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第59話 褒めて伸ばす

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 「良い質問だ。闇の魔力の残滓の影響は、魔獣に限ったことではなく人間にも影響を及ぼすのだ。だが心配は無用だリーリエ。修練の森では問題はない。もし修練の森の奥にある試練の森に立ち入るのなら気を付けた方が良い。試練の森では闇の魔力の残滓の影響で徐々に体力を奪われて気付けば死に至ることもあるらしい」


 思った通りゲームと似た世界観であることを確認することができた。


 「怖いですわ」


 メーヴェはここぞとばかりに甘い声を出して兄の腕にしがみついた。


 「メーヴェ、案ずるな。俺がみんなを守ってやる」


 修練の森とは名の如く修練をするための森であり危険性は少ない。ゲームでも修練の森で死に直面するほどの強い魔獣は存在しない。それにゲームの設定では私もしくはローゼそして、ハーレムパーティーたちは、フォルモーント王立学院内でも突出した実力の持ち主である。一般レベルのハンターや騎士、魔法士に比べたら遥かに能力が優れているので、修練の森程度でビビる要素など全くない。そのことを鑑みるとメーヴェは明らかにぶりっ子を演じていると断言できる。


 「メッサー様素敵です」


 メーヴェは頬を赤くして嬉しそうにはにかむ。


 「リーリエさんは私が守ってあげます」


 突然ローゼがメーヴェに張り合うように私の手を握りしめた。


 「どうしたのローゼ」


 私は急に手を握られたことでドキッとした。


 「リーリエさんはいつも無茶をするので私が側で守ってあげるのです」
 「それなら私もリーリエさんの保護を手伝いましょう」


 イーリスは私の側に来たので、これで2対3の組み合わせが成立した。当初は5人パーティーでの想定だったのだが、メーヴェの行動によりご破算となる。


 「おいおい、みんなで一緒に行動をしたほうが良いはずだ」


 兄の意見はもっともであるがメーヴェに気を使っているのであろうローゼとイーリスは首を縦に振ることはなかった。私は元仲間であるメーヴェの恋路の邪魔をするつもりはないのでローゼたちに同意する。兄は渋々2対3の組み合わせを了承して、修練の森の周辺で修練をすることにした。
 

 「キャー、メッサー様。魔獣が、魔獣がいます」


 メーヴェはあざとい声をあげて兄に抱き着いた。


 「落ち着けメーヴェ、君は優秀な騎士だ。得意のエアステップで空を駆けて魔獣の背後を取れば簡単に退治することができるだろう」
 「でもメッサー様、魔獣はとても恐ろしくて怖いのですぅ~」

 
 メーヴェは体を震わせてさらに激しく兄を抱きしめる。メーヴェはかなり怯えているふりをしているが、対峙している魔獣は修練の森で一番弱い魔獣のモンプティラパンである。モンプティラパンとはウサギが魔獣化したもので、体長は50㎝程で白毛の可愛らしい丸いフォルムをしている。攻撃力は弱いがピョンピョンと音を立てながら縦横無尽に移動するので、ゲームでは攻撃が当たりにくい設定となっていた。


 「君が毎日遅くまで部活動をがんばっているのは俺が一番知っている。自分の力を信じろ」


 メーヴェが遅くまで部活動を頑張っているのは、兄が一番最後まで特訓をしているからであることに兄は気付いてはいない。


 「私……がんばってみます」


 メーヴェは十分に兄を抱きしめることができたので、次は兄から褒められることに意識を変える。メーヴェは真剣な目つきに変わり、帯刀している剣を抜いてモンプティラパンに向かって駆け出してすぐにジャンプした。そのままメーヴェは空中を3回ステップで駆けてモンプティラパンの背後に立ち、剣を一振りしてモンプティラパンを真っ2つに切り裂いた。


 「メッサー様、やりました」


 メーヴェはモンプティラパンのようにピョンピョンと跳ねて喜びを表現した。


 「よくやったメーヴェ」


 兄が喜んでいるメーヴェを褒めるとメーヴェはさきほどと同じようにエアステップで空中を駆けて兄の元へ戻って来る。


 「メッサー様のアドバイス通りにしたまでです」


 メーヴェは俯きながらモジモジと体を動かして頭を指しだす。おそらくメーヴェは頭をナデナデして欲しいのだろう。


 「完璧なエアステップ攻撃だったぞ」


 兄は自然とメーヴェの頭をナデナデする。その姿を見た私は女性には奥手だと思っていた兄の印象が崩れ落ちていく。


 「リーリエさん、第1剣術探求部では頑張った女子部員には部長が頭をナデナデして褒めるという決まりが出来たそうです」


 私の表情を察知したイーリスが第1剣術探求部の裏事情を教えてくれた。


 「どうしてそんな決まりができたのですか?」


 私は食い入るようにイーリスに尋ねる。


 「剣術を磨き上げるには褒めることも大切だとメーヴェさんがメッサーさんに助言をしたそうです。メッサーさんは騎士を目指す女生徒からはカルト的な人気を博していますので、ナデナデして褒めるのは効果があったので定着したそうです」
 「お兄様……」


 私は呆れて開いた口が塞がらなかった。

 


 
 
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