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氷柱の秘密
しおりを挟む「よし!これで完成ね」
私は雪だるまに氷柱を差し込んで雪だるまを完成させた。
「プリンツちゃん、可愛いでしょ」
「そ・そうだね」
プリンツは雪だるまの可愛さを楽しむ余裕はなかった。それは、いつ白銀狐が現れるかもしれないという恐怖心があったからである。プリンツは知っていた。白銀狐は雪狐に復讐以外にも大雪山から降りてくることがある。それは、自分の分身とも言える氷柱を壊された時である。
氷柱は白銀狐の呪いによってできた魔力の結晶体である。約1ヶ月ほどかけて人間の体の魔力を吸い取って成長をする。人間が死ぬ頃には完全体となり、そこから独自の成長を遂げ大きいものなら20mほどの高さまで大きくなる。氷柱は白銀狐の魔力補給庫の役目を果たしているので、氷柱を破壊すれば、白銀狐は怒り狂って大雪山から降りてくるのである。しかし、氷柱は壊すことも近づくことも困難なので、今まで壊されたことなど一度もない。
「そうだわ!もっともっと大きい雪だるまちゃんを作ってあげるわ」
雪だるまを完成させた喜びから、プリンツが怯えていることに全く気づかない私は、さらに大きい雪だるまを作ることを決意した。
「行くわよ!」
私は気合を入れて小さな雪の塊をコロコロと転がし始めた。気合を入れた私の怪力で雪の塊はどんどん大きくなっていく。1分後には私の背丈の倍ほどになり、2分後には大きな屋敷ほどの大きさになり30分後には目視では雪の塊の大きさがわからないほどになっていた。
「これで胴体はできたわ。次は頭を作るわよ!」
私は雪だるま作りに没頭しすぎて周りが見えていなかった。私が雪だるまの胴体部分を作るために雪の塊を転がしている時に、たくさんの氷柱をへし折っていたこと、一面銀世界だった雪の大地をいつの間にか緑の大地に変えていたことを。
私が巨大な雪だるまを完成させた時には、雪で覆われていた元オランジェザフト帝国領だった6割の大地の半分は、緑の大地に変わっていたのである。
私の作った雪だるまは、あまりの大きさに目視で全てを確認することはできない。
「ちょっと張り切りすぎちゃったかもね」
雪だるまを大きく作りすぎて少し私は反省していた。
「プリンツちゃん、この雪だるまちゃんはどうかな?」
「さすがハツキお姉ちゃん、雪は雪狐の栄誉分で、氷柱は白銀狐の魔力補給庫になっている。まずは補給物資を潰すことで戦いを有利に進めるんだね」
氷柱は白銀狐の縄張りを増やす意味合いもある。氷柱は冷たい風を放ち雪雲を呼び寄せて、雪の大地に変貌させる。これは雪狐の餌を多量に用意するためでもある。豊富な餌で雪狐の活性化を図り繁殖を促すのである。雪狐の個体数が増えると、氷柱は雪狐を吸収して魔力を増幅させる。この溜め込んだ魔力は白銀狐の魔力補給庫となり無限の魔力を手にすることになる。
「はて?プリンツちゃんは何を言ってるのかしら?」
私はただ単に雪だるまを作って楽しんでいるだけである。
「しかし・・・なぜ白銀狐は姿を見せないのだろう」
プリンツは疑問に思っていた。私によってたくさんの氷柱が潰された。大事な魔力補給庫を壊された白銀狐は、すぐに姿を見せてもおかしくないはずなのに。
オラジェザフト帝国の6割を雪の大地に変えて領土を広げた白銀狐だったが、領土が増えて1番徳をしたのは白銀狐ではなく、大雪山の麓に聳え立つ精霊樹であった。精霊樹は樹液を飛ばして魔獣を混乱させ魔獣同志を殺させる。そして、死んだ魔獣の魔石を魔獣に運ばせて自らの養分にする。白銀狐は広くなりすぎた領土を管理できず、氷柱の養分になるはずの雪狐を精霊樹に奪われていた。雪狐も多量の餌で一時期は個体数も急激に増えたが、精霊樹と氷柱の養分にされて、今ではその数も激減している。なので、私が雪だるまを作っている時に雪狐の姿を見ることはできなかった。
「大きく作りすぎたから雪だるまちゃんをちゃんと認識できなかったのかな?」
私が作った大きな雪だるまは、巨大すぎて真っ白な壁にしか見えない。私は大きく作りすぎたことに反省して、雪だるまを作り直すことにした。
「次は小さめに作らないとね」
私は、雪の塊をコロコロと転がしだした。次は大きすぎず小さすぎずに丁度良い大きいさの雪だるまを作ることを意識した。数分後には全長30mほどの雪だるまを完成させた。
「これならプリンツちゃんも喜んでくれるかしら?あとは腕をつけたいな」
私はあたりを見渡すが、いい感じの氷柱が見つからない。
「あ!あんなところに大きな木があるわ」
私ははるか遠くに大きな木が生えていることに気づいた。
「プリンツちゃん、あんなところに大きな木が生えているわよ。ちょっと取ってくるわね」
「ハツキお姉ちゃん、あれは!精霊樹だよ。精霊樹の近くには白銀狐がいるから危険だよ」
私は雪だるまを作るために雪を転がしていたら、大雪山の麓付近まで来ていたのである。大きな木を見つけて喜んでいる私の耳には、プリンツの警告など聞こえていない。私は猛ダッシュで精霊樹の元へ走って行った。
精霊樹は人間には反応しない。それは、人間を守るために存在するからではなく、人間には魔石がないからであり、樹液の効果がないからである。
「ごめんなさい大木ちゃん。申し訳ないけど雪だるまちゃんの腕になってね」
精霊樹は高さ50mほどあり、見上げても頭頂部は見ることができない。そして、一面は銀世界なのに、精霊樹には雪が全く積もっておらず、緑の葉がキラキラと輝いている。私はピョンとジャンプして水平チョップをして精霊樹を半分に切った。そして、手の形をジャンケンのチョキの形にして、枝切りバサミのように枝をきれいに切り落とす。
「こんな感じでいいかな」
私は半分に切り落とした精霊樹から10mほどの2本のきれいな丸太を作ったのである。
「アイツは何者なのですか・・・私たちを苦しめていた精霊樹を、いとも簡単に切り落としてしまったわ」
大雪山の頂で精霊樹を監視していた白銀狐がボソリとつぶやいた。
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