終焉の姫と聖女の姫

双子の王女 パート3

　「わかりました」

　ロード国王から王女ディスピアの殺しの依頼を受けたのは、デンメルンク王国の暗部組織『八咫烏』の隊長ルーラである。

　ルーラは、顔を黒いフードを被って隠しているうえに黒い仮面をつけている。ルーラは裏でデンメルンク王国の汚い仕事を任せれている。しかし、ルーラの素顔をロード国王ですら見たことがない。


　「ルーラ、ゾルダートは元気にしているのか？」

　「はい。ゾルダート殿下は今では『八咫烏』の三羽烏の1人になっています。今回の依頼はゾルダート殿下に任せたら良いのですね」


　ゾルダートはロード国王の2番目の弟であり、元王国騎士団の総大将である。ある事件がきっかけで罪人となった。その後はデンメルンク城の地下牢に永久投獄されたと公では発表されているが、実際は暗部組織の一員として働かされているのである。


　「そうだ。あいつが愛したヴァルキリーとヴァルキリーを奪った俺との間にできた子を殺せるなんて、あいつもさぞかし満足だろう」

　
　ヴァルキリー王妃は、元王国騎士団大将でありゾルダートの恋人でもあった。ヴァルキリーはアルブレヒト伯爵家の長女に生まれ『レア称号』である『戦乙女』の称号を授かり、その武の才能を開花させて数々の戦でゾルダートと共に活躍をした。

　ヴァルキリーは強さだけでなく、その美しい美貌で『戦場の女神』と国民達からは讃えられ、敵国からは『戦場の死神』と恐れられていた。ヴァルキリーはゾルダートとの結婚は秒読みに近づいていた頃、なかなか『レア初号』の赤子が生まれないロード国王が、ヴァルキリーに目をつけてアルブレヒト伯爵家を脅迫して、強引にヴァルキリーを奪ったのである。

　ヴァルキリーを奪われたゾルダートは、我を失ってデンメルク城に駆け込み、ロード国王を襲いかかったところを捕らえれて罪人になったのであった。


　「ロード国王もあいかわず悪趣味でございますね」

　「あいつが落ちていく様を想像すると楽しくて仕方がないわ。ガハハハ」


　ロード国王の下品な声が響き渡る。


　「ディスピア王女の殺害は、ハイドランジア国へ向かう途中のゴブリンの森の近くで行えばよろしいのですね」

　「そうだ。あの呪われた赤子は不幸にもゴブリンキングの襲撃にあい死んだことなるのだ」

　「わかりました」


　ルーラは頭を下げて一礼をして王の間から姿を消した。


　次の日の夜中にディスピア王女を乗せた馬車がハイドランジア国へ向けて出発した。王女が乗った立派な馬車には30名近い兵士が護衛に付いている。ロード国王から暗殺の司令が出ているが、そのことは一部の者を除いて誰も知らない。そして、王女が不吉な『称号』を授かったことも鑑定の儀に参加した3名しか知らないのである。

　ヴァルキリーは、双子の赤子を産んだ後、体調を壊してずっと床にふしていた。なので双子の赤子とはまだ対面もしていない。しかし、1人は『聖女』の称号を持って生まれた事と、もう1人は体調が悪くてハイドランジア国に行くことは知らされていた。




　「私のせいだわ。私が元気な赤ちゃんを産んでいたらディスピアは、辺境の地に行かなくて済んだのに・・・」


　真実を知らないヴァルキリーは自分を責めていた。


　「王妃様のせいではありません。生まれながらに病弱な体で生まれてくる赤子はたくさんいます。しかし、ハイドランジア国にはメディスン王妃様がおられます。メディスン王妃が作り出す薬は、どんな難病も治すことができると言われています。ディスピア王女様もすぐに元気な姿になって帰って来られるでしょう」


　ヴァルキリーの優しく声をかけるのは、王族直属メイド『五芒星』の1人シェダルである。美しいオレンジ色の髪は太陽にような輝いていて、漆黒の瞳は誰もが魅了されてしまうほど魅惑的である。そして王妃様と言ってもおかしくない品位があり美しい小柄な女性である。


　「ありがとう、シェダル。早くアルカナだけでも会いたいわ」

　「王妃様の体調もかなり良くなられたので、すぐにお会いできるように手配をしておきます」


　ヴァルキリーが、子供に会えない理由は体調が悪いことだけでない。ディスピアに会わせたくないロード国王の思惑があった。ディスピアは全く体調など悪くない元気な赤子だ。だから、ヴァルキリーに会わせると嘘がバレてしまうから、2人を会わせることができないのである。


　「嬉しいわ。すぐに手配して欲しいわ」


　ヴァルキリーは早く我が子を抱きしめたい。


　「わかりました。すぐに手配します」


　シェダルは、王妃の間にいる他のメイドに指示を出した。


　1時間後・・・


　「ロード国王様と連絡が取れました。アルカナ王妃様を連れてこちらへお伺いするそうです」

　「嬉しいわ」


　ヴァルキリーは、瞳にうっすらと涙を浮かべていた。それは、やっと我が子に対面できる嬉し涙であった。




　「ヴァルキー、すぐにお前に会いに来れなくてすまなかった。色々と忙しくて休む暇もなかったのだ」


　王妃の間に入ってきたロード国王がヴァルキリーに頭を下げる。


　「あなたが色々忙しいのは理解しているわ。それに、私の体調も芳しくなかったので会えることができなかったのは仕方がないことよ」

　「お前が少しでも元気になってよかった。それと『聖女』を産んでくれてありがとう」


　ロード国王は優しく微笑みながら言った。これはロード国王の本心である。やっと『レア称号』の赤子を授かってとても嬉しいのである。


　「私にアルカナを抱かせてもらえるかしら」


　ロード国王と共に入ってきたメイドのルクバーが、赤子をヴァルキリーにゆっくりと丁寧に渡した。

　ルクバーも王族直属メイドの1人である、キラキラ光る白髪のショートカットの小柄な女性だが、王族直属メイド『五芒星の』中で最強の強さを誇る。王族に直接使える『五芒星』は身の回りの世話だけでなく護衛も兼ねている。

　ヴァルキリーはアルカナを強く抱きしめた。


　「アルカナ・・・」


　ヴァルキリーは複雑な思いであった。アルカナは『聖女』の称号を持って生まれデンメルンク王国の発展を担うことになる。しかし、一方もう1人の赤子ディスピアは、辺境地へ療養に出されたのである。しかも、『称号』は不明であるとシェダルに聞かされている。アルカナを強く抱きしめて、アルカナに祝福の言葉をかけたいのだが、ディスピアのこと思うと言葉が出ないのであった。