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スカンディナビア帝国編 パート12
しおりを挟むテーブルの上には山のように食事が並んでいる。周りのお客達も異様な光景にザワついている。そんなザワつきも何も気にせず、トールさんとポロンさんは次々と食事を食べている。
「ここのパンの焼き加減は最高ですわ。パンに絶妙な焦げをつけながらもパンの中身はふっくらと焼き上がっていますわ。料理長を呼んで褒めてあげたいわ」
「この魔獣の肉は新鮮で肉の旨みがたっぷりと染み込んでいるぜ。しかも、肉につけるタレは甘くて、肉の良さを存分に引き出しているぜ。料理長にチップを出さないとな!」
2人は饒舌に食事を褒めているが、ロキさんの顔はどんよりと梅雨空のように曇っている。
「どうしたらいいの?こんなたくさんの食事の代金なんて絶対に払えないわ。トールもポロンも私の話なんて聞く耳を持ってくれないし、この絶体絶命の状況をどうやったら抜け出すことができるのかしら・・・」
ロキさんは必死に考えたが答えが出てこない。
「素直に謝るしかないわ」
ロキさんは食堂の席を立って食堂の店主のもとへ静かに歩いていく。そして、店主にお金がないことを素直に伝えたのである。
「お金がないと言われてもこちらも困ります」
店主は眉をひそめて困った様子である。
「こちらも、お金がないのでどうしようもありません。でも、今から冒険者登録をしてすぐにお金を稼ぎますので、ツケでお願いができないでしょうか?」
「・・・」
「お願いします。必ずお金は払います」
ロキさんは頭を下げてお願いする。
「わかりました。あなたの誠意に免じて3日間待ちましょう」
「ありがとうございます。すぐに冒険者登録をしてお金を用意します」
「わかりした。しかし、あなたを全面的に信頼したわけではありません。あの無銭飲食をしているお2人は衛兵に突き出します。それでよろしいでしょうか?」
「構いません。私1人でなんとかお金を用意します」
「おーーい!追加の肉を持ってこい」
「こっちはサラダの追加よ。それにブドウジュースもね」
「あなた方にお出しする食事はありません!」
「どういうことだ!」
「そうよ。そうよ。どういうことなのよ」
トールさんとポロンさんは店員に詰め寄る。
「私が説明します」
ロキさんはトールさん達の目の前に立ちはだかる。
「トール!私は持っているお金では、あなた達が注文した料理のお支払いはできないのよ。もっと計画を持って行動してくれないと困るわ。そして、ポロンもお金は持っているの?あなたの食事の支払いまで面倒をみることはできないわよ」
ロキさんは2人を鬼のような形相で睨みつける。
「ごめんロキ!俺はまだ王族の気分が抜け出ていなかったぜ。今まで俺はお金のことなんか気にせずに好きなだけ食べていた。俺は・・・もう王族の地位を捨てて冒険者になると決めていたのに・・・なんて俺は自分に甘い人間なんだ」
トールさんは拳を握りしめて自分の行いを恥じるのである。
「ごめんなさい。この国の王女様の奢りと思ってハメを外してしまいましたわ。私も自分の大事な目的を忘れて、自堕落な生活をして怠け者になってしまっていたわ。私は冒険者になるためにスカンディナビア帝国へきたのよ。ここの代金は冒険者として稼いだお金で支払いたいと思うわ。なので、それまで待ってもらえないか店の店主にお願いするわ」
ポロンさんも本来の自分の目的を思い出して、真剣な眼差しでロキさんに謝罪した。
「お金の件は私がなんとするのであなた達は留置場でおとなしく待っているのよ」
「えっ・・・また留置場に入るのか?」
「私もですか?」
「そうよ。私たちが逃げないようにあなた達は人質として留置場に入るのよ」
「そんな・・・」
「嫌よ。やっと自由になれたのにぃーー」
トールさん達は抵抗するが、店主が呼び寄せた衛兵が10人がかりで2人は引きずれるよに留置場に連れて行った。
「トール王女様・・・また戻ってこられたのですか?」
さっきトールさんを殴った衛兵がトールさんの姿を見てビックリしている。
「またお世話になるぜ」
「私もよろしくね!」
ポロンさんはニコって笑って衛兵に愛想を振る舞う。
「このお二人様は丁重に扱え!牢屋に入れるような失礼なことはするな。お二人を留置所の当直室に案内しろ」
衛兵はテキパキと他の衛兵に指示を与える。
「トール王女様をお泊めできるような快適な部屋はありません。留置場で1番マシな部屋は私たちが使う当直室になります。狭くて汚い部屋ですが牢屋よりかは快適だと思いますのでお使いください」
衛兵は、トールさんに向かってペコペコと頭を下げる。衛兵は、トールさんを殴りつけたことで不敬罪で捕らえられることに恐れて、トールさんに思いっきり媚を売ろうとしているのである。
「それは助かるぜ。お前はいいヤツだな」
トールさんは嬉しそうに笑いながら言った。
「トール王女様、代わりと言っては失礼ですが、不敬罪で訴えることだけはやめてください」
「そんなことを心配していたのか?俺はそんなことはしないぜ」
「本当ですか!ありがとうございます」
衛兵は肩の荷が降りたかのようにホッとしている。
「喉が渇きましたわ。何か飲み物をもらえませんか?」
「すぐに用意したします」
ロキさんは2人に反省の意味を込めて、留置場に入ってもらったが、衛兵の気遣いにより2人は全く反省をすることなく、快適な留置場生活過ごすのであった。
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