に声をかけた。


　「あとはその男の子だけよ。でも、精神がぶっ壊れているのでいつでも殺せるわ」



　ハーレークインの『称号』は『道化師』である。『道化師』は幻影魔法を得意としている。


　「ルシーーーー。ルシーーーーー」


　俺がルシーを殺してしまった。俺はパニックになっていたが、あの仮面の女性が幻影魔法を使って俺にルシーを殺させたことはすぐに理解できた。しかし、ルシーを殺してしまった絶望感により、俺は頭がおかしくなり大声で笑い出した。


　「ギャハハハー・ギャハハハー・幻影魔法を掛かるなんて俺は愚かだ！何が大尉だ！何がソードマスターだ！王女様どころか、婚約者の妹のルシーすら守れすずに殺してしまう始末だ！そこの女！それにこっちを覗いているはゾルダートかぁ？哀れな俺を笑いにきたのか？それとも殺しに来たのか？好きにすればいい」


　俺はヘラヘラ笑いながら馬車の中で叫び倒した。


　「楽にしてあげますわ」


　俺は涙を流しよだれを垂らし鼻水を垂らし、ルシーを抱きしめながら大声で笑っていた。そんな無様な俺の胸に短剣が突き刺さる。

　胸から血がドクドクと倒れた瓶からこぼれ落ちるワインのように流れ落ちていく。俺は胸から溢れ出る血を煌々とした目で嬉しそうに眺めていた。



　「ゾルダート様、王女様以外全ての者を始末することができました。あとは王女様を殺すだけです」


　ハーレクインはディスピア王女を抱え上げゾルダートに手渡した。


　「どこかゾルダート様に似ていると思いますわ。とても可愛い王女様なのに殺すなんてもったいないわ。私のコレクションの一つにしたいわ」


　ハーレクインはかわいい物・美しい物が好きなのである。


　「この子を殺すのが俺の任務だ。お前のコレクションに入れるわけにはいかないぞ」

　「わかっているわよ」


　ゾルダートはディスピア王女を見て感傷にふけっていた。それは、ディスピア王女があまりにもヴァルキリーに似ているからである。


　「ヴァルキリー・・・」


　ゾルダートは込み上げる思いをグッと抑える。


　「ゾルダート様、お気持ちは察ししますが王女様を殺してください。ルーラ様から王女様はゾルダート様が殺すことになっていると聞いています」


　ディスピア王女の暗殺はゾルダートが行うことになっている。それは依頼者であるロード王からの指示である。


　「ロードは俺が王女様を殺すことを楽しんでいるのだろう・・・あいつは性格が腐ってるぞ」

　「私が代わりにやりましょうか？」


　誰が殺しても誰にもわかるはずがない。なので、ハーレクインは代わりに王女を殺してあげると進言した。


　「それはダメだ。俺が殺さないと任務の達成とはならない」


　ゾルダートは震える手を抑えつけながら斧を振り上げて王女のお腹に斧を振り落とそうとする。王女は死を直面しても笑顔を浮かべてニコニコしている。それがかえってゾルダートの気持ちをえぐるように突き刺さる。


　「グオォオーーー」


　ゾルダートは雄叫びを上げながら王女のお腹を真っ二つに切り裂いた。王女のお腹からおびただしい量の血が吹き上がる。王女は悲鳴などあげる間もなく絶命した。


　「グオォォーー」


　ゾルダートは王女を殺した後、草原に響き渡るような嗚咽のような叫び声をあげて地面に倒れ込む。


　「ゾルダート様どうかされましたか？」


　ハーレクインはゾルダートに駆け寄る。

　ゾルダートは苦悶の表情を上げて苦しんでいる。そして、ゾルダートは大きな体を地面に叩きつけるようにして転がり回りながら苦痛と闘っている。


　「ゾルダート様！何があったのですか！」


　近くに待機していたゾルダートの暗殺部隊がゾルダートに近寄るが、ゾルダートの苦痛を止めることはできない。それは原因がわからないからである。そして、ゾルダートは1時間ほどのたうち回った後意識を失ってしまった。


　「ハーレクイン様どうしますか？」

　「予定通りゴブリンの餌を撒いてアジトに戻るわよ」


　ゴブリンが人間を襲うことは少ないが、ゴブリンの好きな動物の肉を置いておけば、この場にゴブリン達が荒らしてくれるはずである。しかし、そんな小細工はすぐに見破ることはできるのだが、これは国王の依頼であるので、あとはうまいこと処理しくれることになっている。それに、盗賊達の死体もたくさんある。これで、盗賊、ゴブリンどちらかの襲撃のせいにできる算段である。


　ハーレクインはゴブリンの餌を馬車の周りに置いて、ゾルダートを運び出してその場を後にしたであった。