上 下
421 / 453

スカンディナビア帝国編 パート8

しおりを挟む
 
 「父上、トールお嬢様と一緒にこの国を出て冒険者になることにしました」


 ロキさんは、トールさんとこの国を出る前に、父であるヴァリに挨拶をするのである。ヴァナヘイム家は、スカンディナビア城の地下の一階にある、薄暗い大きな広間を与えられていた。そこには、きちんとお風呂やトイレもあり、部屋数も4部屋ほどあり、環境は良くはないが、生活するには十分な広さは与えられていた。

 父であるヴァリは、アーサソール家に代々仕えている執事の出身なので、城内のことはなんでも把握しているので、執事から使用人と身分は低くなったが、アーサソール家に使えるメイド達やヴァリの代わりに新たな執事となった弟のヘルブリンディはヴァリに頭が上がらない。


 「そうか。好きにすると良い。しかし、お前の本来の役割を忘れるなよ。近いうちにこの国は俺のモノになるはずだ。その時はトールを拘束して戻ってこい。この国の支配者は誰であるか国民達に知らせるためにも、アーサソール家にはそれなり報いを受けてもらわないいけない」

 「私は与えれた使命を全うするだけです。だからトールお嬢様と冒険者になることに決めました」

 「それでいいのだ!母であるラウフェイは、アーサソール家に殺された様なものだ。母の恨みを絶対に忘れるなよ」


 ロキさんの母親であるラウフェイはロキさんが10歳の時に病で亡くなったのである。原因は過労で倒れてしまい、処置もしてもらえずに死んでしまったらしい。


 「私は責務を全うするだけです」


 ロキさんは表情を変えることなく淡々と答えるのであった。

 ロキさんは父親に別れの挨拶をして、トールさんと一緒にお城を出て行った。


 「ロキ、お前はもう自由の身だ。今日からは俺のことをトールと呼べ。俺は王族の地位を捨てて冒険者になるのだから、もう、お嬢様と呼ぶなよ」

 「わかったわ。トール」


 ロキさんが優しく微笑みながら言った。


 「ロキ!!」


 トールさんは、初めてロキさんが自分のことをトールと呼んでくれて嬉しかった。トールさんは嬉しくて感情を抑えることが出来ずに涙を流しながらロキさんに飛びついた。


 「トール!何を泣いているのよ。お城が恋しくなったのかしら?」


 ロキさんはトールさんをからかうように笑顔で言った。


 「うるせぇ!俺は今すごく嬉しいんだぜ」


 トールさんは少し赤くなって照れていたが、やっとロキさんが友達のように接してくれるのが嬉しくてたまらないのである。


 「トール、これからどうするのですか?冒険者として生活していくプランを聞かせて欲しいわ」

 「それは・・・そうだな・・・これから考えるぜ!とりあえず飯を食いに行こうぜ。腹が減ってはいいアイディアが浮かばないぜ」

 「トール!あなた昔から冒険者になると言っていたよね。もしかして、何も考えずに城を飛び出したの?」



 ロキさんは呆れた表情でトールさんに詰め寄る。


 「俺は、引かれたレールを走るのは嫌いだ。だから、何をするのも計画を立てるつもりはない。俺の心が導くままに俺は進むだけだ」


 トールさんは胸を張って言い放った。


 「はぁー。あなたは子供の頃から何も変わっていないのね。今から食事にするのもいいけど、お金は持っているの?これからは、王女の時のように親のお金で生活することはできないのよ」

 「大丈夫だ。俺はこの時のために金魚の貯金箱にずっと小銭を貯めたいたのだぜ。ついに金魚の貯金箱の封印を解く時が来たみたいだな」


 トールさんは懐から大きな貯金箱を取り出した。そして、貯金箱をロキさんに見せつけてから、勢いよく地面に叩きつけたのであった。


 『ガシャーーン』


 地面にぶつけられた貯金箱はバラバラに破壊された。


 「あれ・・・?」

 
 トールさんは首を傾げる。


 「トール!何も入っていませんよ」


 貯金箱の破片だけが地面に散らばっている。


 「よく見てみろ!一枚だけお金があったぜ」


 貯金箱の破片の下に一枚だけコインがあった。そのコインの価値は日本円にすると100円程度である。


 「コイン一枚で何を食べる気なの?」

 「それは・・・」

 「トール!ちゃんと貯金箱にお金を入れていたのですか?」

 「最初に一度だけコインを入れた記憶はあるぜ。しかし、それ以降の記憶は思い出すことはできないぜ」

 「トール・・・どうするの?今更お金を取りに城には戻れないわ」


 大見得切って城を飛び出してきたトールさんは、城に引き返すなんてできない。


 「よし。冒険者登録をしよぜ。そして、クエストを達成してお金を手に入れようぜ」

 「はぁーー。いきなり金欠からのスタートなのね・・・でもトールらしくていいかもしれないわ。すぐに冒険者ギルドに行くわよ」


 ロキさん達は、王都パステックでは冒険者登録をしたくないので、馬を走らせて隣町のスヒーズの町へ向かったのである。


 「ロキ・・・腹が減ったぜ」


 王都で食事ができなかったトールさんは、お腹が減って力が出ないのである。


 「もう少しでスヒーズの町に着くわよ。早く冒険者登録してお金を稼ぐのよ」

 「もうだめだぜ。全く力が出ないぜ・・・」


 トールさんは馬の背中に倒れ込んでしまって、そのまま町の方へ馬は走っていくのである。


 「トール!危ないわよ」


 ロキさんは馬にスピードを上げるように指示を出して、トールさんの馬を追いかけるのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...