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カリーナからのお願い

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  「こんなところで何をしているのですか?」


 執務室の扉が開きヘンドラーが私に声をかける。


 「実は旦那様、ハツキさんが・・・」

 「ちょっと待って!なんでもないのよ。なんでもないのよ」


 私はルフトクスの言葉を消し去るように大声で叫ぶ。


 「何をしていたのかわかりませんが、ハツキさんに紹介したい人がいますので執務室に入ってください」

 「あら?私に紹介したい人ってどなたかしら」


 私は何も知らないふりをした。


 「どうぞお掛けになってください」


 私は執務室の中央にある豪華な椅子に腰掛ける。私の向かい側にはヘンドラーとカリーナが座っている。


 「私の隣に座っている女性は、私の妹でこの町の商業ギルドマスターをしているカリーナです」

 「私はハツキです。最近、ちょっとした縁があってヘンドラー男爵様の元で使用人として働かせてもらっています」

 「兄から聞いていますわ。使用人ではなく大事なお客様だとね!詳しいことは兄は何も話してくれないけど、ハツキちゃんにはたいそうお世話になっているとか?でも、こんな可愛い女の子だなんて思ってもいなかったわ」

 「いえいえ、たいしたことはしていませんよ」

 「それよりもお兄様、こんな大事な席にこんな可愛い女の子を紹介するなんてどういうことなのかしら?」

 「詳しくは言えないが、ハツキさんにも同席をお願いしたいと思っているのです」

 「そうなの。お兄様がそういうのであればかまわないわ」

 「では、もう一度先程の話をしてくれないか?」

 「いいわよ。私は先日王都の商業ギルドマスターに呼ばれて、王都まで行ってきたのよ。今、王都ではオークキングの誕生に神経を尖らせているわ。オークキングは英雄ランクの魔獣であり、統率がなかったオーク達を統率して、近くの村などを襲い村人を食い殺しているのよ。いつオークの大軍が町を襲い多大なる被害をもたらすか危機感が募ってるの」

 「この町もオークの森からは100kmほど離れているが、安全の保証は全くない」

 「そうね。オーク達の尽きることのない食欲と性欲は、この国にとってかなりの脅威になると国王様は判断して、国王軍10万の兵をオークの森に送ることに決定したの。そこで、私たち各町の商業ギルドマスターに対して、青の魔石を1000個またはCランクの素材は1000個提出するように要請されたの。この数はどの町の商業ギルドでも実現不可能な数字だけど、それをあえて要求することは、それほどこの国が危機的状況だと訴えていると私たちは捉えたのよ」

 「青の魔石1000個もしくはCランクの素材1000個・・・普通ならばすぐに用意できる数ではないだろう」

 「はい、お兄様。しかし、無理ですとは言えない状況よ。商業ギルドに保管してある全ての青の魔石をかき集めても300ほどが限界なのよ。お兄様お願い、お兄様はこの町だけでなく他の町にも支店を持っておられるので、全ての支店の魔石を集めてもらって、お兄様にも300くらいは用意して欲しいのよ」

 「その件だが・・・1000個全てこちらで用意をしよう」

 「えっ」

 「1000個すべて私が用意をするので、商業ギルドの魔石に手をつける必要はない」

 「えっ」

 「いつまでに用意すればいいのだ」

 「えっ」

 「カリーナ、何度も言わせないでくれ。魔石は私が全て用意するのでいつまでに用意すればいいのだ」

 「お兄様・・・1000個の魔石ですわ。しかも、青色の魔石・・・」

 「問題ない」


 ヘンドラーはちらっと私の方を見る。私は首を横に振った。これは魔石を手に入れた経緯を説明してもいいのかというアイコンタクであった。もちろん、私の答えはNOである。


 「それに・・・オークキングの脅威はそれほど心配しなくても良いと思う」

 「何を言っているのですかお兄様!これは国の存亡をかけた戦いになるのよ。今オークの数は2000ほどですが、もしこのままオークキングに統率されたまま交配続けると、いずれは万を超えるオークが誕生するのよ。オークは単体でもCランクの魔獣よ。万を超えるCランク魔獣が組織的に動き出せばこの国は滅んでしまうわ」

 「確かに、計算上ではそのようになる恐れがあると思うのだが、もし、かりに、偶然にも隕石が落ちて、オークたちが殲滅したってことにもなるかもしれない」


 ヘンドラーは、また同じように私の方を見るが私は首を横に振る。


 「お兄様・・・頭がおかしくなったのですか?そんな夢物語なんて起きる可能性はゼロですわ。絶対にそんなことはおきません。本当は魔石1000個なんて用意できないのでは?だからそんな馬鹿げたことおっしゃるのですね」

 「わかった。魔石1000個は必ず私が用意する。いつまでに用意すればよいのだ」

 「3日以内に用意してほしいの。早ければ早いほど魔道具の製作に時間を費やすことができるの」

 「わかった。今すぐに用意しよう」

 「えっ」

 「急を要するのだろう。なら3日と言わずに今すぐに用意する」

 「えっ」

 「ついてきなさい」


 カリーナはヘンドラーに連れられて屋敷内にある倉庫に案内された。その倉庫には私がヘンドラーに渡した2000個の魔石が山積みにされていた。それを見たカリーナは口をあんぐりと開けて言葉が何も出なかった。
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