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事件はいつも睡眠中

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 「こちらへどうぞ」

 
 私たちは村人に案内されて一軒のお食事処に来た。そこは50名ほど入れる大きなお食事処で、すでに30名ほどのお客がいて、お酒を飲んで楽しそうに騒いでいた。


 「お!この村に冒険者が来るなんて珍しいな。俺たちが奢ってやるぜ」

 「いえいえ、そんな気を使わないでください」


 カリーナが男からの申し出を断る。


 「気にするな!俺たちはみんなで楽しく飲むのがモットーなのだ」

 「そうだぜ!奢る代わりに何か面白い話でもしてくれないか。俺たちはこの小さな村で農作物を作り家畜を営んで生活をしているんだ。だから、他の町や村のことなんて全然知らないんだよ」

 「そうよ!私たちにいろんなことを教えてよ。みんなで楽しく飲みながらね」

 「そういうことでしたら、奢って頂こうかしら」

 「やったぜ!ただ酒が飲めるぞ」

 「ムスケル!私たちは任務中よ。お酒はご法度よ」

 「ムスケル、俺も酒は飲みたいが一緒に我慢しようぜ」

 「少しくらいならいいだろ?一口だけだぜ」

 「だめよ」

 「ここのお食事処は、村で取れた新鮮な野菜と精魂込めて育てた家畜を食材にして、とびきりうまいご馳走を提供しているのだ。娯楽の少ない俺たちは食べることと飲むことが唯一の生き甲斐だ。お酒が飲めないならとびきり新鮮な果実ジュースもあるぞ」

 「果実ジュースそれは甘くて美味しそうね」

 「『肉の壁』さんたちが、お酒を飲むのを我慢しているのに、私だけお酒を飲むなんてできないわ。私も果実ジュースをもらえるかしら」

 「私も果実ジュースを飲むわ」


 まだお酒を飲めない年齢の私は当然果実ジュースである。私たちは村人たちの親切にあやかり、美味しい食事と果実ジュースをご馳走になることになった。もちろんお礼として、『肉の壁』が今までこなしてきたクエストを、村人たちに自慢げに話していた。私もカリーナも『肉の壁』の冒険話を聞きながら楽しくお食事をしていた。



 「やっと、睡眠薬が効いてきたみたいだな」

 「なかなか眠らないからヒヤヒヤしたぜ」

 

 私たちはいつの間にかお食事処で眠ってしまった。しかし、それは村人が食事に睡眠薬を入れていたからである。『肉の壁』のメンバーは日々の肉体のトレーニングを怠ることがなく、強靭な肉体を保っているので、睡眠薬の効きが遅くてなかなか眠らなかった。私に至っては『肉の壁』のメンバーをはるかに凌ぐ強靭な肉体を持っているので、睡眠薬など全く効かないが、1番最初にスヤスヤと眠ったのは私であった。それは、ただ単にお腹が満腹状態になり、眠くなっただけである。


 「魔石の積荷は『風前の灯火』が全て確保している。あとはこいつらをどうするかだな」

 「ナイトバード様、どのように致しましょうか?」


 マグノリアの村は『紅緋の爪』のアジトであり、『紅緋の爪』のリーダーがナイトバードである。ナイトバードは銀色の目に銀色の長い髪のかなりのイケメンの男である。ナイトバードは、お食事処の奥の部屋で身を隠しながら、全ての状況を監視していた。そして、ナイトバードの横には『真紅の爪』の副リーダーであるヴォルデが居た。


 「ヴォルデ、奴隷の売買はお前たちの領分だな。こいつらは高く売れそうか?」

 「商業ギルマスの女はかなりの美人ですので高値で売れることは間違い無いでしょう。そして、Cランク冒険者の『肉の壁』も買い手はあると思います。そして、その可愛い少女は・・・私にお譲りください。私の愛人にしたいと思います」

 「相変わらず、幼い女が好きなんだな。しかし、お前に支払いができるのか?『真紅の爪』は壊滅状態なんだろ?」


 奴隷を勝手に自分のものにすることは禁止されている。なので、きちんと適正価格で買取をして、その代金をイーグルネイルの本部に差し出さないといけないのである。

 「はい。なので、先程の話をのんでもらいたいのです。奴隷商とのパイプは私が確保していますので、今後は『真紅の爪』が請け負っていた奴隷売買を『紅緋の爪』が受け継いでください」

 「それは俺が判断することはできないと言っただろ。『イーグルネイル』の四つの爪は、それぞれ役割分担があるのは忘れたのか?俺の一存で役割を増やすことができない」

 「ナイトバード様は上を目指したいと思いませんか?四つの爪で最強を誇るアードラーはいなくなりました。そのアードラーを倒した冒険者を倒せば、ナイトバード様の株も上がるはずです」

 「アードラーは倒した冒険者は死んだのではなかったのか?」

 「あれは偽装工作だと思います。あのアードラーがCランク冒険者に倒されることはありません。アードラーを倒したのは『青天のへ綺麗』もしくは『恒河者』だと思います」

 「あのアードラーを倒し、『真紅の爪』総勢300人を倒した冒険者を俺が倒せると思っているのか?お前は馬鹿なのか?」

 「お金があれば可能です。『真紅の爪』は壊滅しましたが、『真紅の爪』が保有している財産は、ある場所に隠してあります。この有り金を全て使って最強の魔道具を揃えれば問題ないと思います」

 「ほほう・・・それは面白そうな話だな」

 「詳しい作戦は後で説明します。まずはあの小娘を私にお譲りください」

 「ヴォルデ、お前の話に乗ってやろうではないか。まずはお前に褒美として、あの小娘をくれてやろう。ガイル、その小娘はヴォルデにくれてやれ。残りの4名は地下に監禁しておけ」

 「わかりました」

 「やったぜ!俺にも運が回ってきたみたいだな。今日はあの小娘を抱いて楽しませてもらうぞ」


 ヴォルデは涎を垂らしながら私の方へ歩いてくる。そして、ニヤニヤと笑いながら私の手を握ろとした時、私もワンピースのポケットからプリンツが飛び出してきた。


 「ハツキちゃんお姉ちゃんに触れたら殺すぞ!」


 プリンツは1㎜ほどの大きさになって私のワンピースのポケットでゆっくりと休んでいたが、私に危機が迫っていると感じて、ワンピースのポケットから飛び出てきて、30cmほどの子犬サイズでヴェルデの前に姿を現した。





 
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