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ドヤ顔
しおりを挟む「ダメです!」
リリーちゃんの声がワンオクターブ上がった。
「それなら、パイナップルなら」
私は場の空気を読み取らずに再度別のフルーツを進める。
「マカロンさん、おふざけはよしてください。誕生祭に提出するフルーツは品種改良を重ねてその町に代々伝わる秘伝のフルーツなのです。なので、その辺に出回っているフルーツとは味も格も違うのです」
「そうだったのね・・・」
「そうです。エアートベーレンの領主であるビートル・マンティス伯爵は、大事なイチゴを奪われて、窮地に追い込まれたのです」
「それが、盗賊と何か関係があるのですか?」
「大ありです。誕生祭に一般的なフルーツを提出する事は国王陛下への侮辱とみなされ、爵位を剥奪されるでしょう。しかし、何も提出しなければそれも国王陛下への忠誠を裏切ることになり、爵位を剥奪されることになります」
「イチゴを奪った犯人を捕まえるしかないのね」
「違います!」
「すみません」
リリーちゃんのあまりの迫力につい謝ってしまった。
「ビートル伯爵が作ったイチゴは、誕生祭までオリハルコンの貯蔵庫で、一か月間熟成させ最高品質の状態で国王陛下に提出する予定だったはずです。もし、犯人を捕まえて、イチゴが戻って着たとしても、品質は低下しているので、提出できる状態ではないでしょう」
「それならどうすればいいの?」
「方法は一つです」
「ひ・と・つ」
「はい。他の領主のフルーツを奪うのです」
「盗賊は、あなたのお父様が育てているバナナを奪う為に誘拐しようとしたってこと?」
「はい。私のお父様も貯蔵庫でバナナを熟成させているところです。オリハルコンで出来た貯蔵庫を破壊して奪う事は不可能です。だから、私を誘拐してバナナを差し出すように要求するつもりだったのでしょう。でも、ビスケット様によって、その悪だくみを防ぐことができました」
「盗賊に襲われた事情は理解できたわ。あなたが無事で本当によかった」
「いえ、こちらも助けて頂いてありがとうございます。そういえば、まだ、自己紹介が出来ていませんでした。私はバナーネの町の領主の娘であるリリー・ダンディライオンと言います」
「私はマカロンよ」
「響きが綺麗で素敵な名前です。マカロンさん、助けて頂いたお礼がしたいと思います。もし、私に出来る事があれば何でも言ってください」
なんでも!という言葉が心に突き刺さる。私は突然見知らぬ世界に来て、右も左もわからない状況である。心強い?仲間が出来たが不安しかない。ビスケットちゃんに町に着いたらビスケットを作ってあげると約束したが、町に着いてもお金がなければビスケットを作ることはできない。そもそも、これからこの世界で生活をするにはお金は絶対に必要である。領主の娘であるリリーちゃんなら絶対にお金持ちであることは間違いない。ここは恥を忍んでお金の無心をすべきだと私は思った。
「実は、私たちは遠くの町から旅をしているのですが、路銀の方が底をついてしまい、町に着いても宿屋に泊まることができません。これからどうすればいいのか困っていたところです」
私は直接的に言うのでなく、間接的に言ってお金が欲しいアピールをすることにした。
「わかりました。それならば私の屋敷に泊まるとよいでしょう。もちろん、食事なども全てこちらで用意させていただきます」
本当はお金が欲しかったが、せっかくのご好意を断ることは出来ないので、快く受け入れることにする。
「ありがとうございます。あと、ビスケットちゃんに町に着いたらビスケットを作る約束をしています。よろしければ材料を用意して下さると助かります」
お金をもらえなかったのでビスケットの材料を要求することにした。
「ビスケット様にビスケットを作る約束を???申し訳ございませんが、何を言っているのか意味がわかりません」
リリーは困惑した目をして、訳が分からない様子である。
「ビスケットというお菓子をビスケットちゃんに作ってあげたいという意味です」
「ビスケットというお菓子???お菓子とはどのような物なのでしょうか?」
「お菓子とは様々な種類があるので説明は難しいですが、ビスケットとは小麦粉を主材料に焼いたお菓子です。サクサクとした触感で甘くて香ばしい食べ物です」
「そのような不思議な食べ物は初めて知りました。そのお菓子を考案したのがビスケット様なので、ビスケットと呼ばれるようになったということでしょうか?」
「違います。ビスケットちゃんがビスケットが大好きだから、自分の名前をビスケットと変更したのです。好きな食べ物の名前を自分の名前にするのが常識です」
私はビスケットちゃんに教えてもらった知識を、あたかも昔から知っているかのようにドヤ顔で説明して、気持ちが高騰していた。
「・・・」
リリーちゃんは呆れた顔で私を見ている。
「え!ちがうの?」
「非常識です!」
「えーーーーーーー」
私の顔はトマトのように真っ赤になり、穴があったら入りたいという気持ちが痛いほど理解したのであった。
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