上 下
104 / 116

手錠デスマッチ

しおりを挟む

 「アイリスさん、リードの製作代金はいくら支払ったらいいのかしら」

 「ハツキさん、代金はいらないので素材の回収をお願いできないかしら」

 「いいわよ!」

 「助かるわ。実は黒狐の毛皮が欲しいのよ。安価で人気のない素材だったので逆に入手が難しかったのに、今は全く手に入らない安価で人気のないレア素材になってしまったのよ」


 黒狐の毛皮は特に使い道がなかったので、素材価格が非常に安かった。しかし、安い割にはCランクと中級冒険者以上でないと倒せない魔獣だったので、誰も討伐したがらないので入手が困難な素材であった。


 「人気のない素材が欲しいんですね」

 「そうなのよ。黒狐の毛皮にはまだ明るみになっていない特徴があるので、それを研究しているのだけど、毛皮の量が足りないから調達をお願いしたいの」


 アイリスも黒狐の毛皮には魔力量を増進させる作用がある事を発見していたが、まだ研究段階であり、実用化には至っていないのである。イーグルネイルは偶然にも黒狐の毛皮の新たな使い道を発見してMYKを生産したが、完全な実用化はできずに効果以上に副作用が発生し失敗作とも言える作品になっていた。


 「すぐに取ってきてあげるわよ」

 「黒狐はヴァイセスハール王国、フンデルトミリオーネン帝国、オレンジェザフト帝国の三つの国が隣接する中間地点の魔獣の森に生息するの。その森は黒狐王が支配していた森なので、黒狐王が討伐された今は、中級冒険者以上ならば苦戦することはないはずよ」

 「私は初級冒険者だけど問題ないわ」

 「そうね。伝説の鉱石をゲットするハツキさんに危険な場所なんて存在しないわ」

 「早速今から行ってきます!」

 「ハツキさんなら心配は無用だと思うけど、無理はしないでね」

 「はい!」


 私は黒狐の毛皮を目指して魔獣の森に向かう事にした。もちろん、私の真の目的は出来上がったばかりのリードを使ってプリンツと一緒にお散歩する事である。私はプリンツが本来の姿に変身できる場所までひとっ飛びした。



 「プリンツちゃん、見て見て!とっても可愛いリードでしょ」


今回私が10種類あるリードの中で選んだリードはピンク色のリードであった。


 「僕はそのヘンテコなロープのようなモノで繋がれてしまうんだね」



 プリンツにはリードの事はきちんと説明したが、全く理解してもらえなかった。なぜならばプリンツにとって、私とリードで繋がれる事は、私の超高速走りに強制的に引きずられる事であると感じていたからである。プリンツにとってリードとは手錠デスマッチのようなイメージであった。



 「プリンツちゃん・・・なんだか浮かない顔をしているような気がするわね」



 私は飛び上がって喜んでくれるものだと思っていたので拍子抜けである。



 「わかっているよハツキお姉ちゃん。これも修行の一環なんだね」


 プリンツは迫り来る恐怖に打ち勝って堂々たる出立ちで私の方を見る。


 「なんだかプリンツちゃんの表情が硬いような気がするわ。私とのお散歩は飽きたのかしら」

 「ハツキお姉ちゃん、僕は全然問題ないよ!お散歩という名の修行は僕にとっては大事な事だよ。全力で魔獣の森に行こうよ」


 プリンツは私より先に全速力で走り出した。プリンツは今までの私との旅によりレベルも上がりスピードもアップしているので、一瞬で私の視界から姿を消した。万能鉱石で作られたリードはどこまでも伸びていく。


 「もぉ~プリンツちゃん。私を置いていくなんて失礼しちゃうわ。今回は2人で仲良くお散歩をするのよ」


 万能鉱石で作られたリードは無限に伸びるわけではない。元の長さは10mであり最大は500mである。なので500m以上は私から離れることができないのであった。


 「えい!」


 私が軽くリードを引っ張ると黒い塊が私の方にものすごい速さで飛んできた。悲鳴と共に。


 「グアァァァァ」


 もちろんプリンツの悲鳴である。


 「もぉ!プリンツちゃん私を置いていくなんてあんまりだわ」


 私はプリンツに説教をするがプリンツは全く聞いていない。いや失神して聞くことが出来ないのであった。


 

 「キューンハイト様、ここが新しいMYK並びにMYKSの製造工場ですね」

 

 ※キューンハイト 赤朽葉の爪のリーダーでありMYK・MYKSの製造責任者。坊主頭のブヨブヨ太った中年のおっさんだが、MYKを服用すると力士のような脂肪と筋肉が融合した筋肉質な体になる。目は茶色だが、MYKを服用すると赤く充血する。


 「そうなのだ。ここが新たな製造工場だ。ここでMYKSを作りまくってがっぽり儲けさせてもらうぞ」

 「しかし、キューンハイト様、MYKSはまだ試作段階です。もう少し改良の余地があるとボスが忠告をしています」

 「問題ない。俺は天才魔導技師だ!適当に配分を変えていけば、MYKくらいの副作用で済むようになるはずだ」

 「確かにそうですね。MYKも最初はひどいモノでしたが、適当に配分しているうちに副作用も軽減されましたね」

 「そうなのだ。研究とは失敗の繰り返しだ。緻密に計算された研究など素人がする事だ。俺のような天才は直感とヒラメキで研究するのだ」

 「凡人と天才の差はそこにあるのですね」

 「そうなのだ。では早速だがこの出来あがったMYKSを飲んでみてくれ」

 「私がですが!」

 「そうなのだ。お前以外誰がいるのだ」

 「いつもはMYK中毒者に飲ませているはずでは?」

 「ここは新工場だ。まだ、引っ越しは済んではいないから今は俺とお前しかいないだろ」

 「でも・・・」

 「俺が作ったMYKSを疑っているのか?」

 「そんなことはありません」

 「じゃあ飲め」

 「・・・」

 「飲め!」


 部下は渋々MYKSを服用した。

 部下の体からは血管が浮き出てきて体が膨張していく。部下の体はみるみる膨張して服が張ち切れてしまった。だが、体の膨張は収まらずにどんどん膨らんでいく。部下の体はMYKSの筋肉向上作用に耐えきれずに、風船のように膨らんだ後あっけなく破裂した。


 「やっちまったかぁ!前回成功した分量の倍の雪狐の毛を入れたのが失敗だったな。倍にすればもっと魔力と筋力が向上するかと思ったが無理だった。やっぱり前回の分量でいくとするか」



 キューンハイトの適当な配合によって部下は死んでしまった。『赤朽葉の爪』の団員はキューンハイトの実験台になるのが嫌で違う爪への転属願いを出すものが多く、人材不足で大変なのであった。





 

 


 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

貢ぎモノ姫の宮廷生活 ~旅の途中、娼館に売られました~

菱沼あゆ
ファンタジー
 旅の途中、盗賊にさらわれたアローナ。  娼館に売られるが、謎の男、アハトに買われ、王への貢ぎ物として王宮へ。  だが、美しきメディフィスの王、ジンはアローナを刺客ではないかと疑っていた――。  王様、王様っ。  私、ほんとは娼婦でも、刺客でもありませんーっ!  ひょんなことから若き王への貢ぎ物となったアローナの宮廷生活。 (小説家になろうにも掲載しています)

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

元社畜が異世界でスローライフを行うことになったが、意外とそれが難しすぎて頭を抱えている

尾形モモ
ファンタジー
 ブラック企業勤めの社畜としてこき使われ、その果てに過労死してしまった斉木英二。そんな時、運命の女神の粋な計らいによって「異世界転生しスローライフを送ることのできる権利」をプレゼントさせる。  これで楽しいスローライフの始まり! と思ったが意外にもスローライフは大変なようで……? ※第4回次世代ファンタジーカップ参加作品です! 皆さま応援よろしくお願いします!

超文明日本

点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。 そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。 異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

出戻り国家錬金術師は村でスローライフを送りたい

新川キナ
ファンタジー
主人公の少年ジンが村を出て10年。 国家錬金術師となって帰ってきた。 村の見た目は、あまり変わっていないようでも、そこに住む人々は色々と変化してて…… そんな出戻り主人公が故郷で錬金工房を開いて生活していこうと思っていた矢先。王都で付き合っていた貧乏貴族令嬢の元カノが突撃してきた。 「私に貴方の子種をちょうだい!」 「嫌です」 恋に仕事に夢にと忙しい田舎ライフを送る青年ジンの物語。 ※話を改稿しました。内容が若干変わったり、登場人物が増えたりしています。

処理中です...