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パーシモンの町パート3

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 「・・・もしかして、ルシスちゃんのことなのか」

 「そうです」

 「ルシスちゃんなら、納得できる。すまないが、ケレス団長を、元に戻してもらえないだろうか」

 「バルカンの居場所を、教えてもらえるなら、治してあげます」

 「わかりました。アポロ公爵様にお願いしてみます。しかし、ケレス団長が、ルシスちゃんを見たら、どのような反応をするか心配だよ」

 「なんとかなるでしょう」


 とにっこり笑って答えた。たぶんケレスは、恐怖で、その時の記憶を失っていると、思うからである。最悪記憶があったとしても、私を襲うことなんてしないと思う。それほど圧倒的に倒したのだから。


 私は、ワイアットに連れられて、アポロ公爵の屋敷に、行くことになった。ケレスは、その屋敷で、治療を受けているとのことであった。屋敷に着くと、私は、応接室で待っているように言われた。

 しばらくすると、ワイアットは、アポロ公爵を連れてやってきた。アポロ公爵は、ケレスとは全然似ている感じではなかった。ケレスは、大柄で、筋肉質の厳つい顔をした男性であったが、アポロ公爵は、すらっとした細身の男性で、いかにも貴族という感じの男性であった。


 「こんな小さな女の子が、ケレスを治せるのか」


 アポロ公爵は私を見て、落胆した感じがした。


 「大魔術師の情報通りでございます。この子の実力は、私が確認しましたので、大丈夫です」

 「確かに、噂では、10歳くらいの女の子との情報だ。しかし、その情報は偽情報で、真実を隠していると、私は推測しているのだが、本当にその子の実力を、確認したのだな」

 「はい。問題ありません」

 「そうか。それならお前を信じよう」

 「ありがとうございます。しかし、ケレス団長を治療するには、バルカンの居場所を知りたいと申しています。教えてもよろしいでしょうか」

 「・・・仕方がない。ケレスを無事に、治せたら教えるが良い。しかし、治すことができなければ、その小娘を捕らろ。バルカンのことを、どこで知ったのか、確認する必要がある」

 「わかりました。それではケレス団長のもとへ、行きましょう」

 
 私は、この屋敷の地下にある治療室に、連れて行かれた。地下の治療室では、絶えず2人の治癒師が、ケレスの苦痛を和らげるために、回復魔法をかけ続けている。

 
 「早くケレスを治してくれ、こんなひどい状況を見ていられない・・・」

 
 私は、ケレスに近寄り、回復魔法をかけてあげた。ケレスの体は光り輝き、全身の火傷は消えて、元の状態に戻ったのであった。



 「ここはどこなのだ・・・俺は、戦場にいたはずでは」


 ケレスの回復した姿を見て、アポロ公爵はケレスに駆け寄っていった。


 「ケレス・・・無事に治ってよかった。お前は、魔獣に襲われて、1ヶ月間も生死を彷徨っていたのだ。しかし、ここにいる魔術師の女の子のおかげで、助かったのだ」

 「そうなのですか兄上。私の身に、そんなことが、起こっていたのですか・・・・」


 ケレスは、恐怖と全身の苦痛のため、戦闘のでの記憶を、ほとんど無くしていたのであった。自分を襲った魔獣のことでさえ、今は記憶の奥底に、眠っているのであった。それは、私にとって好都合であった。


 「ありがとうございます。魔術師様・・・・」


 ケレスが私の顔を見て、少し戸惑っているみたいである。


 「あなたとは、以前どこかで、お会いしたような気がします」

 「たぶん、人違いでしょう」

 「・・・そうか、気のせいかな。記憶が曖昧なので、勘違いだったのであろう」


 やばいとこであった。バレたら面倒なので、早く立ち去った方が良さそうだ。


 「ワイアットさん、ケレスさんも無事に、元に戻ったので、約束を守ってください」

 「わかりました。それでは、バルカンに会わせてあげましょう。ついて来て下さい」


 私は、ワイアットに連れられて、さっきまでいた太陽騎士団の本部に、連れて行かれた。


 「ここにバルカンが、いるのですか」

 「そうだよ。実は私が、バルカンなのだよ」

 「えぇぇーーーーーーー」

 「私の名は、ワイアット・バルカンだよ。半年前にアポロ公爵様に、ケレス団長に神剣を作るように命じられ、この町に戻ってきたのだよ。しかし、私が作る神剣は、あまりにも強大な力があるために、アポロ公爵様には、材料が揃わないと言って、断っているのだよ」

 「そうなのですか・・・私の竜光石の加工は、してもらえないのですか」

 「私は、ルシスちゃんのことは、信じているのだよ。私の作る武具を、悪用しないと。だから作ってあげるよ」

 「ありがとうございます」

 「しかし、問題があるのだよ。以前ドワーフの国で、竜光石を加工して、宝飾品を作ったのだが・・・失敗したのだよ。ドワーフの王は、満足してくれたけど、私としては、失敗作だったんだよ」

 「何がダメだったのですか」

 「竜光石を加工するには、強大な火力と冷気が必要なのだよ。今の僕のスキルと道具では、竜光石を加工するのは、難しいのだよ・・・しかしマグマ石と氷河石があれば作れると思うよ」

 「その素材は、どこにあるのですか」

 「マグマ石はカチンカチン山に、氷河石はコチンコチン山にあるのだよ。しかし、カチンカチン山にはタヌキングが、コチンコチン山には、ウサクイーンという魔獣がいるのだよ。しかも、タヌキングの配下のモエタヌキ、ウサクイーンの配下のキュンウサギの大群が、山に住みついていて、冒険者を山に、登らせないように邪魔をするのだよ」

 「大丈夫。私に任せておいて」

 「ルシスちゃんでも、難しいかもしれないが、二つの素材をゲットできたら、加工してあげるよ」



 私は、急いで太陽騎士団の本部を出て、トールさん達がいる飲み屋街に、向かった。早くこの情報を、みんなに伝えないといけないのであった。
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