終焉の姫と聖女の姫

双子の王女 パート4

　「王妃様、アルカナ王女様にお声をかけてください」


　ヴァルキリーの様子を見て心配したシェダルは、ヴァルキリーにそっと近寄り小さくつぶやいた。


　「そうね。アルカナ、元気に生まれてきてくれてありがとうね。妹もすぐに元気になって戻ってくるから姉妹で仲良くするのよ」


　アルカナは言葉の意味はわからないが、母親に声をかけれて嬉しそうに微笑む。

　
　「そうだな。姉妹そろって元気な姿を見れる日はそんなに遠くないはずだ。お前もゆっくり休んで早く元気になってくれ」


　ロード国王はヴァルキリーに優しい言葉をかけるが、内心はそんなことは少しも思っていない。ロード国王にとってディスピアは災いを持って生まれた子でありすぐにでも死んで欲しいのである。


　「あなた・・・ありがとう。2人のためにも早く元気になるわ」


　ヴァルキリーは嬉しそうに微笑んだ。


　「ロード国王様、もうすぐ会議の時間です」


　ルクバーがロード王に耳打ちをする。


　「わかった」


　ロード国王は小さくつぶやいた。


　「ヴァルキリー、俺は今から大事な会議が入っている。申し訳ないが俺は席を外すぞ」

　「ええ、大事な会議なのでしょ。すぐに向かってちょうだい」


　ルクバーはヴァルキリーからアルカナを受け取りロード国王と共に王妃の間から出て行った。




⭐️とある場所にて


　この場所に集まっている全ての者が仮面をかぶっている。それはお互いに素性を隠すためである。『八咫烏』では、共に行動する一部の仲間だけにしか顔を見せることはない。


　「次の任務が決まりました」

　「次はどのような仕事でしょうか？」

　「第2王女ディスピアの暗殺です」

　「・・・」


　部屋の中が静まり返る。


　「ルーラ様、本当ですか？」

　「間違いありません。ハイドランジア国へ向かう途中のゴブリンの森で、ディスピア王女を暗殺します。ディスピア王女の護衛部隊は30名と聞いていますが、1人も生きて帰すことは許しません」

　「王女様の護衛を相手にするのはかなり危険だと思いますが？」

　「問題はありません。今回の任務はゾルダートに指揮を取ってもらいます。彼なら護衛部隊が30人でも1人で殲滅してくれるでしょう」


　集まっている八咫烏のメンバはすぐに納得をした。『八咫烏』の中で三羽烏は重大な任務しか同行はしない。今回は、かなり重大な任務のなので三羽烏の1人が同行するのは当然である。


　「王女の乗せた馬車は昨日の晩に出発しています。ゴブリンの森の近くを通るのは明日の昼過ぎになると思います、私の得ている情報では夜間に移動して昼間に交代で休息を取っているそうです。明日の昼過ぎにはゴブリンの森の入り口付近で野営を取るはずです。そこを襲撃する予定になっています」

　「俺も参加させてもらってもいいか？」


　先程までは部屋にはいなかった男が急に部屋の中に姿を現した。


　「トゥルビヨン、いつからここにいたのですか？」


　ルーラが声をかける。


　「今戻ってきたとこだ。町で面白い噂を聞いたぜ」


　トゥルビヨンの姿を見た『八咫烏』のメンバーは直立不当になってトゥルビヨンに頭を下げる。

　トゥルビヨンは『八咫烏』の三羽烏の1人であり、冷徹残忍な性格のトゥルビヨンは『八咫烏』のメンバーの中でもかなり恐れられている。トゥルビヨンは身長が2mを越える巨漢である。皆、素性を隠すために顔を仮面で隠しているが、トゥルビヨンは顔を隠すことはしない。その素顔は顔中に奇怪な模様の刺青に覆われている。


　「どのような噂ですか？」

　「第二王女の噂だ。第二王女のディスピアは実は称号なしで生まれたので、国外追放されたのではないかと噂になっているぞ」

　「そうですか・・・憶測で噂を広げるのは良くないことだと思います」

　「噂なんてどうでも良い。現に国王から王女の暗殺の依頼がきたのだろう。俺も参加させてもらうぞ」


　トゥルビヨンはルーラに詰め寄る。


　「わかりました。あなたの参加も認めましょう。しかし、今回の指揮権はゾルダートにありますので、ゾルダートの指示に従ってもらいます」

　「どうせ皆殺しだろ！俺の好きにさせてもらうぜ」


　トゥルビヨンはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。


　「王女様をいたぶって殺すことは俺が許さない」


　部屋の中の片隅で静かに座っていたゾルダードが、大きな斧をトゥルビヨンに向けて言い放った。

　ゾルダートはトゥルビヨンよりさらに大きな体をしていて見るものを圧倒する。そして、黒い大きな兜の裾からは綺麗な銀色の長い髪が背中まで伸びていた。


　「お前のかわいい姪を俺が殺してやると言っているのだ。感謝しろよ」


　トゥルビヨンはゾルダートを挑発するように言った。そして、その瞬間大きな斧がトゥルビヨンの頭上に落ちたきた。

　トゥルビヨンの体真っ二つに裂けるように見えたが、そこには、トゥルビヨンの姿がなく床をに突き刺さった斧のみがあった。しかし、斧にはわずかな血がついている。


　「さすが『軍神』の称号を持つ男だな。おれの『風神』の称号でも完全には避けることができなかったぜ」


　トゥルビヨンの額から血が滴り落ちていた。そして、トゥルビヨンの冷徹な黒い眼光がゾルダートに向けられる。