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ノックは無用

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 「う・・・・ん。う・・・・ん」


 私は大きく膨らんだお腹を押さえながらうなされていた。


 「もう・・・食べれないよ」

 
 私はメルクーア大公に用意してもらったお城にある豪華なお部屋のベットで眠っていた。


 「ケーキが・・・ケーキが・・・」


 私は夢の中でケーキに襲われていた。無数のケーキの群れが私を取り囲み私の口に向かって飛んでくるのであった。


 「た・・・助けて!」


 私はベットから転び落ちながら夢の中のケーキの群れを回避していた。



 「ここが、0の少女が泊まっているお部屋だな」


 ヴァイスは、王都で騎士団所の所長を務める優秀な人物である。城内の関係者とも繋がりがあり、簡単にお城に潜入して私の泊まっている部屋の前まで忍び込んだのである。


 「魔導扉か・・・」


 お城の部屋の扉は魔道具である魔導扉を採用している。これはアイリスさんが発明した防犯に優れた扉である。魔導扉を開くには登録した魔力をドアノブに流し込まないと開かない仕組みになっている。これは指紋認証的なシステムである。なので、魔力のない私は強引に開けるしか手段はないが、強引に開けると体に電気が流れる。そして、さらに強引に開けようとすると扉が爆発して不審者に大けがを負わせる危険な扉である。


 「問題はない。俺には偽造魔力が使える」


 魔力は一人一人波形が違うので、魔導扉が開発されたのだが、魔力の波形を変化させることによって魔導扉を開くことは可能なのである。


 『ビリビリ!ビリビリ』

 「ギャーーー」


 ヴァイスがドアノブに手をかけた瞬間に電撃が走る。ヴァイスは、今まで暗殺時に魔導扉を開けることができたのは、アイリスが作った魔導扉でなく、アイリスの技術を盗用した質の落ちる魔導扉だったからである。アイリスの作る魔導扉は超高性能なので、絶対に開けることはできないのである。

 一度目の電流は警告なので多少の痛みはあるが、体にダメージを負わせるものではない。


 「くそ!なんで開かないのだ」


 ヴァイスは開けるのは不可能だと感じて、どのようにして扉を開けるか考えていた。


 「相手は魔力0のガキだ。正攻法で行っても問題ないだろう」


 ヴァイスは扉をノックして普通に入ることにした。


 『ドンドン・ドンドン』


 ヴァイスが扉をノックしている時、私は夢の中でケーキに襲われてパニック状態であった。


 「キャーーーー、もうケーキは食べたくないのよぉーー」


 私は夢の中で叫びながら、現実では床をコロコロ転がっていた。


 「もう来ないでよ!」


 私は一度ヘンドラー男爵の屋敷を大破したことがあったので、筋肉に寝るときは屋敷を壊さないようにお願いをしていた。しかし、今回は腹痛で苦しんでいたので、筋肉へのお願いを忘れていた。

 私はしつこいケーキの群れの突進に怯えて床を激しく転がりだした。転がり速度は徐々にスピードアップして、ついには扉を破壊して部屋の外に出てしまったのである。


 「は!またやってしまったわ」


 私は扉を破壊した音で目を覚ましたのである。


 「よかったわ。今回は扉だけですんだわ」


 私は豪華なお部屋を破壊せずにすんだことにホッとした。


 「でも、扉は壊れてしまったわ。明日、ブランシュちゃんに謝ることにするわ」


 私はすぐにベットに戻り眠りについた。


 「なんだ!今の音は」


 扉が破壊された音に気づいた城の護衛兵士が私の部屋の前にやってきた。


 「魔導扉が破壊されているぞ!盗賊が侵入した可能性があるから辺りを隈なく調べろ」

 「あ!扉の下に誰かいるぞ」


 兵士たちは床に横たわっている破壊された扉を数名がかりで取り除いた。


 「なぜ?こんなところにライスフェルト所長が倒れているのだ」

 「わからん。すぐにメルクーア大公に報告しろ」


 ヴァイスは扉の下敷きになって意識を失っていた。そして、不審に思った兵士たちはヴァイスをメルクーア大公の元に連行したのであった。





 「ハツキちゃん!起きて」

 「ブランシュちゃん。どうしたの?もう朝かしら」

 「よかった・・・無事で」

 「どうしたの?」

 「実は騎士団所のライスフェルト所長がハツキちゃんを襲いに来てたのよ」

 「え!本当に」

 「でも、扉を強引に開けようとしたライスフェルト所長は、魔導扉の防犯装置の爆発によって、扉の下敷きになって意識を失ったの」

 「そ・・・そうなんだ」


 私は扉を壊したのは自分であると言えなかった。


 「本当に無事でよかったわ」

 「扉の下敷きになった人はどうなったの?」


 私は自分のせいで怪我をした人が気になるのである。


 「ハツキちゃん・・・あなたは自分を襲ってきた相手の事を心配しているの?」

 「ちょっと、気になってね」

 「ハツキちゃんはどこまでお人好しなのよ!相手はハツキちゃんを襲いにきた悪い人よ!そんな人のことなんて心配する必要はないわ」


 ブランシュは本当に怒っているので、私はそれ以上何も言えなくなった。


 「詳しい事情は朝にはわかると思うわ。もう安全だと思うけど私と一緒に寝ましょ」

 「大丈夫よ。私にはプリンツちゃんが付いているし」

 「そうだったわね。ハツキちゃんには強力なボディーガードがいるんだったわ。だから、自分が襲わそうになった事がわかっても冷静でいられるのね」

 「そ・・・そうなのよ」


 私は扉の下敷きになった人には申し訳ないが、私が扉を壊したことは黙っていることにした。

 
 
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