終焉の姫と聖女の姫

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双子の王女 パート7

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 俺たちは夜中に誰にも悟られないように王都を出発した。ディスピア王女の安全のため、国民には朝に出発すると発表されていたが、それはディスピア王女の暗殺などを防ぐための虚偽の報告であった。

 
 「今回の任務は絶対に失敗することは許されません。ディスピア王女様を無事にハイドランジア国に送り届けるための最大限の警戒態勢を敷いてください」


 俺は30名ほどの王国騎士団に声をかける。俺以外はみんな貴族であり『称号』を持っている。ほとんどの者が俺の『剣士』の『称号』の上のランクの『剣豪』の持っているが、俺は努力の結果『剣豪』の『称号』を持っている他のメンバーよりは剣の腕は上である。

 しかし、今回のメンバーの中で俺よりも腕がたち『称号』のランクが他のものよりも上の者が2人いる。1人は『武人』の『称号』を持つグレイソンという身長2mを超える長身でガタイのいい男と、同じ『武人』のマシューである。マシューはグレイソンと真逆で155cmと小柄な男性であるがその小柄な体をいかした俊敏な動きに定評がある。

 『剣士』は剣術に長けた力が与えらる。そして『剣豪』は『剣士』よりさらに優れた力を与えられて生まれてくる。『剣士』・『剣豪』が剣に優れた力を授かるのに対して『武人』はあらゆる武器を使いこなすことができる力を授かっている。巧みにあらゆる武器を使いこなすことができるなので職業『称号』としてはランクが高い。

 マシューが絶えずディスピア王女の側で護衛をして、グレイソンが王女の馬車のそばを騎馬に乗って護衛をしている。
 
夜中に王都を出発をして特にトラブルもなく2日後の昼過ぎには、ゴブリンの森の近くまで到着した。


 「夜の野営は盗賊の格好のマトになります。今日も昼間に交代で睡眠をとって移動することにします」


 昼間に襲ってくる盗賊もいるが対処がしやすい。逆に夜に襲われると対処が遅れるので危険が多いので、昼間に休息をとって夜に移動するように指示をもらっている。


 「尾行されています」


 本隊から少し離れた場所で盗賊が襲ってこないか監視をしていたザッカリーが、俺の元は駆けつけてきて報告をする。


 「数は把握できていますか?」

 「20名くらいだと思います」

 「そうですか・・・」

 「俺が言ってくるぜ」


 話を聞いていたグレイソンが声をかけてきた。


 「20名の数で私たち王族騎士団30名の部隊を襲撃するなんてありえません。必ず別の部隊が近くにいるはずです。グレイソンさんが馬車から離れるのは危険だと思います」


 最優先は王女の護衛である。グレイソンとマシューは王女の側から離すことは危険である。


 「お前がいるから大丈夫だろ」

 「そうです。俺はグレイソンに加勢しますので、アンダード大尉はマシューと共に王女の護衛に専念してください」


 ザッカリーもグレイソンも俺の腕を信じてくれている。盗賊が襲ってくるのを待つよりも先に攻撃を仕掛けた方が危険は少ないと判断して、俺はグレイソンと他10名の騎士に盗賊を討伐するように指示を出した。

 盗賊が襲って来るのを想定して見通しの良い草原で野営をすることにした。そして、野営の準備をするふりをして10名の別働隊が近くも森の中に姿をくらました。

 俺は盗賊に悟られないように、食事の準備をするために薪に火をおこして
大きな鍋で料理を作る。しかし周囲への視線を外すことはない。

 見通しの良い草原でも盗賊は、食事をして気が緩んでいる隙を襲ってくる事は稀にある。俺は今回の盗賊も食事をする時に襲ってくると判断した。食事の準備を終えて、数名の兵士を交代で警護につけて食事を始めた。


 「気を抜かないでください。必ず盗賊は襲ってきます」

 「わかりました」


 今回の王国騎士団のメンバーは盗賊退治を経験しているので緊張はしてはいない。みんな静かに食事をしながら盗賊が襲ってくるのを待っている。

 馬車の中ではルシーが王女に授乳をしている。その側を少しも離れることなくマシューが待機している。


 「本当に可愛い王女様ですわ。将来が楽しみだわ」


 ルシーが王女を見て微笑んでいた。

 その側で無言でマシューは王女を守るために気配を殺してじっとしている。

 遠くから土煙をあげて騎馬に乗った盗賊たちが現れた。数はザッカリーの言った通り20名だ。

 
 「あれが王女を乗せた馬車だ!必ず金目の物があるはずだ。すべてを奪い尽くせ」


 盗賊のリーダらしき人物が大声を張り上げる。盗賊達の側面からグレイソンが率いる別働隊が現れて盗賊達に襲いかかる。


 「俺たちが相手をしてやる」


 グレイソンは、自分の身長ほどある大剣を振りかざして、騎馬諸共盗賊をぶった斬る。


 「どこから現れたのだ!」

 「お前達がいるのは気づいていたのだ」


 ザッカリーも騎馬に乗りながら、盗賊達を次々と切り裂いていく。数分もたたないうちにグレイソンの率いる別働隊が盗賊達を呆気なく撃退した。そして、盗賊のリーダらしき人物だけは生かして捕らえることに成功した。


 「お前がこの盗賊のリーダーだな」


 グレイソンが問い詰める。


 「話が違うぞ。早く俺を助けてくれ!」


 盗賊のリーダーが大声で叫ぶ。


 「何を言っているのだ。他に仲間がいるのか!」


 グレイソンが大声で怒鳴りつけるが盗賊のリーダーはグレイソンの話に耳を傾けずに騒ぎ立てる。


 「早く助けろ!仲間が全員殺されたではないか!」


 「グレイソンさん、すぐに盗賊の仲間が現れるはずです」

 「そうだな。こいつは仲間に向かって叫んでいるはずだ。気を抜くなよ」



 「そんなバカな・・・」

 ザッカリーは自分の目を疑った。さっきまで一緒に戦っていた別働隊の仲間達が肉片となって目の前に転がっているのであった。
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