乙女ゲームの主人公に転生した私は、魔王退治はもう1人の主人公にお願いして、スローライフを目論んでいたら堕落令嬢と呼ばれていました。

ninjin

文字の大きさ
上 下
55 / 75

第55話 次なる刺客

しおりを挟む

 「なんてことなの……」


 イーリスは骨となったヘスリッヒを見て憐れみを抱く。


 「これが終焉の魔女を裏切った者への制裁処置だと思います。私たちの助言を素直に受け入れておけば命だけは助かったのかもしれないのに……」


 ゲームと違いリアルの死に直面した私は体が震えていた。


 「リーリエさん、イーリスさん、これはヘスリッヒさんが選んだ人生の結末です。闇魔法を手にすると言うことは、真っ当な人生を歩む権利を捨てたということになります。このまま生きて拘束されて拷問を受けるよりもこの場で死ぬことを選んだのかもしれません」


 ローゼは敢えてキツイ言い方をしてヘスリッヒを批評したのは、私たちに罪悪感を抱かせないための優しさであった。もちろん、ローゼの言っていることは的を得ているのかもしれない。ヘスリッヒがしようとしたことは国家転覆を企む国家反逆罪である。生きて王城に連行されても待っているのは拷問によるきつい取り調べだ。結局ここで死ぬか王城で死ぬかの違いに過ぎなかったのかもしれない。


 「そうね。それにヘスリッヒが死んだからといって全てが解決したわけではないわ」
 「リーリエさん、どういうことかしら」

 「ヘスリッヒが王都に居るということは、エンデデアヴェルトは誰が支配しているの?」
 「それは傀儡兵の部下が留守を任されていると思います。しかしヘスリッヒが死んだことにより傀儡の香の供給が止まるので、次第に傀儡の効果が薄れて、いずれエンデデアヴェルトも平和を取り戻すと思います」


 聖女の香すなわち傀儡の香の虜になった人間は、ヘスリッヒの命令もしくは傀儡水晶での命令に従う操り人形となる。しかし、ヘスリッヒ1人で全ての傀儡兵に命令を出すのは不可能なので、傀儡毒水晶によって強化されたスーパー傀儡兵がヘスリッヒの代わりに指令をおくることになる。これはねずみ講というヘスリッヒの闇魔法スキルである。このネズミ講スキルによって、ヘスリッヒは1人でエンデデアヴェルトと王都にいるすべての傀儡兵を自由に扱えるのであった。ヘスリッヒが死んだことによりネズミ講スキルの効果が消えるので、イーリスの言っていることは正しいことになるのだが、私はどうしても不安が拭いきれない。


 「私もイーリスさんの言っていることは正しいと思います。しかし、わざわざ安全なエンデデアヴェルトを離れて傀儡兵の少ない王都に潜伏していることに合点がいかないのです。ヘスリッヒはとても傲慢で怠惰な性格ですが臆病で卑怯者です。安全な場所を離れて敵地に自分から侵入するのは不可解です」
 「リーリエさん、ヘスリッヒさんは終焉の魔女に命令されて私とイーリスさんを亡き者にするのが目的だと言っていました。ヘスリッヒさんは終焉の魔女に逆らうことができなかったからだと思います」

 「たしかにヘスリッヒはそのように言っていたわ。それならなおさらエンデデアヴェルトを傀儡兵に任せるのはおかしいと思うのよ。終焉の魔女はヘスリッヒを使ってエンデデアヴェルトを支配した。その次の布石が王都で傀儡兵を増やしつつローゼとイーリスさんを殺すことだったはずよ。でも、その間にエンデデアヴェルトが陥落すれば身も蓋もないはずなの。終焉の魔女はヘスリッヒを王都へ向かわせて、別の誰かにエンデデアヴェルトを任せた気がするのよ」


 ゲームでは怪しい宗教がエンデデアヴェルトで布教されているという噂程度の情報だったので、国王陛下はエンデデアヴェルトにそれほど注視していなかった。そのため、突如現われたエンデデアヴェルトの傀儡兵と王都に潜伏していた傀儡兵によって王都は陥落する。これは不意を突かれたからこそ達成したバットエンディングである。しかし、リアルではエンデデアヴェルトは危険な状態だと判断して、情報規制をしながら内密に準備をしていると思われる。王国は万全の体制でエンデデアヴェルトを迎え撃つ準備をしているので、ゲームと状況はかなり異なっている。そのことを鑑みると、ヘスリッヒが死んだことで一安心するのは危険だ。


 「リーリエさんが不安を抱いているのは理解しました。それならば早急にドナーさんに報告して対処してもらいましょう」
 「私もそのように思います」
 「わかったわ。どうせ現状を報告しなければいけないので、私の感じる嫌な予感も報告するわ」


 ヘスリッヒが死んだからといって平穏が訪れるわけではない。ヘスリッヒはゲームでは序盤の中ボス程度の扱いである。今もなお終焉の魔女の手下の魔女が王都を陥落させるための準備を着々と進めているはず。ゲームの順番では次はロベリアの番になるのだが行方はわからない。


 「リーリエ、大丈夫か」


 兄が息を切らしながら泣きそうな顔をして占い館【フルーフ】に入って来た。


 「お兄様、もう戻られたのですか」
 「はぁ~、はぁ~」


 兄は両手を地面に付け、額からは多量の汗が流れ落ちる。兄は私のことが心配でヘスリッヒのことを報告すると王城から駆け足で戻って来た。


 「メッサー様、落ち着いて深呼吸をしてください。私が回復魔法をおかけします」


 ローゼは兄の背中をゆっくりと撫でながら回復魔法をかけた。すると兄は疲労を回復して血相のよい面構えになる。


 「ありがとう、ローゼ嬢」


 兄は柔らかい笑みを浮かべてローゼに感謝を述べる。


 「当然のことをしたまでです。王城への報告お疲れさまでした」


 ローゼの優しくて眩しい笑みを見た兄の顔は少し赤く染まっていたかのように見えた。


 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『愛して尽して、失って。ゼロから始めるしあわせ探し』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

ヒロインでも悪役でもない…モブ?…でもなかった

callas
恋愛
 お互いが転生者のヒロインと悪役令嬢。ヒロインは悪役令嬢をざまぁしようと、悪役令嬢はヒロインを返り討ちにしようとした最終決戦の卒業パーティー。しかし、彼女は全てを持っていった…

転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。

よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

処理中です...