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嫉妬

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 「おい!あそこに誰か倒れているぞ」

 「本当だわ。すぐに助けに行きましょう」

 
 バルザックは、颯爽と魔獣の森の茂みに倒れこんでいる3人の親子の元へ走って行く。


 「どうしたのだ?何があったのだ?」

 「お願いします。見逃してください」

 「私がお父さんを守る!」


 女の子がバルサックに飛び掛かった。


 「怖がらなくてもいいのだぞ。俺は冒険者であってお前たちの敵でない」


 バルザックは女の子をやさしく抱きしめる。


 「お父さんをいじめに来たのじゃないの」

 「もちろんだ!この辺りで爆発音があったので、気になって来たのだよ」

 「もしかして、良い冒険者さんですか?」

 「そうだとも。俺たちは世界の平和のために活動している良い冒険者だ」

 「本当に!」

 「俺が悪いヤツに見えるか?」

 「見えないよ」

 「そうだろ。お父さんが怪我でもしているのか?」

 「お父さんが薬の副作用でおかしくなっているの」

 「薬の副作用?」

 「私が説明します。夫はMYK中毒者なのです。何度もやめようとがんばったのですが、MYKを持続的に服用した者は、MYKの効果が切れると、魔力が底を尽きなおかつ老化してしまうので、やめることができないのです」

 「末期の症状だな。でもそれは自業自得だ」

 「わかっています。でも、一度MYKを服用して膨大な魔力を手にしてしまったら、歯止めがつかなくなってしまいます」

 「そうだな。でも、こんなところで何をしているのだ」

 「私達親子は、MYKの購入で膨れ上がった借金の肩代わりとして奴隷になってしまったのです。今日は奴隷としての初仕事で、黒狐のエサとして魔獣の森に連れて来られました」

 「なんてひどい事をするのだ。相手は『赤朽葉の爪』だな」

 「そうです」

 「俺が退治してきてやる。居場所を教えてくれないか」

 「私たちは必死に逃げて来たので、どこにいるのかわかりません」

 「バルザック、『赤朽葉の爪』の連中は死んでいるぜ」

 「お兄様、赤朽葉の三人は体が破裂して死んでいたわ。この死に方はMYK
の多量接種によるものだわ。一体ここで何が起こったのかしら?」

 「黒狐は、大きな音に反応して姿を現す魔獣だ。先ほど聞こえた大きな爆発音は、黒狐をおびき寄せるためのモノだったのかも知れない」

 「俺はその意見には賛成できない。黒狐を誘き出すのにあれほどの大きな爆発音を立てる必要はないはずだ。あの爆発音には別の理由があるはずだ」

 「『黒天使』よんよん」

 「この地に『黒天使』が現れて『赤朽葉の爪』の3人を倒したってことか」

 「そうよんよん」

 「その意見に俺は深く同意する。たまたま通りすがった『黒天使』が、親子を助けるために『赤朽葉の爪』の3人を倒しに現れた。『黒天使』の強さに恐れをなした3人は、MYKを多量に摂取して反撃をしようとしたが、MYKの副作用によって自滅したと考えられると俺は思うぜ」

 「そうよんよん」

 「間違いないと思うわ。私はブランシュ王女殿下に『黒天使』さんのイラストを見せてもらったけど、あの風貌はとても勇ましいうえにカッコよく威圧感もあるわ。味方だと天にも昇る思いになるけど、敵だと絶望の淵に落とされた気分になるわよ」

 「また『黒天使』に手柄を取られたのか・・・」

 「何を言ってるのよお兄様。今回も『黒天使』さんに救われたのよ!また『黒天使』さんは自分の活躍を誰にも知らせることなく去って行ったのよ。富や名声を求めずにただ目の前に起きた事件を1人で解決して去っていく、なんて素晴らしい方なのかしら」

 「そうだな。俺は功に焦っていたのかもしれない。俺はまだまだ子供だったな」

 「バルザック、お前の気持ちはわかるぜ。俺たちは世界の平和のために、そして、王者ランクになるために冒険者を始めた。俺たちが目指していた頂に『黒天使』は簡単に辿り着いた。今や王都では『黒天使』は勇者様と言われている。悔しい気持ちが芽生えるのは当然だ。しかし、その悔しさをバネにして、俺たちも頂点に上るために努力すべきだと思うぜ」

 「そうだな。俺たちはまだまだ成長途上の冒険者だ。だが、いずれ『黒天使』と並び立てるようにがんばろうぜ」

 「もちろんだ」

 「そうね」

 「よんよん」


 
 「ところで、この親子はどうする」

 「父親はMYK中毒者だ。MYK中毒者の完治方法は未だに完成されていない」

 「そうね。MYK中毒になった者は、容量を減らして出来るだけ悪化を防ぐ方法しかないみたいね。しかし、自己管理して容量を減らすのは不可能だから、囚人の町レクイエムにて管理しているはずね」

 「俺たちの国へ連れて行けば親子を引き離す形になってしまう。親子がそれを望むならそうすればいいのだが・・・」


 バルザックは、母親にヴァイセスハール王国へ避難するのか提案したが、祖国であるフンデルトミリオーネン帝国へ戻ることを望んでいたので、親子を以前暮らしていた町まで送ることにした。



 
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