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山を満喫する

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 「モォーモォー・モォーモモォー」

 激しい地鳴りと土煙と共に牛牛王は乳液の泉に突進した。ローションのようなヌルヌルで滑りのよい乳液の泉に足を滑らした牛牛王は、バランスを崩して倒れそうになるが、左右の2本のツノが伸ばして体勢を保った。

 牛牛王は、4本の足と2本のツノでバランスをとり、アメンボのように乳液の泉をスイスイと進み出した。プリンツは乳液の泉で戦うことを避けたいのだが、これは私からの試練だと勘違いをしているので、乳液で足を滑らせて何度も転びながらも牛牛王に向かって行く。

 牛牛王は、たくさんのホルスタインがミイラのように痩せ細って倒れている姿を見て、さらに怒りをヒートアップさせた。乳液の泉で牛牛王を睨みつけるプリンツの姿を見て、牛牛王は倒すべき相手はプリンツだと断定し、乳液を激しく蹴り上げてスピードを増して、プリンツにタックルをかます。足場の悪い状況下で体力も限界のプリンツだが、無敵の毛を伸ばしてウニのようにトゲトゲの球体になり、牛牛王の体に飛び込んだ。

 牛牛王のツノがプリンツの体にぶつかるが、無敵の毛の覆われているプリンツにダメージはない。そして、無敵のトゲトゲに衝突した牛牛王は、銀の皮膚でトゲトゲを跳ね返して、プリンツの体を吹っ飛ばして乳液の泉に叩きつける。

 無敵の毛で覆われているプリンツに外傷は全くないが、スタミナは奪われてすぐに立ち上がることができない。牛牛王も、銀の皮膚でトゲトゲを防いだかに見えたが、皮膚には小さなヒビができている。

 牛牛王は、プリンツの無敵の毛の強度に恐怖を抱きつつも、ホルスタインの仇を討つために、再びプリンツに向かって突進する。プリンツもスタミナ切れの体に鞭を打って生まれたての小鹿のように立ち上がり、球体になって牛牛王に対抗する。これは牛牛王の銀の皮膚が先に崩れるか、それともスタミナ切れでプリンツが倒れるかのガチンコぶつかりバトルである。

 プリンツと牛牛王がガチンコぶつかりバトルをしている頃、私はモォーモォー山を鼻歌を歌いながらスキップで駆け登っていた。モォーモォー山には、上級冒険者でも苦戦するA・Bランク魔獣が闊歩する危険な山である。私がルンルン気分でスキップをしていると、獲物を見つけたように魔獣が近寄ってくる。最初に私に近寄ったのはAランクのホワイトスネークキングである。ホワイトスネークキングは、長さ30m太さ2mもある白い大きな蛇の魔獣である。危険度凶暴度では牛牛王よりも上であるが、ワガママで性格が悪いのでボスの器ではないので、2番手に甘んじている。最初にホワイトスネークキングが私に襲ってきたのは、他の魔獣たちがホワイトスネークキングに恐れて獲物を譲った形であった。


 「何・何・何・・・急に夜になったよぉ~」


 私は急に辺りが暗くなり少し動揺した。


 「さっきまで太陽が燦々と照り付けていたのに何が起こったのかしら?」


 私は急にホワイトスネークキングに飲み込まれてしまったのである。


 「あ!これが皆既日食なのね」


 私は少ない知識をフル回転させて答えを導き出した。皆既日食とは月が太陽と重なり太陽の光が消えて暗くなる現象のことであったはず。


 「異世界でも皆既日食があるんだなぁ~貴重な体験ができてよかったわ。しかし、足元がヌメヌメしているわ。沼か何かに入ったのかな?急いで出なくちゃね」


 ホワイトスネークキングの体の中には人間の皮膚など一瞬で溶かしてしまう胃酸が溢れている。私は今ホワイトスネークキングの胃酸だまりに居てるのであった。しかし、頑丈な体の私に胃酸など全く効果はない。私は沼にハマったと勘違いしているので、スピードを上げて沼から抜け出す。


 『バリバリバリ』


 障子が敗れるような音がした。


 「あれ?なんの音かしら。でも、皆既日食は終わったのね」


 私はホワイトスネークキングの体を突き破って外に出たのだが、その事には全く気づいていない。


 「今日は本当に楽しいわね。乳搾り体験もできたし、皆既日食も見ることができたわ。最後は山彦を体験するのよ」


 私はモォーモォー山の山頂を目指す。私がホワイトスネークキングの体を突き破って退治した姿を見た他の魔獣たちは、私を襲うのを辞めたのであった。


 「やっと山頂まで辿り着いたわよ。山頂から見える景色は本当に素晴らしいわ」

 モォーモォー山は標高1500mほどでそこまで大きな山ではないが、山頂から見える景色は、辺りが一望できてとても心が癒される絶景である。新鮮な心地よい空気を肌で感じ、少し強めの風で私の白のワンピースの裾がひらひらとなびいている。

 
 「えーと、大声でヤッホーと叫ぶと、声がこだまして私の元に帰ってくるのよね」

 「ヤッホーーー」


 私は大きく息を吸い込みお腹に力を入れて大声でヤッホーと叫んだ。


 「グギャーー」


 私の元に帰ってきたのは断末魔のような叫び声であった。


 「あれ?あれあれあれ???私ってこんなヘンテコな声をしていたかしら?」


 私の耳元に聞こえたのは悍ましい声であり決して可愛らしい声ではない。


 「もう一度やり直してみるわ」
 「ヤッホーーーー」

 「グェーーー」


 やはりこだまして帰ってきた声は、苦痛で悶える不気味な声である。しかも、一つじゃなく複数である。


 「違うもん!私はこんな変な声じゃないわ」


 私はこだまする声に納得がいかずに少しおかんむりであった。




 
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