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武道大会パート12

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 ライアーは、もう隠れる場所はない。広場の障害物の岩は、全て、ヘラの氷結の矢によって、砕かれてしまった。逃げ場のなくなったライアーの表情は、少し笑みを浮かべていた。


 「ライアー、試合の途中で笑うなんて、気がおかしくなったの」

 「全力で戦うのは、気持ちいいものだなと思ったんです。お姉様の攻撃から逃げることしか、出来ていませんが、俺は、全力で攻撃をかわして、とても気持ちいいのです」

 「おかしなことを言うのね。でも、これで終わりにしますわ」


 ヘラは、弓を構える。もう障害物がないので、弓の高速連射で、ライアーを、仕留めることを確信した。ヘラは、氷結の矢を撃ち放つ。

 ライアーは、的を絞らせないように、ジグザクに動く。しかし、ヘラの高速の矢は、確実にライアーの体をかすめていく。

 ライアーは、自慢のスピードで、前後左右に、素早く避けるが、完全に交わすことができず、ライアーの右肩、左腕、右腿に氷結の矢が刺さる。

 ポロンさんとの特訓の成果もあり、氷かけた、右肩、左腕、右腿も、肉体強化の魔法により、軽い凍傷ですむ。



 「ライアーに、とどめを刺せ」

 「あいつは、もう、終わりだな」

 「逃げずに戦ってみせろ」


 観客席からは、相変わらずヤジが飛ぶ。



 「ライアー、まだ戦うのですか」

 「これくらいの、凍傷など、平気です。まだ試合は終わっていません」

 「仕方ありませんね」



 ヘラは、弓を構え、氷河の矢を放つ。氷結の矢よりも、強力な矢である。

 氷河の矢は、ライアーを無慈悲に襲う。

 ライアーは、必死に避けた。自分の限界を出し尽くすように、右往左往に、がむしゃらに避けた。側から見たら、とても情けない姿である。攻撃もせずに、ただ逃げ惑うだけである。氷河の矢は、ライアーの体に直接は当たらないが、体を何度もかすめている。そのため、ライアーの鎧は、凍りつき、また矢の衝撃で、鎧は壊れ、ボロボロになる。

 それでも、ライアーは必死に、氷河の矢を避け続けた。ライアーの体は、凍傷で赤く腫れがり、かなりの痛みがあるのだろう。しかし、ライアーは、降参はせずに、必死に避け続けた。


 ライアーのみっともない姿に、笑っていた観客も、いつしか、ライアーを罵る声が、少なくなってきた。誰が見ても、ライアーとヘラの実力の差は歴然としている。ヘラが一方的に攻撃をして、その攻撃をライアーが逃げているだけである。

 とても試合をしている内容ではない。しかし、凍傷で腫れ上がった体で、降参もせずに、必死に逃げ惑うライアーの姿に、いつしか観客も、見入ってしまったのであった。


 「お姉様、俺はまだ、戦える。本気でかかってきてください」

 「ライアー・・・どうして、そこまでして、戦うの。もう勝負は決まっているわ」

 「俺は、勝負から逃げないと決めたんだ。勝つとか負けるとか関係ない。自分の全力を出し切りたいんだ。お姉様に勝てる力は、今の俺にはない。ならば、必死に避けて、避けて、避けまくる。自分の限界が来るまで避け続けるんだ」

 「・・・わかったわ、ライアー。本気で挑んでいるあなたに、手加減をするのは失礼ね。私も本気でいくわ」


 ヘラは、手を抜いていたわけではない。ただ、あまりの実力差があるために、ライアーに降参してもらうおうと、接近戦はせずに、弓での攻撃に専念していたのである。

 ヘラが得意なのは、氷魔法を応用した接近戦なのである。

 ヘラは、全身を氷でまとう。そして、両手には、2本の氷柱のような剣を持ち、ライアーに接近する。

 ライアーも、剣を抜き、接近戦に備える。

 ヘラの二刀流の氷柱の剣が、ライアーを襲う。

 ヘラの剣さばきに、ライアーは、ついて行けず、ライアーの体を氷柱の剣が、切り裂いていく。ライアーは、妖精の力を、攻撃にではなく、全て、防御に回して、体の回復を優先する。

 しかし、ヘラの猛攻に、体の回復が追いつかない。


 「まだだ、まだやれるぞ」


 ライアーは、スピードだけは、自信を持っていたが、接近戦では、そのスピードも、ヘラの攻撃の前では通用しない。

 攻撃を避けるために、素早く逃げるが、すぐに追い付かれて、ヘラの攻撃が当たる。

 それでもライアーは、諦めずに、距離をとり、ヘラの猛攻を凌ごうとする。


 もう客席からは、ライアーを笑う者はいない。直向きに頑張るライアーの姿は、もうみっともない姿には、見えないのである。


 「ライアーお兄様、頑張ってください」


 最初にライアーに声援をあげたのは、オーブリーであった。ついさっきまでは、オーブリーは、ライアーのことを軽蔑していた。いつも口だけで、少しも努力をしない兄をオーブリーは嫌っていた。しかし、いくら傷ついても、逃げることなく、戦い続ける兄を見て、応援せずには、いられなった。


 「ライアーがんばれ」

 「ライアー逃げまくれ」

 「ライアーまだいけるぞ」


 ライアーの直向きに、頑張る姿を見て、心が打たれたのは、オーブリーだけではなかった。さっきまで、ライアーを軽蔑し、嘲笑っていた観客たちが、ライアーを応援し出したのであった。



 「あなた、ライアーが・・・」

 「わかっておる。でも俺たちは、応援することはできない」


 アールヴは、拳を血が出るくらいグッと強く握りしめていた。


 「まだだ、まだいけるぞ」


 ライアーの体力は限界にきていた・・・いや、もう限界を通り過ぎていた。ヘラの氷河の矢で、全身は、凍傷して、そして、氷柱の剣で、体は、切り刻まれていた。なので、立っているのが不思議なくらいだった。

 しかし、ヘラは、攻撃の手を緩めない。いや、緩めることは、できないのであった。ここで、手を抜いてしまったら、ライアーの気持ちを、裏切ることになるからである。


 「ライアーお願い。早く倒れてちょうだい」


 ヘラは、込み上げる感情を抑えて、ライアーに攻撃を続ける。


 「ライアーーー」

 「ライアーーーー」

 「ライアーーーーー」


 客席からは、ライアーへの歓声が飛ぶ。しかし、がんばれとは言えない。観客たちも、もうライアーが、動ける状態ではないとわかっているのだから。


 「ウォーーーーーー」


 ライアーは、初めて自分から攻撃を仕掛けた。持てる全ての力を注いで、ヘラに向かって、剣を振り下ろした・・・・・・・


 そして、そのまま、ヘラの胸に倒れていった。

 ヘラは、倒れ込むライアーを抱きしめる。

 
 「ポロン・・・ありがとう。お前のおかげで、俺は、全てを出し尽くせたぞ・・・」


 ライアーは、そう言うと気を失ってしまった。

 
 「よくやったわ。ライアー。ポロンもあなたの勇姿を、ちゃんと見ているわ」



 ところが、ポロンさんは、ライアーとヘラが熱戦を繰り広げていた時、徹夜での特訓で、疲れていたので、イビキをかいて、お部屋で寝ていたのであった。


 
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