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遊園地

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 プリンツは鋭い牙を剥き出しにして、白銀狐の首元を噛みつこうと飛びかかる。白銀狐は私に抱きしめられて身動きが取れないので、大きな翼を羽ばたかせてえ上空に避難する。


 「この狐ちゃん、お空を飛べるのね!すごいわ」


 私は白銀狐を抱きしめるのをやめて背中によじ登った。


 「高いところから見る景色は綺麗だわ」


 白銀狐は20mほど飛躍して上空で様子を伺っていた。私からの拘束は解放されたが、背中にまたがっている私に畏怖の念を抱いている。


 「コヤツは普通の人間ではないわ。私の『絶対零度』も『凍てつく風』も通用しない。さすが精霊樹をへし折るだけの実力者だわ。でも、どうすればいい?今のところ私には直接攻撃をしてこないで様子を伺っているのかしら?今なら振り落とすことができそうね」


 白銀狐は私が攻撃をしてこない間に私を振り落とすために、急にスピードを上げて右へ左へジグザグに飛行する。


 「何これめちゃ楽しいわ」


 私はふと思ったのである。これは遊園地などにあるジェットコースターのようなアトラクションを私に堪能させてくれているのだと。


 「狐ちゃん、ありがとう!」


 私を振り落とそうと必死にジグザクに飛行する白銀狐と、その上でキャー、キャーと楽しい悲鳴を上げて喜んでいる私がいた。


 「悲鳴を上げて怯えているようね。それなら、これで地面に叩き落としてやるわよ」


 白銀狐は、私の悲鳴を恐怖の悲鳴だと勘違いして勝負に出ることにした。白銀狐は宙返りをして私を地面に落とそうとする。


 「キャーー!キャーー!めっちゃ怖いわよ!!」


 私は遊園地など行ったことがないので、ジェットコースターのようなアトラクションには乗ったことがない。初めて味わうジェットコースターのような体験に私は心の底から嬉しい悲鳴を上げて喜んでいた。


 「もう少しだわ。もう少しでコヤツは恐怖に支配されて力尽きるはずよ」


 白銀狐は何度も何度も宙返りをしながらジグザグに飛行する。


 「キャーキャー、目が回るよ~」

 
 初めは喜んでいた私だったが、回転系に弱い体質だったので、目が回ってフラフラとしてきたのである。


 「地球が・・・地球が回っているわぁ~」

 
 私は目が回ってこのままでは危ないと思って白銀狐の首のあたりにギュッとしがみついた。


 「グギャーー」


 白銀狐は私に激しく抱きしめられて悲鳴をあげて地上に落下していく。


 「地上に真っ逆さまに落下するよぉ~。でもこれってフリーフォールようなアトラクションみたいだわ」


 私は急降下する白銀狐の背でニコニコと笑みを浮かべて地面に落下した。白銀狐は地面に叩きつけられてその場に倒れ込むが、丈夫な体の私はかすり傷一つ負っていない。


 「ハツキお姉ちゃん、大丈夫?」


 プリンツは私と白銀狐が上空で戦っていたと勘違いしていたので、決着がついたと思い私のそばにすぐに駆け寄ってきた。


 「ちょっと目が回ってフラフラするけど楽しかったわよ」


 私は満面の笑みで答える。


 白銀狐は首を絞められて気を失っているだけで死んではいない。


 「ハツキお姉ちゃん、僕が白銀狐のとどめを刺すね」


 プリンツは鋭い牙を剥き出しにして白銀狐の首筋に噛み付こうとする。


 「ダメよ!狐ちゃんは私と遊んでくれたのよ」


 プリンツは白銀狐を襲うのをやめて私の方を見た。


 「ハツキお姉ちゃんにとっては白銀狐との戦いも遊び程度だったんだね。でも、白銀狐を倒さないと雪の大地はそのままだし、ブランシュの母親の仇を取らなくてもいいの?」

 「え!その狐ちゃんが白銀狐だったの?」

 「知らずに戦っていたの?」

 「違うわ。遊んでいたのよ」と言いたかったが辞めることにした。

 「この狐ちゃんがブランシュちゃんの母親を殺した犯人だったのね。せっかくお友達になれると思ったのに・・・」


 私は迷っていた。私にジェットコースターやフリーフォールのような体験を提供してくれた優しい白銀狐を殺したくはなかった。しかし、白銀狐はたくさんの人間を殺し、オランジェザフト帝国の町を雪の大地に変えた犯人である。このまま殺すべきかそれとも生かすべきか迷っていた。


 「私の負けよ。さぁ私を殺すといいわ。でも、雪狐には罪はないので殺さないで。あなたが精霊樹を倒してくれたので、雪狐は私がいなくても大雪山で元気に暮らしていけるわ」


 白銀狐は体をふらつかせながら立ち上がり頭を下げた。


 「ハツキお姉ちゃん、今回は2体1の戦いだから僕が勝ったとは言えない。もっともっと僕は強くなって、1対1で白銀狐を倒したい。だから、ブランシュの母親の仇は今度でもいいかな?」

 「狐ちゃん、この雪の大地を元に戻せるかしら?それと人間から奪った領土を返してくれるなら今回は見逃してあげるわ」


 私は一緒に楽しく遊んだ白銀狐に愛着が湧いたので殺すことができなかった。


 「残念ながら私が死なない限り氷柱の活動は止まることはないわ。だから、私には雪の大地を元に戻す力はないの。でも、あなたならできるはずよ。だって、簡単に氷柱をへし折り、大きな雪の像を作って、雪の大地の大半は緑の大地に変えたでしょ!」

 「え!私はそんなことをしていたの?」

 「そうだよハツキお姉ちゃん。ハツキお姉ちゃんが雪の塊を転がすと雪の大地が緑の大地に変化していたのだよ」

 「本当に!知らなかったわ」


 私は前しか見てなかったので全然気づいていなかったのである。

 雪で覆われた大地は、私自身で元に戻すことにしたが、新たに白銀狐と二つの約束をした。一つ目は白銀狐は大雪山から出ないこと、二つ目は人間に呪いをかけないことである。聖霊樹が倒されたので白銀狐は自由に活動をできるようになったが、雪を餌とする雪狐と共に暮らすには大雪山で過ごすのが1番快適であるのでそのような約束をした。約束を破ったら罰則があるわけではないが、私と白銀狐の信頼関係によって出来た約束であった。

 白銀狐からは聖霊樹を倒した件と命を見逃してくれた件のお礼として、白銀狐の毛皮と雪狐の毛皮をもらった。そして、私はその後、大きな雪だるまを作って全ての雪の大地を緑の大地に戻したのであった。



 
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